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『氷焔』 消え去る事はなくとも、薄れゆくのが自然だろう。 忘れたくて忘れられない事もあれば、忘れたくないのに忘れてしまう事もある。それは、その願いに対する執着の成せる意地悪なのか、はたまた優しさなのか──それは私にはわからない。 ただ、ふとした時に引き留めるものは確かにある。

5年前

『氷焔4』 それは胸にくすぶる埋火が、焔の形を取り戻すも、燃え上がる姿そのままに氷に閉じ込められたかの如き。 心も身体も忘れていたのに、何かがどこかに触れた時だけ火柱を上げ、火傷の痕をむし返す。 それは熱さに焼かれた傷なのか、それとも冷たさに──? 答えは出ず、雑踏に立つだけ。

5年前

『氷焔2』 忘れたい理由はない。けれど、憶えていなければならない理由もない。 過ぎ去ったあの人の顔、声、あれほどに追い求めた後ろ姿さえ薄れた。手と身体のぬくもり、感触、そして何より、あの人自身の形さえ、次第に朧気になっているのに。深く深く刻み込んだ事さえ、いずれは風化して行く。

5年前

『氷焔3』 通り過ぎる匂いに、不意に心が立ち止まる。何の匂いだったか咄嗟にはわからないのに、自分がその匂いを知っている事、だけは憶えているのだ。 纏う人の全て──不思議なことに、直接的、つまりは物理的なもの──ばかりが薄れ、触れることなど叶わない匂いの方が己に刻み込まれている。

5年前