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係長とフェブラリーS
高校3年の夏。
3年間、正確には2年半くらい続けたバスケ部をついに引退した。
寂しかった。
中学の時、陸上部に所属していた僕は今まで部活を引退して寂しい。という感情になったことが無かったので、自分でも驚いていた。
最後の試合、僕は出場どころかベンチにいることすらなかったけど、それに対して恥ずかしいとか悔しいという気持ちは無く、
『みんなで勝つぞ~!頑張るぞ~!』という気持ちしかなかった。
今思えば『何を頑張るねん』とツッコんでしまいそうになるがそれは野暮。
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最後の試合を終えた後、
みんなで体育館裏に集まった。
監督が何かを言い、
引退する3年生も順番に何かを言った。
ほとんど覚えてない。
自分が何を言ったかもあまり覚えてないが
『みんなありがとうなあ』とマリンフォードのエースばりに言ったことだけは覚えている。
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後輩もワンワン泣いていた。
こいつは泣きそうにないなと思っていたやつも泣いてた。
それを見てもっと泣いた。
でも同じ3年の係長とあだ名のついてるやつはまったく泣いてなかった。
心なしか普段より悲しそうな表情はしていたけど、泣いてはなかった。
さすが高3にして中間管理職の肩書を一手に担ってるだけのことはあるな。
そう思った。
係長はギリ160センチあるかないかくらいで
ムーディ勝山みたいな顔をしていてちょっと歯がでていた。
その小さな身体にパンパンに市役所の雰囲気を詰め込んだような男だった。
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死んだ魚のような目をしてる人を思い浮かべてください
『ばっかもーん!そいつが係長だ!!!』
夕暮れ時の学校でポロシャツを着ていそいそと歩いている彼をみると、まるで自分が市役所に迷い込んだかのような錯覚をすることもあった。
あれ?ここ学校やんな?
と思ったことは数知れない。
The 係長という感じで当時を振り返ると高校生らしからぬ謎の風格すらあったように思う。
係長は中学から高校まで合わせて約6年間バスケをしていたものの、最後までベンチメンバーにえらばれることはなかった。
もっとも、僕たちのチームにはミニバスからやってるやつも居たし、体格に恵まれたやつも多くいた。
他のスポーツと比べて体格も大きなファクターになってくるバスケという競技では、そういった意味で不利だったこともあるだろう。
もっとも僕だってベンチメンバーにすら選ばれてないのだから、人のことは言えない。
しかしそんな僕や係長にも最後の試合というのはあった。
僕の高校のバスケ部はその地区ではそれなりに強いほうだったので、地区予選の1回戦などでは前半で相手チームにダブルスコアをつけることも容易だった。
そうなるとスタメンは前半でベンチに下がり
普段あまり試合に出ることのない2軍、3軍の出番となるのだった。
監督はタイムアウトを取り
みんなを前にこういった。
『全員得点や』
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スラムダンク実写化するならブッキングします
要はベンチメンバー全員で
得点しようということだった。
残りは2Q、約20分。
1人、2人と得点を決めついに残ったのは僕ともう一人、そして係長だった。
監督は再びタイムアウトを取りそれぞれに指示をだした。
監督は僕に
『ボールもらったら切りこんでもええし、
外から打ってもええ』
そしてもう1人に
『ゴール下でパスもらって
そのまま決めたらええ』
そして最後に係長へ・・・。
なにかいうのかと思ったら監督はニヤリと笑いながら、他4人のメンバーに向かって
『お前ら、●●(係長)のシュートレンジわかるな?そこでボールわたせ』と言った。
僕たちは顔を見合わせた。かぐや姫が結婚にあたって貴族たちにだした条件くらい無理難題だった。
なぜなら係長はその身体の小ささと独特のシュートフォームのせいで、絶妙な位置からでしかシュートを入れることが出来なかったからだ。
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ほんまに、あの、ゴールから絶妙な距離だ!
近すぎるとゴール下のデカいやつにシュートコースをふさがれて叩き落されるし、スリーポイントラインからはシュートが届かなかった。
残り8分程でそんな不可能を可能にすることが出来るんか・・?
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僕たちは不安に思いながらも再びコートへ戻った。
残り7分、僕はスリーポイントラインでフリーになり、絶好のパスをもらって無事にシュートを決めることが出来た。
残り4分、もう1人のチームメイトもゴール下にドリブルで切り込みシュートを決めた。
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残り2分。
係長は孤独の中、コートに立っていた。
係長の額を汗がつたう。
『全員得点』の4文字が
係長の肩に重くのしかかる。
僕たちはパスを回した。
なんとか相手に隙を作る。
なんとか係長にとって
絶好の位置でパスを渡す。
コートに立っている係長以外の4人は同じ気持ちだった。
そうして作った絶好のチャンス。
係長にパスが回った。
『『決めろ!!!!かかり!!!』』
全員が息を呑んだ。
係長は絶好のパスを受け取りその場でシュートを打てばいいものをなぜかドリブルで切り込んだ。
『『『いける?!?!
き、決めろ!!!!!』』』
全員がそう思った。
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係長は翔んだ。
自分のやってきた6年を背負って。
係長は飛んだ。
誰よりも高く、誰よりも強く。
僕にはその姿がまるで大きな
1羽の鷹に見えた。
トンビが鷹になった瞬間だった。
思いっきり叩きつけられた。
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これ以上ないくらい完璧にブロックされた。
無慈悲にも係長の放ったレイアップシュートはゴールポストに触れることなく地に堕ちた。
万事休す、係長は鷹にはなれないのか。
そう思った瞬間。
『『『ピーッッッッ!!!!!!!』』』
笛が鳴った。
ファールだったのだ。
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『『『よかった!!!!!』』』
みながそう思った。
これでフリースローが2本貰える。
係長がゴールを決めるチャンスがもらえる。
みなが安堵する中、ただ1人係長は
フリースローラインへと歩み出した。
その歩みは力強く、その背中はかつて僕に見せた市役所の人の背中などではなかった。
覚悟を決めた男の背中。
範馬勇次郎くらいデカい背中だった。
今までいろんなことを中間管理職さながら
右から左に受け流してきた係長。
今回ばかりは受け流すわけにはいかなかった。
真正面から、誰にも邪魔されず、
自分のしてきたことを証明するしかなかった。
シンと澄み渡るコートで係長は
1本目のシュートを放った。
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活きのいいエビみたいな
シュートフォームだった。
その小さな身体を『く』の字に曲げて持てる力全てを使ってシュートする。
アツい、魂のこもったシュートだった。
係長の手から放たれたボールは
綺麗にゴールへ吸い込まれた。
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『『『うおおおおおおお!!!!!』』』
体育館中が、沸いた。
僕はその当時スラムダンクを読んでなかったけど今思えば山王戦くらい沸いていたと思う。
そして2本目のシュート。
普通に外した。
1本目外して2本目で決めたらカッコええのに。と少し思ったが、1本目で決めて2本目外して終わるのも係長らしいなと思った。
試合を終え、コートに礼をする係長の横顔は
少し嬉しそうな、少し恥ずかしそうな、
しかし確実に成長した男の顔をしていた。
彼は6年をかけて最後の最後に1本の
フリースローを決めた。
何本も決める必要はない。
たった1回。
ここぞという1回で決めれば良い。
それで伝説になれるのだから。
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〜フェブラリーS〜
本命
◎ペプチドナイル
現在14番人気。
100回中1回でいい。
問題はここでその1回を引けるかどうか。
男ならやらないといけない時がある。
ぜったい引けない時がある。
俺は今日、帯を取る。
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