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Frank OceanのCoachellaでのパフォーマンスについて・雑感

4月14日〜4月16日、4月21日〜23日の2週に渡って開催された世界最大級の音楽フェス、Coachella。
ここ数年はYouTubeでライブ配信されている事もあって、音楽ファンにとってお馴染みの1年に1度のお祭りとなっています。
Bad Bunny、BLACK PINKと共に今年のヘッドライナーを務めたFrank Ocean。
彼のパフォーマンスが賛否両論となっている事は皆さんご存知でしょうか?
Twitter上でも様々な感想や意見が大量に投稿されていて、自分も何か発言しようかとも思ったんですが、上手くまとめられそうになかったのでやめました。
もう終わった事だしスルーしようかなとも思ったんだけど、いつか今回の事を思い出す時に自分の思いを記録しておく事は何か意味がある事なのかもしれないなと思い記事にしてみようかと思います。
今回はFrank OceanのCoachellaでのステージを受けて自分が感じた個人的な感想や、彼の今後に期待する事などについて書いてみます。

まず今回のFrank OceanのCoachellaでのパフォーマンスが何故物議を醸しているのかをざっくりですがまとめてみようかと思います。
Frank Oceanは2016年にリリースした「Blonde」を最後にアルバムをリリースしておらず、その後は不定期に楽曲を発表したり、2021年には「Homer」という高級ジュエリーブランドを設立するなど、音楽活動とは少し距離を置いたと言える状態でした。
ライブ自体も2017年にフィンランドで行ったのを最後にやっておらず、今回のCoachellaでのパフォーマンスが約6年振りのステージでした。
近年のFrank Oceanの活動についてはPitchforkがまとめていたので興味のある方は見てみると面白いと思います。

2020年に一度Coachellaのヘッドライナーとして出演が発表されたんですが、コロナウィルスの影響で開催自体が延期となってしまい流れていたんですよね。
つまり彼のファンにとって今回のステージは本当に待望の、念願の舞台だったわけです。
しかし、いよいよ出演する当日になり一気に雲行きが怪しくなります。
まずYouTubeでのライブ配信を行わないという発表がされました。
これにより会場で直接観る事が出来る観客以外の世界中のファンは大混乱に陥りました。
藁をもすがる思いで会場にいる観客のInstagramやTikTokのライブ配信を探し回る様子が見てとられ、この時点で多くのファンから不満が続出していましたよね。

さらに、ライブ開始時刻の現地時間22時頃を過ぎてもFrank Oceanは姿を見せず、結局パフォーマンスを開始したのは1時間遅れの23時頃でした。
結果的にこの事が原因となり、会場の退去時間の0時を過ぎてしまいライブは中途半端な状態で打ち切られた形で終了してしまいます。
ちなみにBad Bunnyがパフォーマンスを行った金曜日、BLACK PINKがパフォーマンスを行った土曜日の退去期限は午前1時で、Frank Oceanの日だけ1時間短いんですよね。
観客からは当然不満の声が上がり、1時間半足らずで急に終了してしまったライブを配信で観ていたファンからも、何かトラブルがあったのか?はたまたこういう演出だったのか?など様々な戸惑いの声が上がっていました。

そしてライブから一夜が明け、様々な情報が様々なメディアによって報じられました。
まずFrank Oceanはライブのリハーサル中に乗っていた自転車から転落し怪我をしていた事が明らかになり、足首の捻挫、もしくは骨折と診断されたというものでした。
この事が原因となり予定していた演出やセットなどは一旦白紙となり、かなりの急ごしらえでなんとか間に合わせるような形でライブを行ったんだそう。
ライブの演出にはアイススケートのリンクを使用する事が予定されていて、オリンピック出場レベルの実力を持ったフィギュアスケート選手やアイスホッケー選手も参加予定だったみたいです。
この時の裏側の混乱の様子や出演予定者のインタビューがBillboardのこちらの記事で詳しく書かれていたので、気になる方はチェックしてみてください。

Frankは翌週のパフォーマンスに意欲を見せていたそうですが、医師の判断により2週目のパフォーマンスはキャンセルされるという最悪の結末を迎えてしまいます。
Frankは代理人を通して「カオスだった。カオスの中にも美しさがある。見せようと思っていたものとは違うけど、そこにいた事を楽しめたし、またきっとすぐに会える。」とコメントしています。
これが今回起こった事のざっくりとした全容です。

ライブの内容やパフォーマンスについてはこの後触れるとして、怪我を含めた今回のこのような事態に関しては、もう残念としか言いようがないです。
会場に実際観に来ていた観客の人々の気持ちや、ライブ配信を楽しみにしていたファンの人々の気持ちを考えると、批判の声が上がってしまうのも無理はないというか、準備不足だったと言われても仕方ないのかなと個人的には思いました。
もちろん、怪我を受けてFrankを含めスタッフは相当混乱したでしょうし、中止だけはしないように何とかセットや楽曲を再構築し間に合わせたのは評価すべきポイントではあるんですけどね。
YouTubeでの配信を直前でキャンセルしたのも、本来準備していた演出とは程遠い内容を見せる事への違和感が理由なのだと思いますが、その説明がないまま急にキャンセルの発表がされたわけで、もう少し伝え方に工夫があればここまでの混乱にはならなかったのかなと思いました。
そして2週目のパフォーマンスのキャンセルに関してですが、これも本当にいたたまれないというか…。
Frankの生のパフォーマンスを観るために世界各地から多くの人がこの地を訪れているわけで、それには金銭的な部分も含めて多くの犠牲が伴っていると思うんですよね。
目前に迫っていたFrankのライブがドタキャンされてしまうというのは、当事者でなくても辛いものがあります。
もちろん、怪我をしてしまったからしょうがないと思う部分もあるし、そんな状態でライブを行うべきではないというド正論に納得せざるを得ないところもあるんですが…。
なんで直前に自転車乗って怪我しちゃうかねー、というのが正直なところですかね。
まぁFrankは「Biking」という曲を作るくらい自転車好きなんで、妙に納得出来る部分もあるんですが。

ここまでライブの開始時間の遅れや2週目の出演のキャンセルなど、ライブをめぐる様々なトラブルについて色々語ってきたわけなんですが、ここからはパフォーマンスについて感じた事を書いていこうと思います。
自分は多くの人と同じく、当日は誰かも分からないアカウントのInstagramのライブ配信でかろうじて観ていたという感じです。
途中で音や映像は途切れるし、その音や映像自体もお世辞にも良い状態とは言えない粗雑なものだったので、なんとなく会場の空気感や雰囲気は味わえたかなというレベルでした。
その後YouTubeに投稿されていた動画で一応全編観る事は出来ました。
ここから先は今回のライブをある程度は観たという前提で書いていくので、まだご覧になっていない人はYouTubeなどで観てみてください。
Coachellaは映像管理に厳しい事でも知られているのでその内削除されてしまう可能性が高いですが、まだ探すことは出来るかと思います。

こちらが今回のライブのセットリストですね。
まずライブステージのセットですが、メインステージの大きなビジョン、その下、というか中にはたくさんの機材がラフに置かれたスタジオのような雰囲気の作りになっていたのが印象的でした。
恐らく怪我による演出の変更によりこのような状態になったのだと思いますが、それを知らない時点ではFrank Oceanらしいなというか、「Endless」を思わせる生々しい剥き出し感があるステージだなという印象でした。
ちなみにライブ開始時に出てきた目出し帽を被った無数の行進する人の群れは、先程も紹介したアイススケートの演出で登場予定だった人達だったんだそうです。
1曲目は歌詞の中にCoachellaという言葉も出てくる「Novacane」で、ドラムのビート感がパワーポップを思わせるアップテンポなバージョンになってました。
今回のライブでは他にも原曲とは違うアレンジにサウンドをアップデートしていた曲も多く、テクノ・ハウスなアレンジの「White Ferrari」や、ピッチを高速にした変則的なビートの「Solo」あたりは特にカッコよかったですね。
今回のライブでミュージシャンとして参加していたのは、「DHL」や「Dear April」など近年のシングル曲でFrankと共同でプロデュースを手掛けているDaniel Aged(Inc. No Worldとしても活動していた)や、ドラマーとしてClairoなどのライブに携わっていたEddie Burns、そしてSolangeやRosalía、Daniel Caeserなどの作品にも参加していたSir DylanことDylan Wigginsといったメンバーで、今後の音楽シーンで益々活躍するであろうホットな人選でした。

ライブ中盤にはパリを拠点に活動しているDJ、Crystallmessが登場し、Frank Oceanの楽曲と別アーティストの楽曲をマッシュアップさせたり、ジャージークラブ風にリミックスしたりと、かなりクラブミュージック色の強いアグレッシブなテイストのセットが繰り広げられました。
Underworldの「Born Slippy」やIce Spiceの「In Ha Mood」なども流れてましたね。
ちなみにCrystallmessが使用していたCDJは、Frank Oceanとも生前親交が深かった故Virgil Ablohが使用していたものだったそうで、彼への追悼の意味が込められていたみたいです。
この時警備員に扮してトワーキングのパフォーマンスをしていた男性はHa Sizzleという人で、Frankの生まれ育ったニューオリンズで活動をしているバウンスミュージックのアーティストだったそうです。
ニューオリンズのバウンスミュージックを世界の人々に向けて紹介する意味で彼を起用したんだと思いますね。
その後のMCでFrankも言ってましたが、ここ数年の彼の数少ない音楽的アウトプットの場ともなっている「Homer Radio」というApple Musicでのラジオ番組での選曲からも伺えるように、彼の最近の音楽のモードはこういったクラブミュージックから強く刺激を受けていますよね。
2020年頃のロックダウンを機にクラブミュージックに傾倒していったみたいですね。
この番組、彼の音楽的な好みを知れるのももちろんの事、最新の音楽の、というか今後流行するかもしれない音楽のトレンドをいち早く知れるという意味でも非常に面白いので、ぜひチェックしてみて欲しいなと思います。

その後「Godspeed」や「Self Control」などアルバム「Blonde」収録の人気曲をパフォーマンスしたんですが、「Nikes」や「Nights」ではマイクを持たずにいわゆる口パクでパフォーマンスを行っていたみたいで、そこにも批判の声が上がっているようです。
これに関しては微妙なところなんですが、個人的にはそこまでマイナスな印象は無かったのが正直なところでした。
もちろん実際に歌う方が良いのは間違いないのですが、観客との一体感を感じる意味でマイクを客席に向けるアーティストはたくさんいるわけで、その延長みたいなニュアンスで自分は観てましたね。
このリップシンクについての問題は人によって捉え方が異なると思うので難しいところですが、その音楽性やジャンルによってかなり変わってくるというのもあるのかなと思うんですよね。
自分達で演奏するバンドだったり、歌の上手さが売りのシンガーだったり、生のパフォーマンスで勝負しているミュージシャンのライブは、観ていて本当に圧倒されるし、体全体で音を浴びているような迫力があります。
自分はそういうアーティストのライブを観たり体感するのが好きだし、それがライブの醍醐味だと思うんですが、じゃあ全部のアーティストにそれを求めているかというとそうでもないんですよね。
自分は割とヒップホップやR&B、最近だとクラブミュージックなんかを聴く事も多く、そういうアーティストのライブを観る機会も多いんですが、正直結構あんな感じです。
もちろん全曲きちんと歌ってる人もいるし、ダンスパフォーマンスなどをしながらだから仕方ないところもあると思うんですけどね。
まぁでも結構客に歌わせるなぁこの人、と思ったり、基本バックでDJが流す音源に被せるように歌って、サビなどの盛り上がる部分はちゃんと自分の歌で届ける、みたいなスタイルのライブをする人も少なくないのかなと思います。
今回のFrank OceanのステージはCoachellaだし、ヘッドライナーだし、そんな栄誉ある場であんなパフォーマンスをするなんて…という意見があるのも分かるし、実際現場で観ていたらえっ…と感じていたかもしれませんが、少なくとも自分はあまり気にならなかったです。

Frank Oceanは昔から生のパフォーマンスがそこまで得意な方ではないし、本人もそれは自覚してると思うんですが、彼の魅力はそこではないと自分は思っていて、彼の音楽は大勢で聴いて楽しむというよりは1人でじっくりと聴き込みその世界に浸るみたいなものだと思うんですよね。
だからそもそもこういった大舞台で本領を発揮するタイプでは無いというか、同じヘッドライナーでも例えばBeyoncéと比べてしまうとそりゃ見劣りするというか。
BeyoncéのCoachellaでのステージは、もう今後アレを超えるものは無いんじゃないかというレベルの完成度の高さだったので、比べること自体がナンセンスな気もしますね。
Frankって大舞台で映えるスターというよりは、めちゃくちゃ音楽が好きなオタク気質なお兄ちゃんが実は歌も上手かったみたいな。
彼の仲間のTyler, the Creatorとかもそうなんですが、どこか素人っぽさが残ってる親近感があるというか、リスナーととても近い感覚を持っている人な気がするんですよね。
だからこそ彼の歌声はスーッと心に沁みてくるし、時にはグサっと突き刺さるし、彼の音楽を好きなファンの多くが歌唱力やパフォーマンス力といったテクニカルな部分ではないところで彼に惹かれているんじゃないかなと思います。
Frank Oceanの作る音楽は決して分かりやすいものではないし、なんでこんなに人気なのかよく分からないという人も多いのかなと思います。
彼の魅力を上手く言葉にして伝えるのは難しいんですが、自分にとっての最大の魅力はその声なんですよね。
感情や経験など色々な情報を含んだ声というか、清も濁も入り混じった声というか。
ライブの最後に演奏されたThe Isley Brothers、というかAaliyahのカバー曲「At Your Best (You Are Love)」の歌声は本当に美しかったし、他の誰とも違う唯一無二の魅力を持った声だなと改めて思った瞬間でした。

曲間でモタモタとした時間が流れたり、準備不足が垣間見える瞬間が度々あったり、ライブとしての完成度は高かったとは言えないレベルでしたが、Frank Oceanがそこにいてパフォーマンスをしているというだけで自分にとっては十分過ぎるほど美しい光景でした。
唐突に終わってしまった事も含めて、彼が当初準備していた本来の内容を観る事が出来なかったのは非常に残念ですが、それも含めてFrank Oceanっぽいなとも思うんですよね。
「Nostalgia, Ultra」、「channel ORANGE」、「Endless」、「Blonde」。
彼のこれまでの作品もすんなりとリリースされたものはほとんど無くて、その度にファンはヤキモキした思いをしたものです。
彼の作品は極限まで完成度を高めたデモ音源のような質感もあったり、そんなラフな部分も魅力だったりするのかなと思います。
もちろんそんな感じでCoachellaのヘッドライナーを務めるべきではないという意見も分かります。
ただ今回Frankが出演を決めた理由は、本人も語っていましたが2020年に18歳の若さで交通事故で亡くなってしまった弟、Ryanとの思い出の場所がCoachellaだったからでした。
男性優位主義だった父親から肉体的・精神的苦痛を受けながら、Frankや母親、Ryanは身を寄せ合って生きていました。
14つも歳が離れた弟の死が彼の心にどれだけの傷を与えたかは想像を絶します。
Ryanと一緒に観に来たCoachellaにヘッドライナーとして立つ。
Frankが復帰の舞台にCoachellaを選んだ理由はこれ以上でも以下でもなかったんだと思います。
今年のCoachellaはBad Bunnyがスペイン語圏のアーティストとして史上初、BLACK PINKがアジア人アーティストとして史上初めてヘッドライナーになった革新的な年でした。
それぞれの国や文化を背負い立派にその役割を務めた彼らの勇姿は見事でした。
Frank Oceanと彼らとではステージに立つ理由や動機が全く違っていたんですよね。
FrankはFrankの魅せ方ややり方でパフォーマンスをしたかったはずだったと思うので、なおさら今回のような結果になってしまい残念だったなと思います。

最後に、これからのFrank Oceanに期待する事を個人的な想いも含めて書いていきたいと思います。
今回のライブの中でも既存の楽曲を違ったアレンジで披露していましたが、そこは本当に見応えがあったなと思います。
今回はまだ新曲という形でお披露目される事は無かったですが、彼の音楽に対するパッションとか挑戦心みたいなものは感じる事が出来たように思いました。
先程も触れた「Homer Radio」での選曲などからも、彼がハウスやテクノ、レゲトン、ヒップホップなどなど本当に様々なジャンルの音楽を聴いている事が分かります。
彼がサウンドメイカーとして優れているのは、リスナーとして幅広く音楽を聴いている事も大きな要因だと思っていて、それを自分のサウンドに反映させる柔軟さを持っているんですよね。
今回のライブでも新作アルバムに関して少し触れていましたが、まだ完成はしていないけど存在していないわけではない、との事でした。
リリースがいつになるのかはFrank自身も分からないのだと思いますが、彼が今回のライブを経験した事が良い方向に向かえばいいなと思います。
今回の事で離れてしまったファンもいるだろうし、多くのファンを失望させてしまった事は紛れもない事実なので、音楽活動を通して誠意を見せるというか、音楽活動で再び納得させてもらいたいなと思います。

今回のライブを観て、自分の中のどこかにモヤモヤした気持ちがあって、Twitterなどで様々な意見を目にしてそのモヤモヤはますます大きくなる一方でした。
今回このように自分の思いを文章として吐き出せた事で、そのモヤモヤも少しはスッキリしたような気がします。
最後まで読んで頂いてありがとうございました!


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