2021年 1-3月個人的ベストアルバム・EP
早いもので今年ももう1/4が終わろうとしています。
去年から大きく何かが変わることもなく、もはやこれが今後ずっと続いていく日常のような気もしてますが、下ばかり向いてはいられないのでなんとか無理にでも前を向いて日々を過ごしている感じです。
この3ヶ月もたくさんの音楽に触れ、その新しさや懐かしさに驚き癒され、日々の暮らしを豊かにしてくれる力をもらっていました。
今回は自分がよく聴いていた作品を30作ピックアップしてみました。
そこまで大きなリリースはなかった気もしますが、何度も聴きたくなる味わい深い作品とたくさん出会えましたね。
今回のリストでまだ聴いていない、チェックしていない作品と出会えたなら何よりです。
少しでも興味を持った作品は是非とも聴いてもらえたらなと思います。
長くなりますが最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
ではどうぞ!
Jazmine Sullivan 「Heaux Tales」
今年1発目にどハマりしたのがJazmine Sullivanのこちらの作品。
14曲収録ではあるけど本人的にはEPとしてリリースした作品みたいですね。
浮気、セックス、金、差別、見栄。
女性の内なる心情の機微をソウルフルに、ダイナミックに歌で表現し、ヒップホップやエレクトロを程良くブレンドさせつつ王道のR&Bサウンドに着地させた圧巻の完成度はさすがでした。
まぁでもとにかくヴォーカルの凄さですよね、この人は。
音域とか抑揚とか、細かなフレーズの動きとか、単純な歌唱力だけでなくテクニカルな部分も含めて今最も優れたヴォーカリストの1人が彼女でしょうね。
Brandyとかもそうなんだけど、声の使い方や動かし方が本当に巧みなんですよね。
同じ系譜にいるH.E.R.とのデュエットも素敵でした。
Bicep 「Isles」
ロンドンベースのユニット、Bicepの新作AL。
緊張感のあるアグレッシヴなビートに躍動感あるトランシーなシンセと奇怪なヴォイスサンプルが絡んだ新感覚ダンスミュージック。
今回ヴォーカルが加わった楽曲がいくつかあってそれがどれも素晴らしい出来でしたね。
90sR&B経由のUKガラージ〜フットワークな「Saku」と「X」の2曲に客演してるのは、去年のYves Tumorのアルバムにも参加してたClara La San。
キレ味鋭いトラックとクールな声質が絶妙にマッチしてて、この人の今後の動向にも注目ですね。
部屋の中を一瞬にしてレイヴ会場へと変えてしまうような一枚です。
Still Corners 「The Last Exit」
ロンドンベースのデュオ、Still Cornersの通算5作目となるアルバム。
前2作から続く「ロード3部作」の最終章にあたる作品のようで、彼らの持ち味である旅情感溢れるドリームポップサウンドは今作でも健在でした。
アルバムジャケットや収録曲名からも分かるように砂漠の風景というのも今作のキーになっていて、砂漠の持つ荒廃感や虚無感、広大さや神秘性といったイメージが作品全体に散りばめられていますね。
女性ヴォーカルMurrayの少しやさぐれた、それでいてミステリアスな声も、楽曲をより妖しい色に染めています。
この辺りはFleetwood Mac、特にStevie Nicksからの影響を強く感じましたね。
アメリカーナ色の強いロードムービーを観ているような感覚がクセになる一枚でした。
Madeline Kenney 「Summer Quarter」
オークランドベースのSSW、Madeline Kenneyが去年のアルバム「Sucker」からわずか半年でリリースしたEP。
アルバムのツアーを予定していた彼女が、コロナの影響で中止を余儀なくされた中で制作した初のセルフプロデュース作ですね。
これまではレーベルの発起人でもあるToro y MoiことChaz BearやWye OakのJenn Wasnerが制作に関わっていましたが、今作はレコーディングも含めて彼女が主導して作られたようで、また違った作風になってました。
過ぎ去っていく夏の終わりを感じさせるような寂しさや切なさが楽曲のテーマになっている感じで、それは叶わなかったライブツアーへの彼女の想いとリンクするかのようで。
落ち着いたギターポップのようでもあり、どこかアンビエントな響きにも聴こえる不思議なサウンドがとても面白い作品でした。
Logic1000 「You’ve Got the Whole Night to Go」
オーストラリアはシドニー出身で現在ではベルリンベースのDJ、Logic1000の新作EP。
彼女を見出したFour Tetとも通じる有機的なハウス〜テクノサウンドがとにかく心地良い作品でしたね。
90sディープハウスっぽいR&B色の強めな雰囲気もありつつ、トランス由来のレイヴィーな電子音の粗々しさも感じる、とても上手く作り込まれたダンスミュージックという印象。
4トラックがそれぞれに違う特色で違うベクトルなので、この1枚さえ聴いておけば今のダンスミュージックシーンが丸ごと楽しめるとすら思える、全方位対応タイプの優れた作品ですね。
Arlo Parks 「Collapsed in Sunbeams」
ロンドン出身のSSW、Arlo Parksの待望のデビューアルバムは鮮烈でしたね。
先行曲が出る度に期待感を高めていたけど、まさかここまで上手くまとめてくるとは…。
10sの音楽を聴いて育った世代だからこそ鳴らせる、多様なジャンルのブレンド具合とその自然さがマジでセンス良すぎですよね。
彼女自身、影響を受けたアーティストとしてFrank OceanやPortishead、Radiohead辺りを挙げてて、彼らの音作りのメソッドや手の加え方は確かに受け継いでる感じありましたね。
アルバムにも参加している同世代の仲間であり友人でもあるClairoと共に、20sの音楽シーンの中心に躍り出ることを確信出来るような圧巻の完成度でした。
Madlib 「Sound Ancestors」
Madlib個人名義としては意外にも初となるフルアルバム。
とは言え実質的にはFour Tetとのコラボ作という側面もあるのだけど、2人の音の魔術師の共演ということで予想通りの傑作に仕上がってましたね。
Madlibらしいオールドスクールなソウルネタ使いのドープなヒップホップをベースとしながら、Four Tetのアレンジやエディットによって良い意味でマイルドに、そしてソリッドに仕上げられていて、音の配置の仕方がやはりこれまでのMadlibのそれとは違うなという印象でしたね。
簡単に言うと滑らかというか、Madlibのサウンドの味でもあった音の表面のざらつきのようなものが均されている感じというか。
この2人が組む意味がきちんと感じられるサウンドに着地しているのが流石だなと思いましたね。
Buzzy Lee「Spoiled Love」
LAベースのSSW、Sasha Spielbergによるソロプロジェクト、Buzzy LeeのデビューAL。
プロデューサーにNicolas Jaarを迎えた気品漂うアダルトなポップサウンドが心地良くて。
必要最低限に絞った引き算のプロダクションが素晴らしく美しい…。
この人、父親はあの映画界の巨匠Steven Spielbergで、Nicolas Jaarとは大学時代の友人だそうで、JPEGMAFIAのアルバムにも参加していたりとかなり面白い経歴をお持ちなんですよね。
ユニークな発想がサウンドにも映像にも表れていて目が離せない存在です。
部屋でしっとりと聴き入りたい一枚です。
Lia Ices 「Family Album」
ニューヨーク、ブルックリンベースのSSW、Lia Icesの約7年振りとなるアルバム。
ゆったりと部屋の中で読書でもしながら聴きたいような、長閑なフォーク・ポップサウンド。
この作品を制作していた期間、彼女のお腹にはお子さんがいて、だからこそのこんな温かく柔らかな響きなんでしょうね。
そしてこの作品を手掛けたのはGirlsのメンバーでもあったChet “JR” Whiteなんですよね。
彼は昨年10月に40歳という若さで亡くなってしまったんだけど、この作品が彼にとって生前最後のプロデュース作だったわけですね。
自分は彼が2015年にプロデュースしたTobiass Jesso Jr.の「Goon」というアルバムが大好きなんですが、Liaのこの作品もどこか近い雰囲気を感じましたね。
The Weather Station 「Ignorance」
カナダはトロントベースのバンド、The Weather Stationの最新アルバム。
女優としてのキャリアもあるヴォーカルのTamara Lindermanが中心の彼らのサウンドは、レイト80s期のFleetwood MacやTalk Talkあたりの残像がちらつく、洒脱でコンテンポラリーなアートポップサウンドといった佇まい。
クールで落ち着いた響きをジャズを絡めた巧みなアレンジメントで徐々に高揚させていく展開が見事でしたね。
ストリングスやサックスの華麗な音色がサウンドに華やかな彩りを加えてるんだけど、さらに上品なアクセントとして効いてるのがTamaraの声ですね。
彼女のアダルトで妖艶なヴォーカルの響きがサウンドをより洗練された仕上がりにグレードアップさせてる印象でした。
Sun June 「Somewhere」
テキサスベースの5人組バンド、Sun Juneのセカンドアルバム。
澄んだ空気の自然の中を散策しているような、清々しくゆったりとした時間が流れるドリームポップ〜フォークサウンド。
前作もその年のベストリストに選んだ記憶があるんだけど、今作はよりマイナスイオン成分が増したような印象ですね。
ギターの柔らかな揺らぎと包容力のあるヴォーカルの温もりに包まれて、聴いてるとすぐに脱力してしまう。
このアルバムを再生すると、もう何もしたくないという選択しか頭になくなるので、部屋でゆっくり過ごす時や眠りに就く前などに聴くのがオススメですね。
本当に心も体も癒される一枚です。
Nana Yamato 「Before Sunrise」
現在20歳の日本人SSW、大和那南のデビューアルバム。
世界的にも有名な原宿のレコードショップ、BIG LOVEとParquet Courtsのメンバー、Andrew Savage主宰のニューヨークのレーベル、Dull Toolsから同時に全世界リリースという中々の大型新人っぷり。
日本人が海外進出する時にやりがちな、海外向けのよそ行き仕様なホンモノ感を出すわけではなく、あくまで彼女のやりたいDIY感強めのインディーポップに仕上げているのは好印象で、簡素で素材感溢れるシンプルなサウンドがとても面白い作品でしたね。
日本語と英語の響きの違いもあまり気にならないレベルでボソッと歌う彼女のヴォーカルもクセになるんですよね。
今後が楽しみな存在です。
Claud 「Super Monster」
現在21歳のブルックリンベースのSSW、Claudのデビューアルバム。
先程挙げたArlo ParksやClairoと並べて聴きたい、フレンドリーにノンストレスで耳にスーッと馴染んでくる良質インディーポップ。
良い意味で未完成な若さや青さやいなたさが歌詞やサウンドに表れていて。
Phoebe Bridgersが設立したレーベル、Saddest Factoryの第1弾アーティストがClaudなんですよね。
ジェンダーのことをいちいち音楽と絡めて語るのはあまり好きではないけど、彼女/彼みたいな存在が普通に現れる世界にいつしか変わったことは素直に嬉しいし、そういう才能をちゃんと世に送り出そうとする姿勢も気持ちがいいですよね。
素晴らしいメロディーセンスを持ったこれからが本当に楽しみなアーティストです。
Indigo Sparke 「Echo」
オーストラリアベースのSSW、Indigo Sparkeのデビューアルバム。
Adrianne Lenkerが制作に携わった生々しくみずみずしいフォークサウンドがひたすらに美しい…。
ほぼギターとヴォーカルのみの雑味の無いシンプルな響きが乾いた体と心にスーッと染み渡っていく感覚。
Adrianne Lenkerと共に音作りに参加してるAndrew Sarlo。
この人近年の良作にかなり関わってて、Big ThiefやBon Iver、Nick Hakim、Puma Blue、Hand Habits、Wilsenなどなど。
シンプルな音で立体感を生み出すプロダクションがいつも見事で、今後も彼には注目しておきたいですね。
今年最も癒しをくれる1枚になりそうです。
Cassandra Jenkins 「An Overview on Phenomenal Nature」
ニューヨーク・ブルックリンベースのSSW、Cassandra Jenkinsの新作アルバム。
穏やかで柔和なフォークサウンドと洗練されたモダンなアンビエントサウンドが見事なバランスで混ざり合って。
緑や風の爽やかな自然の空気の中に都会的な香りを仄かに香らせるセンス…。
この辺りは去年のTaylor Swiftの「folklore」にも参加していたプロデューサー、Josh Kaufmanによる手腕も大きいのかなと思いますね。
どこまでも優雅で軽やかなサックスの音色と、壮大でありながら素朴な質感も持ち合わせたアコースティックな響き。
自分はDestroyerの「Kaputt」や、Weyes Bloodのサウンドが頭に浮かびましたね。
ここではないどこかの得も言われぬ美しさ。
喪失とそこからの再起をテーマにした歌詞もこの時代に寄り添うかのように心に沁みてくる。
傑作です。
Laure Briard 「Eu Voo」
フランス出身のSSW、Laure Briardの新作EP。
ブラジルのバンド、The Boogarinsと共にサンパウロでレコーディングが行われ、ポルトガル語で歌われた楽曲で構成された異国情緒溢れるこの作品。
ボサノヴァをベースにしたトロピカルで小洒落た響きに、フレンチポップの抜け感をアクセントとして効かせたなんとも言えない心地良いサウンド。
前作にはSolangeやSnail Mailを手掛けているJake Aronがプロデュースで参加してて、そちらも非常に洗練されたボッサポップだったんですが今作も最高でしたね。
休みの日にゴロゴロしながら聴くのにピッタリな極上の癒しをくれる一枚です。
Smerz 「Believer」
ノルウェーベースのデュオ、Smerzの待望のデビューアルバム。
クラシカルかつアヴァンギャルドなエレクトロ〜エクスペリメンタルポップサウンドが凄まじい中毒性。
静と動、清と濁、明と暗。
耽美な世界観をキープしつつその佇まいをゆらゆらと変化させながらコントラストを描いていく様が本当に美しい…。
前2作のEPは自分にとって北欧の音楽シーンに再注目するきっかけとして本当に重要な作品で、Erika de Casierも彼女たちとの繋がりから知ったんですよね。
90sR&B感が色濃く出ていた前作までのカラーの方が好みではあるけど、既に自分達にしか出せないオーラを放ってて最高です。
Brijean 「Feelings」
Toro y MoiやU.S. Girlsなどのバンドにパーカッショニストとして参加するBrijean MurphyとDoug Stuartによるプロジェクト、Brijeanのデビューアルバム。
涼しげでスムースなグルーヴ感のジャズ・ソウル〜ディスコ・ハウスは2年前のEPから健在で、バレアリックな心地良さはより一層磨きがかかったような印象。
ラテンなフレイバーも感じるトロピカルなパーカッションのリズムの跳ねがとにかく最高で、一瞬でリゾート地に誘ってくれる極上のサウンドなんですよね。
夏の暑さから逃れるためにこのアルバムを再生しまくっている未来がもう見えますね。
今年の夏の避暑アルバムとしてヘビロテすること確定です。
Karima Walker 「Waking the Dreaming Body」
アリゾナ州をベースに活動しているSSW、Karima Walkerの2作目となるアルバム。
シンセサイザーの浮遊感ある音色が空間を漂い、アコースティックギターの優しい調べが側に寄り添うアンビエント・フォークサウンド。
タイトルの通り夢をテーマにした楽曲が多く、音の感触は極めて曖昧でボヤーっとした響き。
夢と現実の狭間のようなモヤモヤとした彩度の低い描写と、環境音楽にも近い自然の音の揺らぎ、そして必要最低限のヴォーカルの情報量。
じっくり聴き込むというよりは、BGMとして聴き流すことを前提に作られたような雰囲気さえ感じましたね。
睡眠導入剤としてこれ以上ない作品ですね。
Lost Horizons 「In Quiet Moments」
Cocteau Twinsのメンバーとしても知られるSimon RaymondeとDif JuzのRichie Thomasによるプロジェクト、Lost Horizonsのセカンドアルバム。
2つのセクションを前後半に分けて発表するという、最近だとMoses Sumneyもやっていた手法でリリースされた今作。
長年活躍してきた業界の手練れミュージシャン同士の共演とあって、熟練のソウル〜ロックサウンドが堪能出来るいぶし銀な傑作に仕上がってました。
今作にはゲストが多数参加していて、John Grant、C Duncan、Marissa Nadler、Porridge Radio、Penelope Isles、Laura Groves、Ural Thomasなど、若手からベテランまで多岐に渡るアーティストがヴォーカリストとして色を加えています。
ゲストそれぞれのカラーが楽曲ごとに上手く表れていて飽きのこない一枚でしたね。
Wau Wau Collectif 「Yaral Sa Doom」
スウェーデンの音楽考古学者、Karl Jonas Winqvistがセネガルを訪れた際に地元ミュージシャン達とセッションを重ね完成させたという今作。
西アフリカの伝統音楽、スーフィーの賛美歌やスピリチュアル・ジャズ、ダブのリズムを参照にしたというサウンドは、土着性の高いアフリカ民族音楽ならではのパーカッシヴなリズムやその他民俗楽器の音色、現地の子供達の声などが賑やかに顔を出すこれまでに聴いたことのない響き。
どこか儀式的というか、崇高な雰囲気すら感じるんだけど、同時にゆるさもあって不思議なんですよね。
ビートの鳴りなど新しさも要所で感じさせる、最新鋭のアフロポップという感じでとても楽しめました。
Genesis Owusu 「Smiling with No Teeth」
ガーナ出身で現在オーストラリアベースのGenesis Owusuのデビューアルバム。
かつてPrinceやD’Angelo、OutKastがそうしてきたように、ブラックミュージックの枠をぶち壊しその可能性を拡げるジャンルレスで何でもありなサウンドが実に痛快!
ドープでファンキーなグルーヴとパンキッシュな疾走感の混在が最高でしたね。
曲によってはファンクだし、R&Bやソウルっぽくもありパンクロックみたいな感じもあるし、良い意味でばらつきのあるサウンドの展開がとても面白いんですよね。
最大の影響源はやはりPrinceだそうで、自由気ままに見えて実はこだわりのある音作りの作法は受け継がれてる気がします。
Mindy Meng Wang 王萌 & Tim Shiel 「Nervous Energy 一触即发」
中国伝統楽器、古筝奏者のMindy Meng Wangとオーストラリアのミュージシャン、Tim ShielのコラボEP。
古筝の優雅でオリエンタルな音色と、色彩豊かなエレクトロサウンドが見事に融合したモダンクラシカルなダンスミュージック。
華やかに香るアジアンなスパイスがたまらなく好きでしたね。
民族音楽とか古典楽器をポップフィールドに持ち込んで、という手法はそんなに珍しくはないけど、それも洗練を重ねるとここまで上手く現代的な音として響かせられるんだなと。
中華的な音色とアグレッシヴなビートの相性がこんなにも良いとは…。
Lana Del Rey 「Chemtrails Over the Country Club」
Lana Del Reyの約1年半振りの新作アルバムはもう流石の一言でしたね。
アメリカ中西部の雄大な自然を思わすような長閑なカントリー・フォーク調の楽曲が立ち並び、これまでで最もミニマリズムを追求したシンプルな構成はまるで古典映画を観ているかのような感覚。
幻のように儚いのにハッとする程に生々しい…。
アルバムジャケットにもあるように様々な女性達への賛美をテーマにした楽曲も多く、ゲストにWeyes BloodとZella Dayを迎えたJoni Mitchellの「For Free」のカバーで作品を締めくくっていて、Lanaがこの世代の女性SSWの代表としてこれからも進んでいくという心意気が感じられたような印象を受けましたね。
前作に引き続きJack Antonoffをプロデューサーとして迎えていて、彼らの相性の良さを再認識させられた作品となりました。
早くも今年中に新作アルバムが用意されてるというニュースもありますが、アーティストとして完全に覚醒状態に入っていることを確信出来る素晴らしい内容のアルバムでした。
Sofia Kourtesis 「Fresia Magdalena」
ペルー出身で現在ベルリンベースのプロデューサー/DJ、Sofia Kourtesisの新作EP。
故郷マグダレナの街中でフィールドレコーディングされた音源をベースに制作したという、臨場感溢れるハウスミュージックがとにかくクール!
タイトルのFresiaとは彼女の母親の名前だそうで、家族との繋がりや地元への想いが込められた、ただクールなだけじゃない人間味のある泥臭さみたいなものも感じるサウンドなんですよね。
南米ならではのエスニックな香りが独特の異国情緒と神秘性を作品全体に纏わせている感じ。
サンプルの使い方やサウンドの組み立て方がとても遊び心に溢れていて、聴いてて自然と気分が高揚してくるような魅力がありますよね。
冷たく無機質な印象のあるクラブミュージックですが、こういう仕上げ方もあるんだなと思わされた一枚です。
Vegyn 「Like A Good Old Friend」
サウスロンドンベースのプロデューサー、Vegynの新作EP。
2019年末にリリースしたデビューアルバムで2020年代の音楽シーンが進む方向を先取りして示していたVegyn。
Frank Oceanの最近の作品にほぼ全て関わるなど現在最も注目すべきプロデューサーの1人となった彼の最新作は、前作の延長線上にある作品と言える仕上がりになってました。
エレクトロやヒップホップを基軸として、ヴォイスサンプルをコラージュアートのように散りばめながら、心地の良い音のみをレイヤードさせていくようなスタイル。
様々な種類の響きが雑多に混在しながら、美しくアンビエントな流れを作り出している新感覚のサウンドテクスチャーはやはりこの人にしか作り得ないもの。
様々な作品で今後彼の名前を目にすることになるであろうことを確信させる、一足先の未来からやってきたような作品ですね。
Jane Inc. 「Number One」
カナダ・トロントベースのSSW、Carlyn Bezicによるプロジェクト、Jane Inc.のデビューアルバム。
彼女はU.S Girlsのツアーメンバーとして活動しながら、Ice Creamというデュオ、さらにはDarlene Shrugというグループのメンバーでも活動していて、トロント界隈のシーンではかなり名の知られた存在なんだそう。
ソロプロジェクトとして初の作品となった今作は、彼女がこれまでの活動で触れてきた奇妙で風変わりなサウンドがそのまま表出したような仕上がりに。
歪んだギターと煌びやかなシンセサイザーの音色が混ざり合い、悪趣味なネオンカラーの光を放つようななんとも奇抜なシンセロックが次から次へと展開していく様が痛快!
なんとも形容しにくいサウンドなので是非とも自分の耳で確かめて欲しいなと思います。
Renée Reed 「Renée Reed」
ルイジアナ州出身のSSW、Renée Reedのデビューアルバム。
ほぼ全編に渡って弾き語りで構成されたドリーミーなフォークサウンドが、田舎の田園風景や郷愁を春めいた風の匂いと共に運んでくるかのような。
自分のサウンドを「dream-fi folk from the cajun prairies」「ケイジャンプレイリー(ルイジアナにある伝統的な自然)生まれのドリーミーなフォーク」と称しているのも納得。
60年代のフレンチポップのようなレトロでローファイな感じもたまらなく好みですね。
これ2021年リリースの作品なの?と聴いてて不思議に感じてしまうくらいに隠れた名盤みたいなオーラを既に放ってるというか。
Joni Mitchellからの影響はもちろん感じるし、Jessica PrattやCate Le Bonあたりが好きな人にもぜひ聴いて欲しい一枚ですね。
Lost Girls 「Manneskekollektivet」
ノルウェーベースのアーティスト、Jenny Hvalとその長年の共演者でもあるミュージシャン、Håvard Voldenによるプロジェクト、Lost Girlsのデビューアルバム。
2018年に一度EPをリリースしてるんだけどそれ以来の作品ですね。
タイトルの「Menneskekollektivet」はノルウェー語で人間の集合体を意味するんだとか。
Jenny Hvalの諸作で聴かせるアヴァンギャルドでダークなエレクトロポップサウンドはそのままに、シンセのループやドラムマシーン、ギターのレイヤーによってより複雑に、より混沌とした響きになってるなという印象でしたね。
クラブライクなビート感ある楽曲もあったり、アンビエントなトラック上でポエトリーリーディングをするような曲もあったり、非常に実験的な内容の一枚でした。
Floating Points Phaorah Sanders & The London Symphony Orchestra 「Promises」
Floating Pointsと伝説的なサックスプレイヤー、Pharoah Sandersによるコラボアルバム。
ロンドン交響楽団も交えた空間的でアンビエントな演奏が織りなす神秘的で崇高な組曲を、Pharoahの人間味あるサックスの音色を中心に据えながら組み立てていく様が実に巧み!
同じフレーズのループが徐々に熱を帯びていく展開も見事…。
この2組の組み合わせを最初に聞いた時は想像がつかなかったんだけど、実際聴いてみると驚く程に調和していて、現実世界と空想世界の中間点に存在する音楽のような不思議なサウンドな印象でしたね。
もっとサックスを前面に持ってくる音作りも可能だったはずなんだけど、引き算というか引きの美学というか、鳴っていない時の残響すら計算しているかのような音の構築がとにかく圧巻!
それでも頭や耳に強烈に残るのはサックスの艶かしい音色で、そこが彼の凄さなのかなと思いましたね。
というわけでいかがでしたでしょうか?
今回は特に順位とかは付けずにリリースされた順に紹介してみました。
こう見ると女性シンガーソングライターの作品が多いですかね。
彼女達のパワフルさや柔らかさにとても惹かれた3ヶ月だった気がします。
これから先またどんな素晴らしい音楽に出会えるのか?
そんな期待を胸に春から夏の変化の時期を過ごしていきたいなと思います。
最後まで読んで頂いてありがとうございました!
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