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2020個人的ベストアルバム50

予定していたこと、計画していたこと、予想していたこと、そのほとんどが白紙となった2020年。
この世界的なパンデミックの状況の中で、自分も色々と考えたり変わったり、徐々に新しい生活に向き合えるようにはなってきてはいるけど、見えないストレスや不安にふとした瞬間に気付くことがあります。
いつもの年以上に他人のことを気にするようになったし、例年以上に他人の健康や無事を願ったり、普段自分のことしかあまり考えていない自分としては少し成長した気分になったり。
今年はとにかく時間があったので、その分音楽ともたくさん向き合えたように思います。
普段ならスルーしてしまうものも聴いてみようと思えたし、これまで聴き逃してきた過去の作品もたくさん聴くことが出来ました。
音楽どころではないと、音楽を聴く気分にすらなれなかった人も多かったと思いますが、自分にとって音楽はもはやそんなレベルではなく、聴いていない方が落ち着かないし気持ちが悪いのです。
日々生活や仕事の流れが変わる中で、音楽を聴いてる時間だけは何も変わらない日常でした。
そんな日々を支えてくれた個人的な今年のベストアルバムを今回も50作品選んでみました。
長くなりますが最後まで読んでもらえると嬉しいです。


50. Rina Sawayama 「SAWAYAMA」

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ロンドンを拠点に活動してる日本人アーティスト、Rina Sawayamaのデビューアルバム。
彼女のルーツであるJ-POPをベースに、Britney SpearsやChristina Aguileraといったアーリー00sポップスをミックスし、Grimesを経由しながら彼女のぶっ飛んだセンスで未体験の革新的なサウンドに昇華させてしまった、良い意味で狂ってる一枚。
王道のポップからミディアムスローなバラード、大人っぽいR&Bテイスト、さらにはど迫力のニューメタルまで何でもありの痛快な響きは、不思議ととっ散らかった印象にならずちゃんと一つの作品として成立しているのが面白いところ。
それも彼女の特異なキャラクターあってこそなのかなと思う。

49. Nana Adjoa 「Big Dreaming Ants」

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ガーナ出身でオランダベースのSSW、Nana Adjoaのデビューアルバム。
アフリカルーツのリズム感を軸にしたソウル〜ギターポップなサウンドは、程良いクセと苦味を残した大人な味わいの響きといった感じ。
ほとんど全ての楽器を彼女1人で演奏してるみたいで、女性らしい柔らかさや温かさがありながら計算された訳ではないナチュラルなアレンジの巧みさが感じられて、新人とは思えない円熟味のあるセンスとこだわりが詰め込まれてるような印象でしたね。
どうやら元々ジャズミュージシャンを目指していたようで、そんなエッセンスも感じましたね。
スモーキーでソウルフルな歌声も相まって、秋の落ち着いた気候とベストマッチでよく聴いてました。

48. Discovery Zone 「Remote Control」

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ドイツ・ベルリンベースのJJ Weihlによるプロジェクト、Discovery Zoneのデビューアルバム。
80年代後期にタイムスリップしたかのような、画素の粗いテレビでVHSを再生しているかのような、懐かしさと野暮ったさが同居したような、不思議な質感のシンセポップサウンド。
ヴェイパーウェイヴとも通ずるSF感というか虚像感というか。
架空の世界で生まれた音楽みたいな、よく実体の分からないドリーミーな質感が聴いてるとどこか違う世界に連れてってくれるような感覚。
リヴァーブの効いたドラムマシンと歪んだシンセサイザーの響きが現実味の無さをより一層増している感じ。
JJやPostiljonen、Molly Nilsson辺りの北欧のドリームポップ勢が好きだった自分としてはかなりツボでしたね。

47. Shinichi Atobe 「Yes」

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埼玉在住の日本人アーティスト、跡部進一の新作アルバム。
彼の作り出すサウンドの特徴は、無機質なイメージのあるテクノやハウスに「温度」が感じられるところ。
電子音楽というと冷たい質感や印象を持ちがちだけど、彼の楽観的でリゾート感の強い響きは聴いてると夏の暑い日差しを感じさせるような、そんなムードがあるんですよね。
音の一粒一粒までこだわって作られたような、聴いてると身体が浮遊しているかのような心地良さに包まれるダブテクノ〜ディープハウスサウンド。
南国を思わせるパーカッションや軽やかなピアノの跳ねるような音色によって、クールだけどどこか人の温もりを感じさせる響きに仕上がってるのが素晴らしかったです。

46. 青葉市子 Ichiko Aoba「アダンの風(Windswept Adan)」

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こちらも日本人の作品。
京都出身のSSW、青葉市子の通算7作目となるアルバム。
アコースティックギターを基調としたミニマルな演奏と心を落ち着かせてくれる歌声の調和が魅力の彼女のサウンドですが、今作はより明確に表現したい世界観があったのか演奏の幅や鳴り響く音の種類もとても広くて多彩になったような印象。
ハープ、フルート、ストリングスなど、Joanna Newsomを彷彿とさせるような多種多彩な色彩のパレットを使って描かれた、非常に映像的な作品に仕上がってるんですよね。
どうやら架空の映画のサウンドトラックをイメージして作成したようで、だからこそ聴いてるとビジュアライズされるような感覚を覚えるのかもしれません。
今年は他にもAna RoxanneやMary Lattimore、Gia Margaret、Julianna Barwickなど女性のアンビエント・フォークの名作が数多くリリースされましたが、他には無い神秘的な魅力が今作には宿っているような気がします。

45. 070 Shake 「Modus Vivendi」

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Kanye Westのレーベルからの新鋭、070 Shakeのデビューアルバム。
80sシンセポップと10s以降のトラップ・エモラップを上手くブレンドしつつ、「808s & Heartbreak」期のKanyeやKid Cudiを経由した新感覚のサウンド。
彼女のヴォーカルスタイルも個性的で、歌ともラップとも取れる上に声自体も女性と男性の中間のような独特の響き。
そして元々詩人としても活動していたというだけあり歌詞の世界もかなり独特で面白いんですよね。
自分の感情や思いを隠す事なく大胆に言葉にして、それを巧みな比喩表現を使いながら独白していくようなスタイルというか。
サウンドの新しさも含めて20年代のポップスが進んでいく方向を示すかのような、後々実は非常に重要な作品だったと言われる可能性を秘めた一枚だと思います。

44. Cindy Lee 「What’s Tonight to Eternity」

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元Womanのメンバーとしても知られるPatrick Flegelによるプロジェクト、Cindy Leeの新作アルバム。
夢なのか現実なのか、聴いてるとその境目すら曖昧になるようなエクスペリメンタルポップス。
ノイズ、酩酊感、ローファイ、ロマンティシズム、モダンクラシカル、場末感。
凄まじい程に捉えようのない音感触。
終始一体何を聴いてるんだろうという不可解な感覚が続くんだけど、そこに広がる景色や世界はとんでもなく美しくて心地良いというか。
ドローン、アンビエント、ドリームポップ、もしくはそのどれもに当てはまらない何か。
今年出会った中でもトップクラスに強烈な印象を脳に残していった作品ですね。

43. Charles Webster 「Decision Time」

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UKハウスシーンの重鎮的存在、Charles Websterの19年振りとなる新作アルバム。
ディープハウス〜ダウンテンポ〜ジャズなサウンドのクールさは相変わらずで、今作では多数の女性ヴォーカルを迎え官能的かつ聴きやすい仕上がりになっているのが印象的。
Massive Attackとの共演でも知られるShara Nelson、Princeのお気に入りIngrid Chavezなどその人選もとても洗練された大人なチョイス。
そして今作の最大のトピックはやはりBurialの参加でしょう。
彼との共演曲の「The Spell」は、ざらついた音処理のトラックに妖しげで神秘的なビートが艶かしく絡んだ異色のダンスミュージックといった佇まい。
個人的に驚いたのはLily Chou-Chou「飽和」をサンプリングしてるというところ。
楽曲により一層ミステリアスな魅力を加えています。

42. Yumi Zouma 「Truth or Consequences」

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Yumi Zoumaの新作アルバムは正にそのサウンドのように春の訪れを告げる季節にリリースされました。
とろけるようにドリーミー、だけど決して甘すぎない大人の余裕を感じるサウンドメイクは相変わらずの心地良さ。
クールでドライで、それでいてロマンティックで。
日常に溶け込み少しの彩りと癒しを与えてくれる、聴くタイプのサプリメントのような。
シティポップやディスコをアップデートしたようなグルーヴ、ウィスパーでウェットな質感の男女ヴォーカルの重なり合い、洗練されたメロディーの運びなど、彼らのサウンドにはずっと変わらない信念のようなものを感じてて、それが本当に心地良くて。
作品がリリースされる度に信頼と安心感を増していく自分にとって特別な存在ですね。

41. SALEM 「Fires in Heaven」

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10年代初頭に流行したウィッチハウスの代名詞的存在、SALEMの10年振りとなる新作アルバム。Kanye Westの右腕としても知られるMike DeanとShlohmoも参加した仰々しく不気味なサウンドプロダクションが強烈!
エレクトロ〜トラップ〜シューゲイザーをミックスしたようなカオスな響きの中毒性が凄い…。
チルウェイヴやヴェイパーウェイヴと時を同じくして隆盛していったウィッチハウスというムーヴメント。
当時は結構盛り上がってて、SALEMのメンバーがKanyeの「Yeezus」に参加するという流れにまで達したんだけどその後は…。
ここ数年でヒップホップの新たな流れとして定着したトラップミュージックの源流とも言えるウィッチハウス。
この作品からまた再評価され出したら面白いなぁなんて思ったり。

40. Ariana Grande 「Positions」

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ここ数年毎年のようにアルバムをリリースする強気なスタイルのAriana Grande。
次から次へと時代や流行を反映した最新のポップを打ち出していく様はまさに事態の寵児。
しかもそれが毎作品ハイクオリティなのだから、彼女と彼女を支える制作チームがいかに優れているかが窺い知れますね。
6作目となる今作は過去作と比べるとハッキリ言って地味。
特別にキャッチーな楽曲こそないものの、豪華なストリングスが優雅に彩りを加えたゴージャスなサウンドプロダクションが印象的。
セクシャルでアダルトな世界観の歌詞も含めて、R&Bの要素が色濃く表れた作りという感じ。
彼女にとっての代表作になるような作品かと言われたら違うのでしょうが、このアルバムに終始漂う大人の女性の余裕やアーティストとしての円熟味のような雰囲気が個人的にはとても好きですね。

39. Perfume Genius 「Set My Heart on Fire Immediately」

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シアトルベースのMike Hadreasによるプロジェクト、Perfume Geniusの新作アルバムは今年最も感動的な作品の一つでしたね。
内省的で気弱だった青年が精神的にも肉体的にも逞しくなり、自身の内面をオープンにワイルドに表現したドラマティックなポップサウンドの美しさたるや…。
ジャンルも性別も超越した凄まじいエネルギーが作品全体からほとばしってる!
初期の陰鬱で今にも居なくなってしまいそうに儚い彼の姿やサウンドを知る人からすると、今作でのポジティブでエネルギッシュな変化は驚きと同時に戸惑いすら感じるレベルですよね。
今年リリースされたBlake Mills、Ethan Gruska、Phoebe Bridgersのアルバムと制作チームや録音時期が重なっていた事も今年のトピックスの一つでした。

38. Oklou 「Galore」

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フランス・パリベースのMarylou Maynielによるソロプロジェクト、Oklouのデビューミックステープ。
Kelelaとも共鳴するような程良い緊張感とひんやりとした空気が流れるエレクトロR&Bサウンド。
月の光のような、エレガントでミステリアスでデリケートな音像がとにかく美しい…。
今作には未収録のシングル「entertnmnt」でコラボしていたMura Masaや、今作に参加しているA. G. Cookとの共演でもしっかり自分のカラーを出してるのが見事だし、何より声のトーンがたまらなく好きですね。
未来的なR&Bサウンドと相性の良い、透明感のあるひんやりとした質感のヴォーカル。
今年出た先鋭的なR&B〜ポップス作品の中でも屈指の完成度だと思います。

37. Yves Jarvis 「Sundry Rock Song Stock」

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元々Un Blondeとして活動していたJean-Sébastien AudetがYves Jarvisとしてリリースした2作目となるアルバム。
去年リリースの「The Same but by Different Means」のジャケットは青がキーカラーとなってましたが今作は緑。
ダークな夜を思わせた前作とは違い、よりアコースティックで自然を感じさせるアーシーなサウンドなのが今作のカラー。
一部マニアの間でカルト的な人気を誇る70sSSWの隠れた名盤、のようなオーラを放つ佇まいが不思議な作品でしたね。
ブラジルのMPBとも共鳴するような牧歌的なフォーク・ソウル風味の味わい深いサウンドが、どことなく秋の空気を運んで来る感じで。
ホッと一息つける微睡のような心地良さを感じる一方で、サイケデリックでどこか不穏な雰囲気を醸し出しているのが今作の特徴。
何度か繰り返し聴いても捉えどころの無い、妙な魅力を秘めている一枚ですね。

36. Alle 「Alletiders」

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ここ数年でも個人的にトップクラスでよく聴いてる傑作、Erika de Casierのデビューアルバムでプロデューサーを務めていたDJ Centralの別名義プロジェクト、Alleの新作アルバム。
ダビーでファンキーでメロウなシンセポップ〜ベッドルームR&Bなサウンドが中毒性抜群!
弟のDJ Sportsも含め近年のデンマークの音楽シーンはとても活気があって面白い作品が続々と出ているんですよね。
Erika de Casierのアルバムもそうだったけど、雨を思わすなんとも言えない湿り気みたいな質感がたまらなくツボなんですよね。
このアルバムにはそのErika de Casierもコーラスで参加していて、ウェットでアンニュイなテイストを絶妙な塩梅で加えてます。
今回セレクトした作品の中で恐らく最も知名度の無い作品だと思うので、気になった方はぜひとも聴いて欲しいですね。

35. Waxahatchee 「Saint Cloud」

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フィラデルフィアベースのSSW、Katie Crutchfeildによるプロジェクト、Waxahatcheeの通算5作目となるアルバム。
正直なことを言うと、これまでの彼女の作品は決して悪くないんだけどどこか物足りなさを感じる部分が多くあまり心に残るものではありませんでした。
そんな自分も今作の変化と進化には驚かされましたね。
Bob DylanやLucinda Williamsを思わせるアメリカンルーツな質感のカントリー・フォークミュージックが大胆に取り入れられていて、これまでになく土臭いというかトラディショナルというか。
この辺りはパートナーでもあるKevin Morbyの影響もあるのかもしれませんね。
とにかく単純にメロディーが良く書けてるし、さらには彼女の歌声もこれまでになく伸びやかで力強く、良く出来た楽曲を良いシンガーが歌ってるというごくごくシンプルなことが作品全編を通して出来ている一枚なんですよね。
無駄なアレンジや装飾が一切無い、素材の良さが剥き出しになった傑作ですね。

34. Charli XCX 「how I’m feeling now」

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2020年の音楽シーンにおいてコロナウィルスの影響はそれはそれは計り知れないものでした。
もちろんそのほとんどがマイナスに動いたものですが、コロナ禍だからこそ生まれた傑作というのもまた存在すると思うのです。
前作からわずか8ヶ月という短いタームで用意されたCharli XCXの4作目は、世界がコロナの脅威に震え始めていた4月に自宅で制作を開始しわずか1ヶ月で完成させた、世界初の自粛期間アルバムとも言われる作品です。
盟友A.G. CookやBJ Burton、100 GecsのDylan Bradyなど、近年のPCミュージック近辺のアヴァンギャルドなポップスを牽引してきた手練れ達をオンライン上で集結させ仕上げた、彼女らしい攻撃的な姿勢のサウンドが詰め込まれてます。
一方の歌詞の内容は、自宅に閉じこもっていることへの不安や退屈さ、だからこそ味わえた恋人との時間の大切さなど、ロックダウン下ならではのリアルな感情が言葉となっていて、サウンドとのギャップもまたこの作品の面白さの一つかなと思いますね。

33. Grimes 「Miss Anthropocene」

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リリースの度にポップミュージックの可能性を様々なベクトルへ拡げているGrimesの通算5作目となる新作アルバム。
彼女には未来が見えていると思わずにはいられない、新たなポップの形を提示するかのようなフューチャリスティックな音像。
よりダークにインダストリアルに深化した表現はやはり圧倒的にオリジナル。
今作では気候変動などの環境問題やドラッグ、若者の自殺、性差別など非常にシリアスな社会問題がテーマになっていて、その重たさが音としても色濃く反映されていました。
今作リリースと同じ時期にイーロン・マスクとの結婚、妊娠が大きく報じられたこともあり、音楽面というよりゴシップ面ばかりが取り上げられてしまったのは少し残念でしたね。
Grimesの新たな面を見せることが出来た秀作だと個人的には思ってます。

32. TOPS 「I Feel Alive」

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個人的に最も信頼してるバンドの1組、TOPSの4作目となるアルバム。
去年リリースのMen I Trust、そして今年リリースされたYumi Zouma、Tennisの新作と共に日常のBGMとして大変にお世話になった作品でしたね。
80sソフトロック〜AORをベースにしたレトロポップサウンドは、いつどこでどんな状況で聴いてもその時の気分を和らげてくれる、自分にとって最高の癒しのひと時となりました。
前作で感じた70sディスコ・ソウル由来のグルーヴは今作でも良いスパイスとしてサウンドに厚みと深みを与えていて、さらりとも聴けちゃうけどじっくり味わうように聴くとまた違った発見や面白さを感じられるのも今作の魅力。
軽やかで穏やかで、どこか懐かしいメランコリックな響きは、春先のリリース時期とも相まって気分を外に連れ出してくれるような。
残念ながら今年の春は中々お出かけ出来るような状況ではなかったけど、家にいながらも春という季節を感じさせてくれたこの1枚の存在に自分は結構救われてましたね。

31. Duval Timothy 「Help」

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サウスロンドン出身で現在はシエラレオネとロンドンの2拠点をベースに活動しているマルチアーティスト、Duval Timothyの4作目となるアルバム。
彼のことを知ったのはSolangeの傑作「When I Get Home」に収録の「Dreams」で彼の楽曲がサンプリングされていたからなんだけど、その独特の浮遊感のある声の重ね方や空間的な音作りはSolangeとあの作品にとって非常に重要なインスピレーションとなったんだろうなというのが一瞬で分かるようなセンスを感じました。
今作もそのアーティスティックで感覚的なサウンドメイクのセンスはより一層眩い光を放っていて、ピアノを基調にヴォーカルサンプルやエレクトロなアレンジを絡めたサウンドの美しさたるや…。
VegynやTwin Shadowといった参加ゲストも絶妙だし、先鋭的でアグレッシヴなんだけどどこかクラシカルな佇まいもあるところが今作の最大の魅力なのかも。
新しい形のジャズを聴いた感覚でした。

30. Kelly Lee Owns 「Inner Song」

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前作からの期間や期待値も含めて、Kelly Lew Owensのセカンドアルバムは個人的に今年でもトップクラスで待望していた作品の一つでした。
クールでドライな音空間を彷徨い浮遊する幽玄のミニマルテクノ×ドリームポップ。
彼女の作り出す響きは決して爆発的な盛り上がりを見せるわけではないんだけど、ふつふつとじわじわと内面から沸き出てくるように高まっていく感覚を味わえるんですよね。
Radiohead「Arpeggi」のインストカバーというトリッキーな1曲目から、同郷のレジェンドJohn Caleとのコラボまで用意する挑戦的な姿勢ながら、彼女の音への細部までのこだわりは相変わらず凄まじいレベル!
環境問題や自身の健康問題など、歌われている内容は中々ヘビーで、それを歌詞として吐き出すことが彼女にとってセラピーのような意味を持っていたことも想像出来ますね。
「金曜日の夜」が一つのテーマだったと語っているように、嫌なことも忘れて踊ろうという潔さや解放感も楽曲の端々から感じられる、とても聴き応えのある傑作でした。

29. Freddie Gibbs & The Alchemist 「Alfredo」

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去年のMadlibとのコラボ作の素晴らしさも記憶に新しい中早くもリリースされたFreddie Gibbsの新作アルバムは、Mobb DeepなどのプロデューサーやEminemのツアーDJとしての顔も持つAlchemistとの共演アルバムでした。
ハードコアでギャングスタラッパー然としたFreddie Gibbsのラップスタイルと、オールドスクールでソウルフルなサンプリングビートを得意とするAlchemistのビートメイクの相性は当然のように素晴らしく、ドープで濃厚なラップアルバムとして圧巻の完成度になってます。
ゴッドファーザーなどのマフィア映画からの影響も強く受けているようで、その優雅でゴージャスの世界観がサウンドにも表れてる感じでしたね。
声やフロウ、スタイルの方向が近いRick Rossや、逆にFreddie Gibbsとは異なるスタイルのTyler, the Creatorなど、それぞれが自分のカラーを持った個性的なゲストの参加も作品の良いエッセンスとなっているのも印象的でした。

28. Sweeping Promises 「Hunger for a Way Out」

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今年出会ったバンドの中でもとりわけ強烈なインパクトを放っているのがボストンベースのSweeping Promises。
Joy DivisionやThe B-52’sを彷彿とさせるアヴァンギャルドでスリリングなポストパンク〜ニューウェイヴなサウンドのこのデビューアルバムは本当に衝撃的でしたね。
展開の読めない疾走感のあるアレンジメントと、良い意味でスカスカの簡素でタイトな演奏、そしてLira Mondalの妖しく感情的なヴォーカルが絡み合ったこれまでに聴いたことのない響き。
凄くシンプルな音なはずなのに複雑に聴こえてくるのが不思議。
とても硬派なサウンドが女性ヴォーカルが乗ることでポップに聴こえてくるのも面白い発見でしたね。
Liraがこのバンドと並行して活動しているMini DressesというバンドもSweeping Promisesとはまだ違うベクトルで面白いサウンドだったので、気になった方はぜひチェックしてみてください。

27. King Krule 「Man Alive!」

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King Kruleとしての3作目となる今作を何回か聴いて感じたのはTyler, the Creator「IGOR」を聴いた時と似た感覚だということ。
得体の知れない狂気じみた何か、漠然とした不安や不穏な空気、様々なものが入り混じったカオスな構造。
心地良い違和感というか、収まりの悪さというか、完結し切らない曖昧さが作品全体を包み込んでいて、それが妙にクセになる感じ。
彼のサウンドは常にそうなのかもしれないけど、ジャズが根底にある気がしてて、それはサウンドとしてというよりは概念としてのジャズで、だからこそ完成し切らないニュアンシーな質感がどの作品にもあるのかなと。
私生活では結婚して一児の父となった彼だけど、孤高で孤独で陰鬱な世界観は歌詞を聴いてもあまり変わらないのはある意味では少し心配ではありますが。
どこかで目にした「If the moon could listen to music, he would listen to King Krule」という言葉。
最高で最適な表現だなと思う。

26.  Sweet Whirl 「How Much Works」

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メルボルンベースのSSW、Sweet Whirlのデビューアルバム。
少し濁りのある味わい深いヴォーカル、ピアノを基調とした丁寧で洗練されたサウンド、落ち着いた大人の甘すぎないメロディーメイク。
自分が女性SSWに求めるあらゆる要素を持った、ため息が出る程に美しいポップミュージック。
Natalie PrassとかWeyes Blood、Faye Websterあたりにも通ずる、少し力の抜けた大人向けのポップスな感じがたまらなく好きなんだけど、そこに絶妙な苦味みたいなアクセントを加えてる彼女の声がまた素晴らしい…。
とても伸びやかで綺麗な声なんだけど、それだけではない深みのようなものが感じられるビタースウィートな味わいがとても好みですね。
今年リリースされたSSWの作品の中でも恐らくトップクラスでスルーされてしまった作品かなと思うので、まだの方はぜひともチェックしてみて欲しいですね。

25. Vritra 「Sonar」

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Odd Futureのオリジナルメンバーとしても知られるVritraの新作アルバムとの出会いも個人的には中々の衝撃でした。
Solange「When I Get Home」的な意味合いでのジャズ解釈をしたミニマルでアンビエントなムードのトラックメイク、それを乗りこなすクールでドライなラップがとにかくドープ!
楽曲のプロデュースをしてるのはLeon Sylvers IV。
父親も偉大なミュージシャンだった彼の生み出す独特の浮遊感と未来的な質感を持ったビートがたまらなく心地良いんですよね。
個人的にはKendrick Lamarの1stALくらいのサウンドと雰囲気と近いものを感じたかも。
今年は他にもNavy BlueやMedhaneなど、Earl SweatshirtやTyler, the Creator登場以降とも言えるアブストラクトなヒップホップ作品が一気に増えたような印象で、2020年代のヒップホップシーンの進む方向を提示しているかのような感覚でしたね。

24. Sea Oleana 「Weaving a Basket」

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カナダ・モントリオールベースのアーティスト、Sea Oleenaの6年振りとなる新作アルバムは今年最も自分を癒してくれた作品の一つです。
GrouperやJulie Byrneとも共鳴する、限りなく静寂に近い幻想的な音の揺れがひたすらに心地良い幽玄のアンビエント・フォークサウンド。
あらゆるストレスから解放してくれるかのような極上の癒しの時間。
この作品、全ての音に一枚ベールのようなものが纏った感じの響きなのが印象的で、自然音や環境音とも近い気さえしますね。
この作品で鳴っている楽器のほとんどを彼女一人で演奏してるというのも驚き。
あまりに心地良くて、正直アルバム1枚聴き終えるまでに寝落ちしてしまうこともしばしば笑
これからの寒い季節に、眠れない夜に、本当に重宝しそうです。

23. Sufjan Stevens 「The Ascension」

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Sufjan Stevensの新作アルバムをもう何度となく聴いてるけど、この作品をちゃんと理解してその上で好きになることは難しいのかなと思う。
壮大なエレクトロビートとアンビエントな音の流れが、アメリカという国への彼の嘆きや怒りを沸々と表出させてるような、淡々としたヴォーカルのトーンが諦めや絶望すら感じさせるような、混沌とした美しさに飲み込まれるような。
正直、歌ってくれさえすれば好きにならないはずないというレベルで彼のファンなので、今作(だけではないけど)の負のオーラみたいなものは聴いてて辛いというよりは心地良さすら感じます。
彼の声にはいつも悲しみの成分が多く含まれているけど、そこには包容力や優しさのような温かさも同じくあって、どんなに複雑なエレクトロ色の強いサウンドであろうともその声さえあればSujfan Stevensの音として鳴らせてしまう圧倒的な存在感があると思うんですよね。
まだまだ聴き込みが必要な、ひたすらに美しい傑作です。

22. Kate NV 「Room for the Moon」

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モスクワベースのアーティスト、Kate NVの通算3作目となるアルバム。
70s〜80sの日本の音楽・文化からの影響を強く感じる、日本人には少し懐かしく海外の方には新鮮に響くであろう摩訶不思議ポップミュージック。
彼女自身、今作のインスピレーション源として挙げているのが矢野顕子、椎名林檎、細野晴臣、さらにはセーラームーンという異色のラインナップ。
彼女のサウンドを聴いてると、海外の方から映る・見える日本のカルチャーや音楽を独自に咀嚼し、そこにリスペクトを払いながら新たなものとして作り上げている感じがするんですよね。
だからこそ自分達のような日本人には新しくもどこか懐かしい感覚で聴くことが出来るのかなと思います。
ロシア語や英語、日本語といった多様な言語とジャンルが入り混じったクールかつカオスな質感がたまらなく好きですね。

21. Pa Salieu 「Send Them to Coventry」

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イギリスはコヴェントリーとガンビアをルーツに持つラッパー、Pa Salieuのデビューミックステープ。
ダンスホールレゲエやアフロビートのテイストを色濃く反映したUKヒップホップ〜グライムな音のキレ味と、独特のリズム感覚のラップフロウの迫力がハンパじゃない!
アフリカンルーツならではの肉感的でトライバルな質感と不規則なリズムの融合がとても個性的だし、野性味溢れる彼のラップスタイルとも相まって一度聴くと耳にこびりついて離れない中毒性があるんですよね。
同じくUKラップを牽引するJ Husも今年アルバムをリリースしそれもとても良い作品でしたが、個人的にはPa Salieuの粗雑さというか計算されていない若さや勢いみたいなものがより好みでした。
これまでUKのラップシーンにはそれほどハマってこなかったので、今作を聴いた時は久々に衝撃というか、新たな扉が開いたような感覚でしたね。

20. Moodymann 「Taken Away」

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Moodymannにはこれまでも絶大な信頼を寄せてきたけど、Al Greenの「Love and Happiness」を大胆にサンプリングした1曲目の「Do Wrong」を聴いた瞬間にこの作品は自分にとって特別なものになるだろうなと確信しましたね。
彼の長いキャリアの中でソウルやファンクの要素がサウンドに取り入れられたことはもちろんあったけど、ここまで深くブラックミュージックへの愛を形にした作品は今作が初めてじゃないかなと思う程に、どの楽曲も60s〜70sのソウル、ファンク、ゴスペルのテイストが色濃く出た仕上がりになってます。
ブラックミュージックならではの色気を纏いながら、彼のフィールド内のデトロイトハウスへとしっかり落とし込む辺りがさすがのセンスですよね。
サンプリングに頼りすぎると元楽曲の要素が出過ぎてクドく感じてしまう場合もあるんだけど、彼のサウンドメイクはそのバランス感がとにかく見事。
改めてMoodymannの凄さを感じた1枚でした。

19. Taylor Swift 「folklore」

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Taylor Swiftの新作もまたコロナ禍だからこそ生まれた傑作でした。
シンプルにメロディー、歌詞、歌を届けたいという彼女のこだわりと意志を感じる引き算のサウンドプロダクションの美しさたるや…。
このアルバム、ほとんどの曲の低音域やリズムセクション(ベースやドラム)が意図的と言える程に気配を消してるのが印象的で、だからこそメロディーの良さや歌詞の世界観、歌声がスーッと心に染み込んでくるような感覚になるんだと思いますね。
メジャーシーンの作品でこういうサウンドは中々無いですよね。
それはやはりThe NationalのAaron Dessnerをプロデューサーとして招いたことが大きかったんだと思います。
さらにはBon IverことJustin Vernonとのコラボまで用意していて、彼女の目指すサウンドの方向性がいかに明確だったかというのが分かります。
1人のシンガーソングライターが様々な道を経て辿り着いた、あまりにもみずみずしく、生々しく、エヴァーグリーンな輝きを放つ楽曲集。

18. The Weeknd 「After Hours」

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2020年を象徴するアルバムは何だったかと聞かれたら自分はThe Weekndのこのアルバムを挙げると思います。
現在・過去・未来を同時に鳴らしたような良い意味合いでの時代錯誤感。
Oneohtrix Point NeverからMetro Boomin、Max MartinにKevin Parkerまで巻き込んで、80sシンセポップやハウス、トラップを自在に操り彼オリジナルなサウンドに仕上げた圧巻の内容。
今作を聴いて個人的に感じた「Thriller」感。
ヴィジュアルイメージも含め、サウンド面でも相当色濃くMichael Jacksonの影響が反映されてますよね。
現在の緊迫した世界情勢を匂わせるような表現や、余裕のない切迫した心理描写も非常にスリリング。
製作時はまだコロナウィルスの影響が出始める前だったのにも関わらず、奇しくもこの状況を想定していたかのように時代を捉えてしまった感のある今作。
にも関わらずグラミー賞には全くノミネートされないという不可解さ。
やはり様々な意味で今年を象徴する作品として記憶に刻まれることになりそうです。

17. Westerman 「Your Hero Is Not Dead」

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2年くらい前からシングルやEPでその存在感を高めていたロンドンベースのSSW、Westermanの待望のデビューアルバム。
ドリーミーなギターポップと流麗なエレクトロが美しく溶け合ったモダンAORサウンド。
80s由来のノスタルジックな質感でありながら、ヴォーカルの重ね方や音の配置で見事にアップデートしたサウンドに仕上げた圧巻の完成度でしたね。
彼のサウンドはどの曲もどの角度から聴いてもUKの音だなぁと感じるんですよね。
クールで硬派な質感と柔らかく美しいメロディーが混在した、いかにもUKの歴史の中から生まれた音な感じがたまらなく好きですね。
今年2作のEPをリリースしたBullionによるプロダクションがサウンドのキーになってる気がしてて、彼の作品と聴き比べするのもオススメです。
まだキャリアの浅い新人が作ったとは到底思えない、様々な趣向が凝らされた1枚ですね。

16. Liv.e 「Couldn’t Wait to Tell You...」

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Tyler, the CreatorやEarl Sweatshirtからその才能を絶賛されていたLAベースのアーティスト、Jade Foxによるプロジェクト、Liv.eのデビューアルバム。
Odd Future以降のコラージュ的感覚で鳴らされた新世代ソウル・ジャズ・ファンクなサウンドがとにかくドープ!
様々なグルーヴがドロドロに溶け出したビートを乗りこなす彼女のシルキーなヴォーカルも最高に心地良い…。
彼女の事を知ったのはEarlやTyler、そしてErykah Baduがこぞって彼女や曲を絶賛してたからなんだけど、彼らのエッセンスが上手く効いた良い意味でごちゃごちゃしたサウンドがたまらなく好きですね。
Vritraのところでも触れたけど、ここ数年このようなベッドルーム発のローファイなジャズ・ヒップホップ〜ソウルサウンドが一つの流れになってきている気がしてて、彼女はそれをまさに体現している存在と言えますよね。
今後の動向が本当に気になります。

15. Oneohtrix Point Never 「Magic Oneohtrix Point Never」

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Chuck Person、Games、Ford & Lopatinも含めた自身のキャリアを総括するかのようなOneohtrix Point Neverの新作アルバム。
今作は架空のラジオ局からのリスニング体験のようなものがテーマらしく、ヴェイパーウェイヴからニューエイジまで多様なサウンドが次から次へと流れ、ところどころ分断されたりノイズが入ったりする様はまさに彼の描くラジオから聞こえてくるサウンドを聴いてるような感覚。
元々はセルフタイトルのアルバムを作ろうとしていたらしいんだけど、コロナもあって自身をより見つめ直す時間が増えて、このプロジェクトの原点に立ち返る意味合いで出来上がっていった作品なんだそう。
昔の自分が作りそうなサウンドを今の自分が作ったら、的な遊び心が作品のあちらこちらから感じます。
今作にはThe Weekndが共同製作者としてクレジットされてますが、彼のポップセンスも大きな役割を果たしていて、ArcaやCaroline Polachekといったゲストヴォーカルも含め、これまでになく外に開いた印象のサウンドになってるのが印象的でした。

14. Jessy Lanza 「All the Time」

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名門レーベルHyperdubの歌姫、Jessy Lanzaの通算3作目となる新作アルバム。
トリッキーで跳ねるようなビートと多彩なサウンドエフェクトを巧みに操り作り上げた新感覚エレクトロポップ〜R&B。
よくKelelaやFKA twigsなどと比較される彼女だけど、そもそものサウンドメイクのアプローチが少し違う気がしてて、R&Bをベースにエレクトロの要素を取り入れて作るKelela達に対して、Jessyは元々がハウスやテクノのフィールドの人なので、そのトラックに歌声を乗せるという感覚でR&Bと接近したんじゃないかなと思うんですよね。
ただ彼女自身影響を受けたアーティストとしてTimbalandやMissy Elliott、そしてその2人とコラボしていたAaliyahを挙げていて、エッジーなビートに涼やかなヴォーカルを乗せるというスタイルはまさにその系譜にあると言えますよね。
自分も彼女の作品に毎回引っかかるのはそのセンスで、Aaliyahの影響下にいるシンガーは山のようにいるけど、こういうベクトルで進化させてるのってJessyだけなんじゃないかなと思うんですよね。
今作も期待通りの素晴らしい作品でした。

13. KeiyaA 「Forever, Ya Girl」

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ニューヨークベースのアーティスト、KeiyaAのデビューアルバムは個人的に今年最も有意義な発見だったように思います。
Solangeが去年放った「When I Get Home」は20年代のR&Bの進むべき方向を提示していたような先鋭性がありましたが、それに見事な形で応えたのがこのKeiyaAのアルバムだったように思います。
ヴォーカルを重層的に配置し奥行きを出したり、アンビエントなシンセサウンドでニュアンシーな質感を出していたり、実験的なサウンドメイクの姿勢はSolangeと共通する部分がとても多いですよね。
それがただの真似事なのではなく、ラッパーのMIKE(別名義のDJ Blackpowerとして参加)の手助けもあり、VritraやLiv.eのところでも触れたアブストラクトなヒップホップ〜R&Bのベクトルでしっかりとオリジナリティを出しながら完成させているのが見事なんですよね。
個人的な今年の最優秀新人賞は彼女にあげたいですね。

12. Phoebe Bridgers 「Punisher」

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Phoebe Bridgersのセカンドアルバムは高い期待値を遥かに上回る傑作でしたね。
シニカルで奇妙な世界観を歌詞にして届けるストーリーテラーとしてのユニークさ、心を落ち着かせてくれるシンガーとしての味わい深さ、美しいメロディーとフォークロックをシンプルに届けるサウンドメイカーとしての才能。
全てが前作より進化したなと感じる圧巻の完成度!
この人恐らく普通に良い曲を書こうと思ったらいくらでも書けるような才能を持ってるんだけど、彼女自身がそれを嫌い一風変わった個性的な楽曲に着地している感じがたまらなく好きなんですよね。
歌詞もサウンドも必ずどこか引っかかりを作る感じ。
Conor OberstやboygeniusのJulien Baker、Lucy Dacusとの再共演も用意して、前作からの過程を全て活かしている感じも見事です。

11. SAULT 「Untitled (Rise)」

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ほとんど詳しい情報の無いミステリアスなバンド、SAULTとの出会いは去年の2作のアルバムでしたが、その時点で彼らの存在を知っている人は今以上に少なかったと思います。
Little Simz周辺のサウンドチーム(InfloとCleo Sol)によって生み出されたど迫力のソウル〜ファンクサウンドは衝撃的で、去年の個人的なベストアルバムにも選出したんですが、まさかこんなに早く次の作品が聴けるとは思ってなかったですね。
今作はサプライズリリースされた「Untitled (Black Is)」からわずか3ヶ月後に発表された今年2作目となるアルバム。
人種差別への怒りや反抗心がサウンドの核となってるのは前作と共通してるけど、よりダンサブルでグルーヴィーにシフトした今作のサウンドには希望や光が宿ったような、少しソフトにソウルフルに響くような。
元来祝いの席での儀式として生まれ、喜びや怒りなど自身の感情を表現する手段として発展してきたダンスの意味合いを見つめ直すかのような、祝祭的な賑やかさが溢れ出した傑作ですね。

10. Soccer Mommy 「color theory」

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コロナウィルスで荒んでいた気分を落ち着かせてくれたSoccer Mommyの新作アルバムは今年の女性SSWの流れを決定付けた作品だったように思います。
90sSSW由来のコード感やメロディに、今っぽいエッセンスの音色や自身の悩みや怒りを綴った少し捻くれた歌詞を絶妙なセンスで絡める彼女のソングライティングは相変わらず素晴らしく、この人は本当に優れたソングライターだなと改めて思いましたね。
心情を青黄灰の3つの色に分けて表現するコンセプトも素敵。
彼女の曲を聴いてると自分が海外の音楽をラジオなどで聴き始めた頃の少し背伸びしたような気持ちを思い出すんですよね。
Alanis MorissetteやLiz Phair、Avril LavigneやMichelle Branchにも通ずる響き。
今年はBeabadoobeeやSlow Pulpなど90s〜00sのポップ・ロックを再解釈するような作品がいくつか出てきたけど、この流れの中心にはSoccer Mommyのこの作品があって、来年以降もその流れはさらに勢いを増していきそうな気がしますね。

9. Yaeji 「WHAT WE DREW 우리가 그려왔던」

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韓国人の両親の元、ニューヨークで生まれ現在もニューヨークをベースに活動しているYaejiの初となる長編作品としてリリースされたこのミックステープ。
前作のEP2作はもうおかしくなるくらいどハマりしたんだけど、その時のアンダーグラウンドな妖しい雰囲気はそのままに、Charli XCXやClairoとの共演を経てポップな親しみやすさを携えて進化した感じが本当に素晴らしいんですよね。
ヒップホップ由来のビート感を強めたヒプノティックなDIYクラブサウンドの中毒性たるや…。
韓国語と英語、日本語まで絡んだ言葉のリズムや流れも相まって一度聴くと頭から離れる気配がない程にループします。
これまでよりもヴォーカルに重きを置いた作風に変化したのも印象的で、家族の繋がりをテーマにしたという歌詞も含め彼女自身の言葉で伝えたい気持ちがより形となったからなのかもしれません。
既に唯一無二のカラーを手にした存在として、20年代の最重要なアーティストの1人だと改めて思わされた1枚でした。

8. Dua Lipa 「Future Nostalgia」

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聴く人を踊らせることだけを考えて作られたようなDua Lipaの新作アルバム。
80sシンセポップ、ニューウェイヴ、ディスコへのリファレンスやオマージュがそこら中に散りばめられた完全無欠のダンスポップコレクション!
敢えてバブリーな音色を多用した確信犯的なサウンドメイクがたまらなく好きでしたね。
彼女本人のアーティストとしての実力とか、音楽的に優れてるかどうかとか、その辺の細かいことはどうでもよくなるくらいただただ楽しいこの作品に救われたという人は今年多かったんじゃないですかね。
Daft Punkが示したダンスミュージックの面白さや可能性を、ポップ方面に振り切って解釈したような仕上がりというか。
INXSやWhite Townの引用とか、思いついても中々出来ないような大胆な遊びを躊躇なくやってるのが凄いなぁと。
自粛期間中にこのアルバムを爆音でかけて運動不足を解消していた自分にとっては忘れることが出来ない作品になりそうです。

7. Yves Tumor 「Heaven to a Tortured Mind」

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フロリダ出身のアーティスト、Yves Tumorの新作アルバムがここまで大衆的な魅力を持つ作品になるとは想像もしていませんでした。
PrinceとDavid Bowieが共同で監修したかのような、アヴァンギャルドとポップの境界線をぶち壊すかのような、70sソウル・ファンク・サイケロックを下敷きにしながら新たな時代の音として鳴り響かせたかのような。
グラムロックの持つ妖しさや色気、プログレッシヴロックの持つ複雑さや衝動を粗雑に食い散らかしたような彼のサウンドは、禍々しい異形のルックスとは打って変わりとても親しみやすいのが面白いところ。
これまでに比べて格段にポップで聴きやすいサウンドになったのは、以前に共演したBlood Orangeからの影響も大きいんじゃないかと思いますね。
Kelsey Lu やDiana Gordon、Sunflower BeanのJulia Cummingといった女性ヴォーカルとの絡み方も、エロティックなギターもそう。
次作ではどんな姿でどんなサウンドを鳴らすのか、早くも期待してしまいます。

6. Adrianne Lenker 「songs」

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本来なら今頃Big Thiefとして全世界を回るツアーの真っ只中だったかもしれないAdrianne Lenker。
コロナウィルス感染拡大に伴いそのツアーも中止となり、彼女は山の奥の森の中で静養を兼ねて自らを見つめ直す時間を過ごすことに。
そこで生まれたのが今作、そして今作と同時リリースされた「instrumental」でした。
最小限の機材と限られた環境で録音された今作の生々しさとみずみずしさたるや…。
本当にすぐ目の前で弾き語りをしてくれているかのような臨場感と、全てを包み込むかのような温かさに今年どれだけ癒されたことか。
あまりに美しく、儚く、非の打ち所のない圧巻の仕上がりで鳥肌が止まらない…。
過去の偉大なSSW達の生み出してきた傑作と比べても遜色ないエヴァーグリーンなオーラを既に放ってる。
よくよく考えてみると2016年のBig Thief「Masterpiece」以来、ソロも含めて5年で7作品をリリースしてて、しかもクオリティを全く落とさずに、挑戦的な姿勢で美しい楽曲を生み出し続けてるんですよね。
その溢れ出るクリエイティヴィティに心底脱帽です。

5. Tame Impala 「The Slow Rush」

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Tame Impalaの通算4作目となる今作は今振り返ると、2020年の音楽シーンの流れを決定付けた作品だったように思います。
彼らの代名詞とも言えるサイケデリックロックの要素は作品を出すたびに減退していて、今作もKevin Parkerの圧巻のポップセンスが光る新たな形のAOR・シンセロックサウンドとも呼べる仕上がりになっていました。
今作のテーマとしてKevinが挙げていたのは「時の流れ」なんだそう。
ヒップホップやR&B、ディスコ、そしてポップスなど過去・現在の様々なジャンルのサウンドからの影響を受け、心地良いノスタルジーを残しつつ未来を感じさせるサウンドへと進化させる。
彼がこのアルバムで目指していたのは、かつてのTame Impalaの姿ではなく未来のバンドの姿を想像してもらうことだったように思います。
過去の音楽を再解釈し新たな響きとして作り替えたようなサウンドが今年とても多かったように思うのですが、その流れを作ったのが今作だったのかなと思いますね。
残念ながら次にライブを体験出来るのがいつになるのかは分からない状況ですが、彼らのライブを体験したことのある身としてはその進化ぶりを早くこの目と耳と体で感じたいなと切に願うばかりです。

4. Helena Deland 「Someone New」

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ここ数年の女性SSWの数ある傑作の中でもトップクラスで優れた完成度を誇る作品がHelena Delandのこのデビューアルバムだったと思います。
カナダはモントリオールを拠点に活動している彼女は、同郷のMen I Trustと共演したりJPEGMAFIAのアルバムに参加したりと徐々に活躍の場を広げていっていました。
2年前にEPを4作立て続けにリリースしたんですが、これが本当に素晴らしかったんですよね。
そして満を持して用意されたのが今作でした。
スモーキーな歌声、シンプルで美しいメロディー、そこに奥行きと深みを与えるアレンジ、それによって生み出される耽美な世界観。
何もかもが理想的なバランスで本当に非の打ち所がないというか。
Nick DrakeやJoni Mitchell、Elliott SmithといったSSWの息吹を感じさせつつ、Radioheadのような卓越したアンサンブルとアレンジメントの巧さも持ってしまっているのが彼女の武器ですよね。
本当にあらゆる面でよく出来た完璧な作品です。

3. Fiona Apple 「Fetch The Bolt Cutters」

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Fiona Appleの約8年振りとなる新作アルバム。
単純に今年リリースされた作品の中で最も評価されるべき、音楽的パフォーマンス度の高いアルバムは何かと聞かれれば迷わずこの1枚を選ぶでしょう。
閉塞して疲弊した世界に放たれた途轍もなく自由で驚くほどエネルギーに満ちた響き。
歌声も演奏も展開も、犬の鳴き声も感情を書き殴ったような言葉も、何もかもが大胆に自由を謳歌してる。
弾けるようなピアノの音色と類い稀な表現力のFionaのヴォーカル、そして彼女の内側から沸き出るように発せられるリズムとグルーヴ。
基本的にはそれだけ。
もの凄いシンプルなのに楽曲から溢れ出るエネルギーやパワーが半端じゃない!
リリースからもう何度も聴いてるけど未だにワクワクが止まらない。
凄すぎて目眩がしそう…。
決して分かりやすいとか時代を象徴するとか、そういった類いの作品ではないと思うんです。
何かよく分からないけど凄えもん聴いてるなみたいな感覚。
1人の天才SSWが独自の道で進化をし、それが誰も辿り着けない未知の領域まで達してしまった。
そんな作品です。

2. Jessie Ware 「What’s Your Pressure?」

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Jessie Wareの4年振りとなる新作アルバムを聴いた時、この人と自分の聴いてきたもの、好きなものは似ているんだなと確信しました。
レイト80sソウル・ファンク〜アーリー90sハウスへの愛とリスペクトを、優雅なヴォーカルと太く強烈なベースライン、ゴージャスなストリングスに乗せて表現した新感覚ディスコポップサウンド。
彼女得意の落ち着いたトーンのシルキーソウルな部分は残しつつ、今作はこれまで以上にグルーヴ感にこだわって作られたような印象で、シンセの質感とかがモロに80sのファンク由来な感じだし、聴いてて懐かし新しい感覚が最高なんですよね。
Tame Impalaのところでも触れたけど、今年は70s〜90sサウンドの再解釈がトレンドで、The WeekndやDua Lipa、Kylie MinogueやRóisín Murphyなど数多くのアーティストが古き良き時代のサウンドを新しい形で蘇らせていましたが、最もクールでスタイリッシュにその流れに乗ったのがJessie Wareのこの作品だったんじゃないかなと思いますね。
それを実現させた共同プロデューサーを務めたJames Ford(Simian Mobile Disco)の手腕も見事でした。
ひたすらキラーチューンだらけの圧巻の12トラック!

1. SAULT 「Untitled (Black Is)」

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というわけで2020年の個人的ベストアルバムは上半期と同じくSAULTの「Untitled (Black Is)」でした。
このアルバムがサプライズでリリースされた時点で、今年のNo.1アルバムはこの作品で揺るがないだろうなと感じましたね。
今年アメリカを中心に大きな社会問題・社会現象となった黒人への人種差別とそれに対する抗議運動とも言えるBlack Lives Matterという動き。
その高まりを受けて急遽制作された、高まる感情を強烈なソウル・ファンクビートに乗せ、ゴスペルやポストパンクまで絡めた圧巻のグルーヴで怒りや悲しみを表現した作品が今作でした。
進化し続けてきたブラックミュージックの一つの到達点のような音楽作品としても、昨今の人種問題を受けての怒りや嘆き、祈りを言葉にした歌詞の意味深さも、様々な面で今年を象徴するようなとてつもない傑作と言えますよね。
「Untitled (Rise)」のところでも言及したけど、彼らに関する情報はほとんどがシークレットで、今作がリリースされた時もメディアで取り上げていたのはごく僅かでした。
だからこそ年末の様々なメディアのベストアルバムで軒並み上位にランクインしていたのが自分としては少し意外だったというか、そりゃそうだよね的な思いがありましたね。
Public EnemyやKendrick Lamarなど、弱者にさせられてしまった黒人たちの声となってきた作品がその時代時代で生まれてきましたが、SAULTの今年リリースの2作もそうですよね。
社会問題へのカウンターカルチャーとして発展してきたという面もある音楽という文化。
2020年という受難の年において、それを最もストレートかつ大胆に体現した作品が今作だったんじゃないかなと思います。


というわけで以上50作品、いかがでしたでしょうか?
コロナの影響を受ける前に作られたもの、コロナ禍だからこそ生まれたもの、様々でした。
自分としては家の中で過ごした時間が長かった分、ダンサブルで楽しい思わず体を動かしたくなるサウンドに惹かれ助けられたかなと思いました。
多くのアーティストが自分と向き合い見つめ直す時間を持つことになった2020年。
来年以降それがどのような状態で形になるのか、不安と期待が入り混じる不思議な感覚です。
今回の記事でまだ聴いたことのない作品を知るきっかけになったり、改めて聴いてみようというきっかけになっていたら嬉しい限りです。

尚、今回からnote形式で記事を書いてみました。
単純に使いやすいし見やすいですね!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
来年も素晴らしい音楽に出会い過ごせますように。

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