修正力

自分が納得いくまで何度でも彫りなおし、いついかなる時も、完成直前でも、いいと思った形でなければ壊す勇気を、忘れないようにしています。
一つの彫刻を納得のいかないままで終わらせることは、貴重な素材を殺してしまうということ。この世にいいものでないものを残していくことは、一番の愚行です。

おもえば、美術の世界に足を踏み入れてからずっと、学んできたことといったらたったひとつ、
修正する力に他ならないような気がします。
美術は、変化の連続です。一枚の絵にも流れがあり、好調と不調は挑戦していれば必ず訪れます。
むしろ不調のない絵は、挑戦のない絵とも言えます。
不調を見出して修正していく力こそが、求める真の美術力です。
修正は、過去の自分を否定することになるので、とても苦しいものです。
ですがよりよいものづくりの大きな力にくらべたら、自分の過去なんて大したものではありません。

変化に強くありたいと、いつも思っています。
美術の世界には、大きな波と流れがあります。
天候の変化のように抗えない、強力な変化もあります。
どのような状況の変化においても、自分の美術を貫くことのできる力を、持っていなければならないと感じます。
そのためには、直感を鍛えておかないといけません、

知識や情報が積み重なれば重なるほど、人は直感を見失います・
時に知識を積み上げて上から物事の全貌を見ることは必要ですが、
積み重なって上から眺めたら、その知識の階段をガラガラと平らに崩すことも、よく行います。
彫刻は同時に下からも見上げる目線が必要になります。
大事なことは、ものごとをあらゆる角度で観察することだと、彫刻が教えてくれました。

私は、脳の声と同時に、心の声、手の声を聞き、自分の中の直感に従って長考することなく決断をしていくことを試みていこうと思っています。
考えることと迷うことは似て非なるもの。
迷いは恐れを生み、直感を遠ざけます。
その間にも時は流れ、現実の美は移ろい、生き物は老い、日は傾いていくでしょう。

いかなる時も直感で新しい一刀をふるい、変化を体感しながら修正力を持って仕上げていく、
どんな状況でも完成を諦めず、いい形だけを求め、ぎりぎりの深みに彫り込んでいく。

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