変わらないもののために

変わらないことを最近、とても大切にしています。
20年前に食べていた大好きだったレストランのオムライスが、20年後に思い出して入ったら同じ味がして泣けてくるような、そんな変わらないものを届け続ける職人さんたちの心意気に、心打たれます。
美術はなぜか真新しいものや斬新奇抜なもの、一見見たことのない難解なものが好まれる傾向がありますが、私はそんな世界からすこし離れたところの、山奥の森の一軒家でひっそりと育まれる美術をやっていきたいと思っています。

進歩はもちろんしていきますが、原点が変わらないように作り続けたいです。
紀元前の彫刻が今も美しく魅力的なのは、何千年も前から自然界の美は完成していて、敬意を持って自然を忠実に再現しようとした職人さんたちの思いが伝わるからのように思います。

はじめて刀を握った時の純粋な感動や、はじめて筆で色を使って絵を描いた時の世界の広がっていく感じや、デッサンをはじめて見えるもの全てが美しく見え始めた頃の熱い思いを、毎日朝起きるたびに感じていたいです。
自分が美しいと感じたものを、美しいと人に伝えるために身につけるのがデッサン力ならば、
生涯かけて限界まで身につけていきたいです。
そんな中で、進むだけじゃなく、戻る、とどまるといったことも、大切にしていきたいです。
変わらないたいせつなものごとを、いつもそばに置いてものを作りたい。
デッサンを続けることが、私が変わらないでいられる唯一の道標だと感じています。

三重の片田舎に移り住んで、目の前の大自然の景色や動物たちの声色があまりにも美しく、
「この景色が変わらないでほしい。」と、心底思います。
この風景を守ることも、これからの私たちが進むべき道なのだと思っています。
私のやっている美術は、この田舎の風景そのものなのかもしれません。
変化することが大事なのでなく、変わらないものを守っていくのがたいせつな、そんな美術が、具象彫刻なのだと感じます。

上手くなること、技巧に走ること、癖が現れること、商業的になりすぎること、慣れで描いてしまうこと、
たくさんの難敵が職業美術では待ち構えていますが、
どれも想像力を持って客観視できれば、振り払えるものです。
見る人、買ってくれる人を思う想像力を持ってものをつくることは、私が職業としての美術でいちばん大切にしていることです。
自分でない、他の誰かの宝物を作り出すことが、今の私の生きがいになっています。
変わらないことのために、毎日工夫して小さな変化を繰り返しながら、暮らしを保っていきたいです。

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