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クリープハイプ「夜にしがみついて、朝で溶かして」ライナーノーツ


私がクリープハイプの曲を最初に聴き込んだのは2ndアルバム「吹き零れる程のI、哀、愛」からでした。

当時は今のように便利なサブスクリプションもなくて(最近はもっぱらApple Musicにお世話になっています)、TSUTAYAにCDをレンタルしに行っては音源をウォークマンに移して、増えていくお気に入りの音楽たちを通学中のお供にしていました。

先のアルバムをジャケットに惹かれて手に取るまではクリープハイプといえば「あぁ、あの日焼け止めCMで曲が流れてるバンドか。ボーカルの人の声、めちゃくちゃ特徴的やんなー」ぐらいにしか認識していなかったのですが。

本命じゃなくてあくまでも義理で、ぐらいの軽い感じで借りて帰って聴いてみたところ、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けました。

バンドのことはよく分からないけれど何がすごいと思ったかって、まず尾崎さんの歌詞ね。
哀しみや怒り、諦め、嫉妬など、普通やったらこんなマイナスな感情もっとオブラートに包んで表現するでしょうってことを剥き出しで叫んでいて。
その頃の私自身が人目を気にして本音を飲み込んでしまいがちなタイプだったから、「建前も何もとらずに、この人は歌を届けることが怖くないのかな?」と勝手に心配までしてしまった程に、荒々しくて刺々しい歌詞たちが私を射止めてきたのでした。

そんな歌詞の意味を理解しようと何度も何度も聴いて、それでも飽き足らず1stアルバムにも浸るようになった頃にはすっかりクリープ独特の世界観にまんまとハマっておりました。

あれからもう10年近く、私のまんなかにはいつもクリープハイプの音楽がありました。

凹んだ時には棘で埋めてもらったし、鬱憤が溜まった時には代弁してもらって、心を軽くしてもらいました。
恋にも愛にもならなかった関係性を清算した時にはその傷を舐めてもらったり、何気ない日常の大切さを忘れかけた時には思い出させてもらったりもしてきました。

私はそんな風にクリープハイプの音楽にずっと支えられて救われて生きてきました。

だから、「下手でも何でも良いから言葉をください」と呼びかけてくれた尾崎さんの気持ちに、これまでの感謝を全部詰め込んで応えてみようと思ったのです。

前置きがすごーく長くなりましたが、ここからはクリープハイプの最新アルバム「夜にしがみついて、朝で溶かして」の私的ライナーノーツを書いていきます。

 ◇◇◇ 

01:料理

いつも夕ご飯の支度を始めるのとあわせてアルバムを流し始めるので、まさに料理の真っ最中に聴いています。尾崎さんの歌詞の中でいちばんの魅力とも思える掛詞が随所に散りばめられていて、聴くたびに発見があって楽しいです。(私も「やっぱり横にはツマでしょう」と言われる人生でありたかったなぁ。笑)
夫婦って(カップルでも)色々あるけれど、甘いも辛いも熱いも冷たいも、どれも使い方や選び方次第で料理の味を引き立ててくれますよね。だからこそ奥が深くて難しいものにも感じてしまうのだけど。
誰かと向かいあって美味しく食べることができたら、それだけで腹も心も満たされますよね。

02:ポリコ

今作の曲の中でライブで最も聴きたい、踊りたい!と思った曲です。カオナシさんのベースから始まるイントロだけで身体が疼いてしまいます。
大掃除しながら、汚れと一緒に小さく削られていくスポンジに感情移入しそうになりました。ポリコよ、いつも身を呈して闘ってくれてありがとう。

03:二人の間

夫と結婚以前のカップル時代には会話の最中にできる「間」が「魔」の時間に思えていたけど、いつのまにか間のある方が居心地いいなーと思えるようになっていたことに気づかされた曲です。仮に、今になって急に間を取り除こうと夫が一方的に話し出したら、あらぬ疑いをかけてしまう自信があります。二人の関係性でこうも間の意味合いが変わってくるのは面白いですね。
クリープのメンバーが奏でる音の間合いやかけ合いがこれまた良くて、ずっとリピートしていられます。

04:四季

私の中で夏に聴きたくなるバンドがもっぱらクリープのイメージだったのですが、これからは年中無休でこの曲を聴けます。ありがとうございます。
「楽しいからしょうがねー」とか「無性に生きてて良かったと思って」とか、尾崎さんからこんなストレートな喜びの詩をもらえるなんて、本当に生きてて良かったです。ありがとうございます。

05:愛す

「愛す」と書いて「ブス」と読ませるなんて、尾崎文学の真髄を見せられた気持ちです。
いちばん大切に思っている人にいちばん鋭い言葉をぶつけてしまうという経験、恋人関係に限らず親子や兄弟間でも本当によくありますよね。(とか言っといて私だけやったらどうしよう。笑)
これって何でなんでしょうね、結局のところ何を言っても許してもらえるはずだって相手に甘えてるからなのかなぁ。
それでも、大切な人とずっと一緒にいたかったら捻じ曲げた言葉じゃなくて、まっすぐな言葉を届けていかないとダメですよね。そう思わせてくれる名曲だと思います。

06:しょうもな

微睡の中見てる夢から現実見ろよって叩き起こされて、寝起きに顔面パンチを食らったみたいに始まる劇的なイントロに、これまでのクリープらしさと真新しさの両方を感じました。
「愛情の裏返しとか流行らないからやめてよ」と続く歌詞には逆さま言葉が多用されている上、全編にわたって乱暴で身勝手な言い回しが散りばめられていて一見すると何が何だかって感じなのですが、この詩の中の人が伝えたいことって実はすごくシンプルなんだろうなぁ。
届きたい人にその声が届きますように。

07:一生に一度愛してるよ

アルバムの7曲目くらいに見事なタイトルで差し込んできてくれましたね。これは私を含めた往年のファンがニヤニヤしながら聴いていること間違いなしです。
唸りポイントを書き上げるとキリがなさそうなので、ここではただ一つだけ言わせてください。クリープはファーストも最新もいつだって最高を更新してくれて、私のドキドキを加速させてくれる最っ高のバンドです!

08:ニガツノナミダ

SoftBankとのタイアップで生まれた曲ですよね。
初めに聞いた時は例にも漏れず尾崎さんらしくないなと思ったのですが、SHISHAMOの朝子ちゃんとラジオで話していたことを聞いた後には、この仕上がりにすごく納得したというか拍手を送りたくなりました。
あと「『しばられるな』にしばられてる」って歌詞にハッとさせられましたよね。尾崎さんの言葉選びはやっぱり秀逸でこの上ありませんね。

09:ナイトオンザプラネット

アルバムのタイトルにもなっているフレーズが入っているこちらの曲は、夜更けに小さな灯りだけを点けて聴き入って、静かに感傷に浸りたくなるような、ちょっぴり大人びた雰囲気を漂わせています。
尾崎さんはこの映画を誰とどんな気持ちで観たんだろうとつい想像してしまいます。どうしたらこんなに美しくて儚い詩が綴れるんだろうなぁ。
乗り込んだタクシーの窓の外に流れていく夜景を彷彿とさせるようなドラマチックな音の重なりや旋律、尾崎さんの淡々と、それでいて熱を帯びた語り。そのすべてが深いところにじーんと沁みてきます。

10:しらす

毎度お楽しみのカオナシさん曲、祭りの祝詞として捧げられてもおかしくない高貴な民謡感にまずグッときました。「みんなのうた」で流れていても違和感なさそうですよね。
これからしらすを食べる時には尾崎さんの可愛いセリフパートが脳内リフレインすること間違いなしです。
そういやこの曲を聴きながら高校時代の部活仲間が「私、小魚全般食べられへんねん。じっと見られてる感あってドキドキしてもて無理やねん。」と言っていたことを思い出しました。だから何やねんって話ですけど。

11:なんか出てきちゃってる

偶然ネジがゆるんじゃって、いったい何が出てきちゃったんでしょう。セリフパートを何回聞いても分からんぞ。私の人生経験まだまだやな…。笑
誰かせーので教えてください。ちゃんと引っかかってやってくださいね、頼みますよ。せーの。

12:キケンナアソビ

性をテーマにした楽曲はクリープの代名詞のひとつでもあると思うのですが、この曲に登場する女性は完全に割り切ってるようでやり切れないところが妙にリアルで、何かえぐり取られるような感覚になります。
この女性にも帰れるところがあればいいな、と願わずにはいられません。男性目線だとこの曲を聴いてどんな風に思うのだろう。知りたいようで知りたくないような気がしないでもないような。うやむや。

13:モノマネ

はー。もう好き。語彙力皆無になるぐらいに好きです。モノマネして追いかけっこするギターリフもたまらん。
「恋は人を盲目にする」ってよく言いますが、「盲目にならないと恋じゃない」の間違いなんじゃないかって、ちょっと思わされちゃいました。
二人でいる幸福感に満ち満ちた「ボーイズENDガールズ」の続きとされるこの曲ですが、まさかこんなにも切ない二人の終わりを、ささやかな日常を切り取っただけでこんなにもエモーショナルに描いてくれるなんて、あまりに憎いのです。
曲が終わった後にはまるで一つの小説を読み終えた時のように胸がいっぱいになってしまいます。忘れられない恋をしたことがある人は必聴ですぞ。

14:幽霊失格

今年の春に実家で10年来飼っていたうさぎが亡くなってしまいました。亡くなる数日前からいよいよかもしれないと家族から連絡は受けていたものの、コロナ禍だったこともあって、実家には帰らずにテレビ電話をつないで最期を看取ることにしました。
ただ、画面越しのお別れになって、最期にありがとうと抱きしめてあげることができなかったことが心残りになってしまって。
そんな最中、何度もリピートして聴いたのがこの曲でした。
大切なものを失った事実をとことん悲しめて、それでいて未練がましく縋(すが)ってしまう自分を優しく包み込んでくれるあたたかさも持った、クリープ史上屈指の名曲と言っても過言でないと思います。

15:こんなに悲しいのに腹が減る

冒頭の歌詞で串カツを連想した私。大阪に住んでいた頃、通天閣のあたりに何度か食べに行ったなぁ。
アルバムの最後にとんだ良曲がきましたね。悲しくて苦しくて腹が減ったなら、大切な人のそばにいて腹を膨らませたらいいのだ!と、またすぐ1曲目に戻って聴き直したくなります。
「死ぬほど生きたい」って言葉の綾みたいに思えるけど、本当のことですよね。頭で何をどう考えていても、腹が減るというのは生命体としての自分が生きたいって叫んでることと同義なんですね。それを知ってたらこれからは間抜けに鳴るグーってお腹の音が、少し尊く思えたりするのでしょうか。

 ◇◇◇

はじめてのライナーノーツ、どうもお粗末さまでした。

思いの外書き上げるのに時間がかかってしまって(好きを表現するのがこんなに難しいとは…!)ことばのおべんきょうのキャンペーン期間からは外れてしまったのだけど、あわよくばこのライナーノーツがクリープのメンバーに届きますように。

久々念願のホールツアーに備えて(太客倶楽部先行で岡山公演チケットゲットしました!わーい!)、新年もまだまだ引き続きアルバム聴き込んでいきます。

これからもクリープハイプが生み出す音楽に出会っていけるのを楽しみにしてます。いつも本当にありがとうございます!

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