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プーチンは何故戦争をしたのか

 ウクライナ・ロシア戦争に世界の関心が集まっています。ここで、何故戦争が起きたのかという分析と今後の未来についてまとめてみたいと思います。

1.プーチンの戦争動機

 巷では「ウクライナのナチ化」であるとか「ウクライナ国内の生物兵器工場の破壊」とか「ドネツク地方におけるジェノサイド」という話が流布されていますが、そんなことがあったらまず国連で非難決議を提議すべきであって、親露勢力を勢いづけるプロパガンダにすぎません。

 では、そもそもどうしてプーチン大統領は戦争を始めたのでしょうか。それは、歴史的にナポレオンやヒトラーの侵攻からロシアを守ったのは周辺の衛星国であったのに、昨今はその衛星国がNATO(北大西洋条約機構)に接近し、EUに加盟しようとしているからです。つまり、これらの周辺国が緩衝材の役割を歴史的に果たしていたのに、ロシアの喉元にナイフを突きつける存在となる恐れがあるためです。もし、ウクライナにNATOがミサイル配備をしたら、モスクワまで目と鼻の先です。独ソ戦をポーランドからではなく、モスクワ付近のクルクスから始めるようなものです。プーチンの「いらだち」がわかります。

 そこで、プーチンは以前からウクライナを侵略しよう画策し、ウクライナ東部のドネツク地方を分離して独立国を承認するなどしていましたが、そのときはトランプ政権ですから、下手な動きは出来ません。しかし、バイデン政権となって、「緩み」が出来たことをプーチンは感じたのでしょう。その試金石となったのが、先月末の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立承認です。トランプ政権なら、ここでただちにウクライナへ米軍を派遣して配置したでしょうが、バイデン政権はしませんでした。これで「いける」とプーチンは判断し、今回の戦争を決断したと考えます。

2.プーチンは狂っているのか?

 米上院情報特別委員会に所属するルビオ上院議員がツイッターで「本当はもっとお話ししたいが、プーチン氏は何かがおかしいということだ」と発信するなど、「プーチン精神障害説」が流布されています。

 しかし、プーチン大統領の精神状態は健康だと私は考えます。何故ならば、ちゃんと段階を経ているからです。

 2013年12月、ウクライナのヤヌコビッチ大統領(当時)と中国の習近平総書記が北京で会談し、核防衛協定に調印しています。簡単に言うと、ウクライナはソ連崩壊後にソ連の核兵器をそのまま所有することになりましたが、1994年12月のブダペスト協定で核兵器を放棄してしまいました。そこで、中国と安全保障条約みたいなものを締結して、ウクライナの防衛に中国が関与する約束をしていたのです。

 そこでプーチン大統領は「核兵器を使うぞ」と脅迫するメッセージを世界に発信したのです。つまり、中国の出方をみたのです。核戦争になれば、人口が多い中国は戦略核を数発被弾しても国家機能は維持できますからね。しかし、中国は何もしませんでした。

 3月4日にロシア軍は、ウクライナ南部にあるザポロジエ原発を砲撃しました。これも、世間は「狂気だ」と騒ぎましたが、原発は被弾場所によりますが、冷却装置や発電設備さえ壊さなければ砲撃をある程度受けても爆発しません。つまり、「凄まじい恐怖」を世界とウクライナ国民に与えようとした「政治的効果」を狙ったものといえます。この原発とモスクワは地理的に近いので、もしメルトダウンをしたらモスクワ市民も被曝しますし、穀物地帯が全滅しますからロシア国民は怒り狂い、プーチン大統領は支持基盤を失います。なので、目的は「恐怖を与えること」と原発を停止させて電力不足にさせて、より侵攻作戦をしやすい情況をつくりだすことにあります。

3.今後の世界について

 考えられる未来は三つあります。確率が高い順番に書いていきましょう。

 第一は「ウクライナという国家が消滅して焦土地帯となりロシアの緩衝材の役割を果たす」です。ロシアの目的は前述した通り、ロシアと西欧のあいだにある緩衝材を求めていることです。この地域がロシアの衛星国になっても、無人の荒野になっても、一応目的は果たせます。ロシアにとって危険なのは「ウクライナにNATOのミサイル配備」です。それを阻止できたならば、戦争の目的は達成したといえるでしょう。バイデン政権も着地点をそこに定めているのか、支援物資を送る以上のことは現時点でしていません。

 ただし、この場合は「暴力が勝利した」という強いメッセージを世界に発信することになります。もし、ロシアが敗北したならば後ろ盾を失った中国は大人しくなり世界に平和が訪れるでしょうが、ロシアが勝つと勢いづいて、必ず台湾・尖閣・沖縄侵攻を含む膨張政策をしてきます。千島列島も今後は米露衝突の舞台になるでしょう。

 第二は、ロシアの壊滅です。御存知の通り、ロシア株価もルーブル通貨も急激にさがり、世界各国の銀行はロシア銀行との通貨決済を排除して、サハリンなどから天然ガス採掘事業も撤退し、クレジットカード各社はロシアの銀行での決済を停止し、グーグルやアップルも電子マネー決済を取りやめました。ロシア国内でも厳しい取り締まりの中、反戦運動が盛り上がりをみせており、ロシア政府は反政府運動をした者を懲罰部隊に送り込む法律や、ロシアに不利な情報をSNSで投稿した人を投獄するための刑法改正をするなどの様相をみせています。これは言い換えれば「ロシア国内の反対運動の盛り上がり」の証左です。

 このままいくと、ロシアは内部から崩壊する恐れがあります。ウクライナの人々がジャベリン(対戦車ミサイル)とスティンガー(対空ミサイル)で応戦してロシア軍に今後も出血を与え続ければ、ロシア兵遺族に戦死通知がされるたびに厭戦気分は高まり、ロシアは統治能力を維持していくことが難しくなるでしょう。政権内部からもプーチンの暗殺などを試みる勢力も増えるかもしれません。

 なにより、侵略戦争の失敗は「暴力で世界秩序の変更は出来ない」という強いメッセージを世界に発信することとなり、中国も委縮して世界はしばらく平和になります。日本にとっても良い未来になるといえます。

 しかし、これは、ウクライナ軍によるこれ以上の奮闘と世界各国の武器援助(日本は1億ドルと医薬品と防弾チョッキの援助)、そして外国人義勇兵のウクライナ参集(3/4時点で16000人がウクライナ到着したとウクライナ政府は発表)、など、世界が力をあわせる必要があります。

 ただ、直接的な「武力介入」をして正規軍をウクライナに送ると、ロシアが戦術核を使用する口実になりますから、あくまで国籍を隠した「義勇兵」でなければなりません。

 歴史的には「フラングタイガース」など、明らかに米軍機と米国人パイロットなのに「義勇兵だからアメリカは知りません」という外交上の立場を主張して日本軍を殺傷し続けた例もありますから、「国籍は知らないけど、なんかすごい義勇兵が来た」ということも今後あり得ます。

 こうして世界各国のウクライナ支援とロシア政府の弾圧を上回る反プーチン政権運動が起きてロシアの内部崩壊、という二つの要素が合わされば、今回の戦争はウクライナの勝利に終わるでしょう。これが第二の可能性です。

 第三の可能性は、みなさんが考えている通り第三次世界大戦です。ロシアはウクライナを支援し続ける世界各国にしびれを切らして戦術核を使う、という流れです。ただ、ロシアは「アバンガルドミサイル」というマッハ20で飛んでくる絶対に撃墜できないミサイルを2019年に実戦配備しているため、基本的にウクライナに殉死する国は無いので、核戦争リスクを負ってまでやる気をみせる国は無いと思います。

 しかし、ロシアが先に戦術核を使った場合、この限りではありません。NATO加盟を希望しているフィンランドなども含めて、極めて悲しい未来になることでしょう。しかし、それはプーチン大統領も望むことではなく、あくまで今回の戦闘目的は「ロシアの周辺国を緩衝材にしてNATOの軍事的進出を防ぐ」という目的ですのため、ウクライナ・ロシア戦争から第三次世界大戦が起きる確率は限りなく低いか、ほとんど無いといえるでしょう。

4.結論

 NATO側もロシア側も核戦争をしても得は無いので、両者の妥協点として最も実現されるのではないかと思われる未来が「ウクライナの消滅」です。ソ連によるアフガン侵攻作戦のときのように10年くらいの「戦乱状態」になっても、「緩衝材」としての位置になります。

 非常に残酷な未来ですが、ウクライナを統治する者がいない状態になれば、ロシア側も戦争目的を果たせますし、NATO側も「ソ連以前」に戻るだけなので、自国へのリスクを減らせます。

 しかし、そんな未来は日本にとっても有害でしかないので、日本政府はウクライナへの支援をより増やし、ヒト・モノ・カネを惜しみなくつぎ込むべきです。ウクライナが暴力によって消滅した場合、世界は暴力が支配する群雄割拠の戦国時代になることは目に見えています。数十兆円規模の支援を決定すべきであると提言します。

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