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河瀬直美の「東京2020オリンピック SIDE:A」雑感、創作活動とハラスメントをめぐる問題について

東京2020オリンピック SIDE:A

河瀬直美が総監督を務めた、東京五輪の公式記録映画「東京2020オリンピック SIDE:A」を見てきました。

オリパラそのものについての賛否があり、IOCの製作という構造自体がプロパガンダであり、製作に密着したNHK BSでの“字幕捏造”問題あり、別作品の撮影での暴行問題あり。とネガティブな情報が多すぎるこの作品。TOHOシネマズ 秋田6/9のレイトショーは貸切状態の客入りでした…

まずスポーツの素晴らしさ、オリパラ賞賛!という描写は河瀬が選ばれている時点で想定されていなかっただろうし、期待もしていなかった。そういう映画じゃないことはコピーからもよく分かる。大きなテーマに引っ張られすぎず、女性アスリートがライフステージの変化にどう向き合っていたのかなど、小さなドラマをきちんと捉えたつくりになっていたのは、らしくていいと思いました。

でも肩透かしな印象が強かった。それは対比として描かれていたかもしれない膨大なシーンをうまくつなげて見ることができなかったからかもしれません。

まず開幕前の神宮の風景から競技シーンまで。インサート的なカットが非常に多く、普通にいい映像が続きます(河瀬が全て立ち会って撮影したものばかりではないと推察される)。コロナ禍や延期など複雑な経過を含むのにも関わらず、ナレーションもなく淡々と客観性の高いシーンが続く中に、突如として森喜朗Tokyo 2020会長や山下泰裕JOC会長らを極端なアップで捉えたインタビュー(カット割自体は、昔からアップを多用する作家なので驚きこそしないものの、作品からうきまくっている)。そして視点が女性アスリートに寄っていくという感じで、何と言いますか河瀬の作家性の発揮のされ方が中途半端になってしまっている印象を受けてしまいました。

果たしてこのような大作めいた作りをする必要があったのでしょうか(政治的にはあったのかもしれません)。「ドキュメンタリー」でキャリアを歩み始めた河瀬が商業映画を撮るようになってから、しばしばこのような作品のつくり方がされてきたとは思うのですが、「ドキュメンタリー」を前提としている本作だから、どこかでもう少しふりきったつくり方を自分が無意識に期待しすぎてしまっていたのかもしれません。

まとまらないのですが、まずは雑感として。SIDE:Bの公開を待ちたいと思います。

創作活動とハラスメントをめぐる問題について

いい機会なので、普段は基本的に書くことをしていない、創作活動とハラスメントをめぐる問題について少しだけ書いておきたいと思います。

まず作品と作家の人間性や作られ方について、基本的に自分は切り離して考えたいタイプです。普段体験する多くの作品は、それ自体で独立しているからです。でもそういった情報に触れた時、作品体験がかなりのノイズになるのでとても残念な気持ちになります。ただ当事者でもない限り「何かあったんだろうな」と盲目的に信じることも、それだけを理由に作品を敬遠するということはできるだけしないようにはしている。それ以上でも、以下でもありません。だから河瀬の作品は見にいきました(学生の頃からある程度追いかけている作家でもある)。

「あの人に限ってそんなことをするはずがない。」といった擁護をこれまでにも何度も見聞きしてきました。特に素晴らしい作品をつくる方、普段のコミュニケーションを重ねる中で人間性が高いと感じられる方に対して。あるいはパートナー関係にある方に対するこの言葉は強力です。しかしそのような関係性がありながら「当事者」ではない方が安易に擁護する行為はとても危険だと思います。それにより更なる心理的被害者を生み出してしまう可能性すらある。

実際に親しい作家から相談を受けたこともあります。自身がその当事者ではないのでその話を盲目的に信じることはできませんが、加害者はもちろん加害者を擁護する行為が2重に被害者を苦しめることがある、ということを実感しました。真面目にやっている者が損をする。そんな事態は可能な限り避けるべきです。

ではどうしていけばいいのか。取材を通した事実解明や啓発活動に取り組んでいる方には、脱帽する思いです。一緒に声をあげたり、水面下で支援的な活動をすることもできるはずなのですが、現状ではそういったことができていません。SNSなどで考えを書くことも、このエントリが始めてで最後になるかもしれません。

なぜならば、ひとつには自身が当事者になった経験が少ない(と思っている)。だから実感をもって活動ができない。もうひとつには、自身が気づかないうちに当事者になっていたことがあるかもしれないという恐怖。何かこれについて発言すること自体が、その自分からは見えない被害者をさらに傷つけてしまうかもしれないと思うからです。

あたり前に、健全な創作活動が行われる環境を願いつつ、いま書ける自分の考えをここに記しておきます。

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