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講演会「本という容れ物について / 清宮伸子(金沢市立玉川こども図書館;2024年7月21日)

日時:2024年7月21日(日)14:00~15:30
場所:金沢市立玉川こども図書館
講演者:清宮伸子(「本の周辺」店主)

金沢市広報に載っていたお知らせを見て,金沢市立玉川こども図書館で行われた標記の講演会に参加してきました。この講演会は金沢ライブラリー・パートナーズというボランティア団体主催によるもので,フランスで長年ルリユール(製本・装幀家)として活動し,現在は金沢で「書架の周辺」という古書ギャラリーを営んでる清宮伸子さんが,フランスの製本・装幀(そうてい)文化を紹介しながら、構造物・容れ物としての本について考えるという魅力的な内容でした。私自身,インターネットや電子書籍など電子媒体での情報流通が普通になった現在,形を持った紙の本には新しい意味が出てきているのではと感じています。紙の本の現代的な意味を考えるきっかけになるのではと思い参加してきました。

内容は大きく分けて(1)フランスのルリユールについての概説的な話(2)構造物としての本を考えるの2部構成になっていました。全体を通じて、清宮さんの個人的な体験談や思いを交えた,知的な好奇心を喚起してくれるような話を伺うことができました。メモを取りながら聞いていたので、内容をざっとご紹介しましょう。「#」は私の感想やコメントです。

フランスのルリユールについて

  • フランスの出版社は製本・装幀は行わず、仮綴本で発行するのが慣例。各ページが袋綴の状態になっているので、ペーパーナイフで切りながら読み進める必要がある。#この「手間暇かけて読む」、レトロな感じはちょっと味わってみたいですね。現代も同様なのでしょうか。

  • 仮綴本を製本・装幀することは、本に命を吹き込むこと。

  • いせひでこ著『ルリユールおじさん』(講談社,2011)とい絵本が出て、少し話題になった。お薦めの本。#この本、読んでみたいですね。

  • 装幀については、日本の本の場合(版元が行う)とは意味合いが違う。フランスでは、出版と製本の兼業が禁止されている。書名等の金の箔押しをする仕事も別の仕事になっている。60も工程がある。 #仕事が細かく分業されている職人技という点で輪島塗などの伝統工芸に通じるものがあるかも

  • ルリユールという職業は職人+作家である。

清宮さんの仕事について

  • コレクターからあずかった本について仕事をしている。年15冊程度。「作品を作る」という意識で作っている。

  • 清宮さんが2017(?)年に行った個展の目録に掲載されている、製本を行った本についていくつか紹介。フランスでは三島由紀夫の人気が高く、『金閣寺』『潮騒』『宴の後』といった本の製本を行ってきたとのこと。

  • 装幀は手触りが大切。実際に「その本」(製本を行うその本)を読まないとイメージがわかない。

  • 完成後、保存箱をつけて納品している。丸みを帯びた背にこだわる人も多い。#講演の後、作品をいくつか拝見させていただいたのですが、確かに丸みを帯びた背は美しかったですね。

  • 自分のために製本をすることはほとんどないが、「Pulina(?音だけだと書名を特定できませんでした)」という小説については自分のために作った。

容れ物としての本の側面

  • 本をモノとしてとらえるか?読み物としてとらえるか?フランス人についてはモノとしてとらえる感覚の人が多いようだ。本作りの工程を身近に見ている人が多いからでは。

  • 本は中身が重要だが、フランスの本の場合、装幀していない仮綴の本は本として機能しない。製本されると、読みやすくなり、書棚に立てられるようになり、しっかり保存できるようになる。古い本が残っているのは、本が製本されているから。

  • 数年前、金沢工業大学所蔵の貴重書の展覧会が行われたが(#私も見に行きました)、それらの本が綺麗に残っているのは製本されていたから。そのことについて全く触れていなかったのは残念だった。

  • 本は人の五感に触れるモノである。触感、ページをめくる音、本のにおい…こういったことを体感でき、記憶につながる。その記憶は一生自分の中から消えない。

  • 電子書籍は現代人のライフスタイルに合っていることは確かであるが、形の魅力や体感しながら、他人の世界をのぞき込めることは紙の本の方が上回る。#この辺の記述、間違っているかもしれません。

最後に

  • この日の講演をきっかけに、本をモノ・構造物としてとらえてみてほしい。

  • 製本業はあまり日が当たらないが、日本の本(機械製本された本)のクオリティの高さも知ってほしい。

質疑応答

最後に質疑応答がありました。その内容もどれも興味深かったですね。

■皮装幀の本の耐久性やメンテナンスについて
→皮は湿度に弱い。その点で日本の風土に合わない面もある。

■クライアントとの対話について
→クライアントとは本を超えた、家族ぐるみの付き合いをするなど時間の積み重ねが必要。「その人になら本を託せる」といった深い信頼関係が必要。クライアントの生き方に参加する感じ。
# 何か製本・装幀の仕事というのは、その人の人生そのものといった感じですね。

■特に印象に残ったエピソードは?
→21年間で450冊ぐらい製本している。全部1人で作業したので、1冊1冊に思い出はある。自分の好きな本のときはうれしいことは確かだが。

■フランスの本の装幀文化は富裕層以外にも浸透しているか?
→フランスは伝統的に本が高い。反対に日本の本は安い。それは紙の種類が豊富で、寺子屋等による教育が江戸時代から浸透していたことにもよるのでは。フランスには「本を贈る文化」が今でもある。パリには実は製本工房は街の中に結構ある。行くことがあれば注意してほしい。

というわけで、本に関係する仕事をしているものとしては、大変興味深い内容で、いろいろなことを考えるきっかけになりました。

本に形が必要かどうかという点については、本のタイプにもよるのではと思います。これだけ情報量が増えた現在、「紙にする必要もない」文字情報も多数あると思います。その人の人生にとって大切な本は紙がふさわしいと言えますが、そうなると趣味的な世界(仕事とは別の世界)に入り、「情報」とは呼べない世界になりそうです。今年のベストセラー、三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』に出てきた、情報そのものではない、ノイズもたくさんあるような世界という話につながっていくと思いました。そして、その方が楽しいということは言えそうです。

この日、資料として、アルレット・ベイリー著『ルリユール入門:革製本への手引き』(沖積舎,1991年)の一部のコピーが配布されました。わかりやすそうな本だったので、機会があれば読んでみたいと思います(ただし、絶版のような感じ)。

PS. 玉川こども図書館が何年か前に改装されて以降初めて来てみましたが、大変きれいになっていました。

実は玉川図書館に来たのも久しぶり。
玉川図書館を通り抜けて…
左側が玉川こども図書館
玉川こども図書館の玄関
壁面に書かれていた多言語メッセージ
とてもきれいな内装



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