塞翁が馬、佳き道へ。9
処置室の簡易ベッドのカーテンの向こうで母が薄い掛け物を掛けて横になっていた。
マスクをしていて一見、わからないが 鼻をぶつけて鼻血が多く出て、外見も腫れているようだ。
「いや~心配掛けてごめん、大変な目に遭ったわ…仕事は?」
「1件目の仕事は時間ギリギリだったから入らせてもらったけど、次の訪問は責任者に連絡をして急きょ代わってもらったわ」
訪問介護のような、自分ひとりで対象者宅に回りながらの仕事ではなく、何人かで同じ場所での仕事なら 事故の連絡が有った後は周りのフォローで何とかしてくださいと、その場を直ぐ出て駆け付けられるが
もっともっと大変なことになっていないで助かったと、目の前の母には言えないが、少しだけ本音を感じた。
母のこいでいた自転車と前方から来た車と接触し転倒、頭も打ちCT検査などをしたので その結果待ちだ。
「あの辺り、工事していてしっかりクランクになってるでしょ。結構車はスピードあげてた気がするのよ、こっちは左側通行守っていたけど車の端に当たったのかな?気が付いたら天井が見えて、あ~やっちゃったわー!って思った」
頭を打って大きなコブができていたが、不思議と痛いとかそういう感覚は無かったようだ。
興奮している時はアドレナリンが分泌され、さほど痛みを感じない時も有ると耳にしたことが有るが…まさにそうだったのかもしれない。
頭のま後ろにコブ、その真逆の鼻も強く打って晴れて鼻血が出たほど。打った場所が全くの反対側、どうやってぶつけたり転んだりしたんだろう…
そんな話も元気にできる、そして、トイレに行きたくなってきた…と言う母に看護師は
「あっトイレですね、処置室出て右の奥の方にあります。歩くの大変だからそこに有る車椅子を使ってくださいね~」
え?起きて大丈夫なんだ、大変そうだけどその辺りまでの感じなら少しだけ何とかなるかな。
「お母さん大丈夫だよ!私はこういうのプロだから!安心して!」
ゆっくりとベッドから車椅子に移り、肘掛けから外に両肘をを出して座る母。
車椅子を押すだけに、プロも何も無いでしょと苦笑する母。
「手がタイヤに擦れて怪我しちゃうよ~こういう目線がプロって言えるんだよ~」
肘掛けから肘を外に出していたらタイヤと肘が当たって怪我をするかもしれない、それを防ぐために私は母の手をお腹の上に乗せてから車椅子をこぎ出した。
続く。。
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