塞翁が馬、佳き道へ。3

「おはようございます!今日も宜しくお願いします!!」

私の直前の出来事は、知られても気を遣われるだけなので、ご多分に漏れず仕事人として普通通りに振る舞った。

私の対応する利用者さんは いつものようにおしゃれに支度を済ませ…娘さんとソファーに座って待っていた。

実はさっき、母が交通事故に遭ってしまってなんて言いながらのヘルパーが来たら

私が利用者だったら「帰りなさい!」って言うに決まってるし、そう言ってもひとりで4階からエレベーターの無いマンションでは下まで降りられず、今日はデイサービスを休まざるを得なくなる。

娘さんはこの利用者さんが、デイサービスに出掛けないと 仕事に行くことができない。

私の母が意識もなく最悪の形であれば、そうも言ってはいられないが、取り敢えず 今のこの場はここに来ることを優先させてもらった。

「今日も良い天気でデイサービス日和ですね~桜も咲いてますし良い時期だな~…」

杖をついた利用者さんが転ばないよう、直ぐ近くで歩行見守り介助をしながら玄関に向かう。

歩き始めたばかりの時に、救急隊の方からスマホに連絡があった…機械操作の時でなく、このタイミングで助かった。

仕方ない、一緒に歩きながら娘さんにも断って電話に出る。小声で対応する。

「搬送先が決まりました。世田谷区瀬田の、玉川病院です。宜しくお願い致します」

お礼を言って電話が切れると、二人が私を茶化してきた。

「こんな時に電話?次の仕事?事務所から?あんたも人気者だね~」

「そうなんですよ~この後に仕事が追加になったので~…土曜なんで休日出勤手当てが増えるから、助かりますけどね~」

三人で笑いながらゆっくり玄関に向かった。こうやって笑って普段通りに過ごしていれば、母も普段通りに帰って来れるはず!

仕事をしながらそして、母の無事を祈りながら、利用者さんに機械の椅子に安全に座ってもらった。

ここから先は下に降りるまで、お母さんのことは忘れよう…ぼんやり考え事して操作を間違ったら大事故に繋がってしまう。

とにかく機械の操作に集中して、利用者さんの話を聞くこと、普段通りに笑って過ごすこと。いつもの勤務と同じように時を進めた。


続く。。

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