【小説】ステルス・ミッション 03

 ロケット内部まで雪は入ってこないが、相変わらず天気は荒れていた。わざわざここまで移動してきたのは、話の内容的に誰かに聞かれても困るのと、そもそも二人でいるのを誰にも見られたくないから、ということもあるのだろう。
「なんで? なんでそこまでして、正義の味方、やりたいの?」
 いったん下げた顔を、私はまた上げた。ロケットの奥の隙間から光が射し込んで、修也君がこっちを向いているのが一瞬、見えた。いつもの、ヘラヘラした顔ではなかった。

「儲けたいのよ」
「え?」
「将来さ、いじめ撲滅ビジネスで一発当てたいんだよね。ベンチャー企業起こして。だって、いじめられっ子の親ってお金持ってそうじゃない? よくニュースで、小遣いウン百万とかカツアゲされてるじゃん? だったらそのお金を我々に下さい、代わりにお子さんをいじめから救ってみせます!っていう会社、案外成り立つんじゃないかなって」
 だまされた。やっぱりいつもの修也君だ。どこまで本気なのか全く見えてこない。
「だから今は、その練習。経験積んでる状態。現役のいじめ・いじめられ世代として」
「桃川は、どっちにも縁がなさそうだもんね」
「いや、そうでもない」
「え、そうなの?」
 修也君、いじめとかしたことあるの? 意外。それとも、られた側? まさかね。
「ただやっぱり今回、女の園っつーの? 女子のいじめって、男子が仲裁に入っても、なかなか核心まで踏み込めないっつーか、やっぱ限界あるからさ。情報網とかそういうのもひっくるめて、女子のパートナーがどうしても必要だって思ってて」

 話、変わっちゃった。逸らされちゃった。まあ話したくないなら、いいけど。
「じゃあ、ちょうどいいタイミングで私を巻き込めたってこと?」
「ごめん。でも前からそういう相手を探してて、声をかけるなら与田かなってずっと思ってたんだ。だからさっき家庭科室で見かけた時、すんなり決意できた。でももちろん、選ぶ権利は与田にあるよ。こういうのって、めんどくさいし、リスクあるし、その割には見返りがないからさ」
 ふむふむ。いや、すでに見返りはありすぎるほどあるんですけどね。修也君とこうやって絡む時間が増えるという。だから私の答えはハナから決まってはいる、のだが。

「なんで、パートナー、私?」
 うわ、思いっきり片言じゃん。緊張してんの、バレバレ。
「理由は3つある」修也君は即答した。
 風がさらに強まって、一瞬、スカートがめくれそうなほどの空気がロケット内に入ってくる。別に見られる位置じゃないけど。ていうか、可愛いパンツ買いに行かなきゃ。それはもう今日中に。
「与田は筒井グループにも怯まないだろ。メンタル強いから。あとは何気に去年もクラス一緒だったし、他の女子よりは頼みやすいかなって」
 うん。まあ、そうか。まあ、そうね。
「残りの1つは?」
 望む答えは返ってこないと知りつつ、一縷の望みを込めて、促してみる。
「陸上部のエースで、足が速い。いざと言う時、自力で逃げられるかなあって」
「……なるほど」
 そうだよね。

 間違っても、そばにいたいから、みたいな答えなわけ無いですよね。

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