第2回東奥文学賞 地方農業の裏表と、夢と現実の折り合い

田邊奈津子「早春の翼」:大賞。自宅で農業を営む桜井七恵の元に、東日本大震災をきっかけに、千葉から義理の妹・苑美一家が出戻ってくる。苑美の夫である周平は大手の総合電機メーカーを辞め、農業をイチから始めるつもりらしい――。嫁姑問題の機微(と、その煩わしさ)、地方の不況、農業を始める人へのハードルなど、重いテーマを、能天気に明るくも極端に悲観的でもなく、その重さ分だけ正確に伝える力に脱帽。たとえば、農家の認定を受けていなければ農地を借りて農業を営むことが違法だったとは。終盤の地方ならではのビジネスの提案が、タイトル通り希望の一翼を担えばいいと思いました。


高森美由紀「雨やどり」:次点。にわか雨を避けようとカフェの軒先に同じタイミングで駆け込んだ真由と理恵は、中学時代の同級生。毛羽立ち黒ずんだ買い物袋の真由と、カルティエのバッグの理恵という対照的な二人は、カフェで16年ぶりに話し、そして思い出す――。結婚観や将来の夢など、それぞれの価値観を比較して展開するストーリーと思いきや、後半は予想外の方向に急展開。その落差と、それまでの文体がきしむほど、ほとばしる愛と憎しみが美しい。二行続けて「がんばれ。/がんばるな。」と相反する言葉が続いても、それを矛盾とは感じない情動が、ここには見事に記されています。

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