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いつでもポンと簡単に取り出せるように 9月27日

1泊の東京出張から昨夜三春へ戻ってきた。
雨が降ったのか、しっとりと地面が濡れていて
草木や土、いろんな自然の匂いがした。
たった1泊だというのにその匂いを胸いっぱいに吸い込んで
「あぁ帰って来たんだなぁ」などと
どこかホッとしている自分がいる。
三春に住んでたかが8年、されど8年。
すっかり三春ナイズされたのか。

さすがに疲れて今日こそはダラダラと何もせずに
過ごそうかと布団の中で思っていたが、
秋晴れの空に手招きされるように、起き上がって外へ出たら、
結局庭仕事をはじめることにした。
誰とも口を利くことも無く、ジャングル化した雑草に囲まれながら
黙々と草刈り。
最後の一匹だろうか、ツクツクボウシの鳴き声を耳にした。
昨日まではビルや雑踏の中にいたというのに
まるでパラレルワールドだ。
どちらが良い・悪い、こちら、あちらというのでもなく、
自分に合ったエッセンスをその中から選んで
抽出し、日常に落とし込んで馴染ませ循環させる。
そのための選択肢の幅は広い方が、
生活は色鮮やかになっていくのではないだろうか。

先日久しぶりにお会いしたお習字の先生の暮らしぶりは、
まさにそのお手本のようなのだ。
先生は無意識にやっていらっしゃるのだろうけれど。
お料理の盛り付けから野の草花のしつらえ、
古道具の見立てや洋服の着こなしにいたるまで。
話題や思考にも偏りがなく柔軟だ。
「なんでも気になったことは、一度やって失敗したら
止めてしまうのではなく、私は三度はやってみるんです。
やってみて気づくことってあるんですよねぇ。」
「自分で育てて収穫した野菜をどうやって料理しようかと考えて
作って。そうして美味しくできたときのささやかな喜びを
じんわりと身体に行き渡らせて、味わっているんですよ。うふふ」
「金(きん)より草かんむりの菌の方が私は気になるんですよ」
などなど。先生語録は他にもたくさん。

この夏の暑さでさすがにバテましたとおっしゃっていたけれど、
お話をしているうちに、好奇心のアンテナがスキップでも
しているかのようにピンと反応していらした。
先生のようにワクワクする心をいつでもポンと簡単に
取り出せるように、ポケットやバッグに用意しておきたい。

先生が育てた健やかな野菜たちはいつもピカピカ。
美味しかったお料理のレシピも教えて頂いて、家でおさらい。
美味しいは美しい。茄子はとろりと甘く、口の中で溶けるよう。