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ろくでなし子さんの「なうちゃんアート」について雑感

 前回のnote『エンパワメント』で「Twitterやめます」的な宣言をしてから一月も経たないうちに、こんなTwitterローカルな話題かよと自分でも思うのですが、今の心情と色々とリンクするところがあったので備忘録的に軽く雑感をまとめようかなと。今年に入って何故か月2回ペースでnoteを書き続けているということもあるし。

 大方の経緯はろくでなし子先生も上記のようにnoteでまとめていますが、要はリベラル系アルファツイッタラーであるなうちゃん(なうちゃんさんって呼ぶのも変だから敢えて敬称略)がTwitterのアイコンで使用しているlxy氏の美少女イラストについて、作者本人に許可をとっていると公言しておきながら実は無断利用だったということが明らかとなり炎上しました。ここまではよくある話なので正直そこまで興味はありませんでしたが、そんな中、同じくリベラル系アルファツイッタラーであるシュナムルさんが(おそらくジョークで)「3万でなうちゃんのアイコンを描いてあげるよ」とツイートしたところ、「私ならタダで描いてあげるよ」と松山せいじ先生やろくでなし子さんなどが次々と声を上げたことが、今回の「なうちゃんアート」騒動の発端です。

 私見かも知れませんが、自分の似顔絵って頂いても全然嬉しくないものです。いわゆる『いやげもの』の代名詞と言っても良いでしょう。シュナムルさんや松山せいじ先生やろくでなし子さんも、おそらくそこは自覚的であり、石野卓球氏的に言えば「真剣な悪ふざけ」を行ったのかなと思います。なので、多少なりとも悪意はあったのだろうけど、それと同時になうちゃんに対する愛も感じました。暴走するなうちゃん信者(以下「ファンネル」と呼ぶ)のせいで何故か政治的にキナ臭くなっていくlxy氏イラスト無断利用騒動にウンザリし、日頃の因縁を晴らす目的も兼ねてカウンター的に爆風消火しようとしたのかなと勝手に推察しているのですが、子供っぽい悪ふざけに見えてオトナな対応だとも思いました。私は暫くTwitterから距離を置いていたのでそこまで深くは追っていなかったのですが、何となくほのぼのとした気分でこの騒動をチラ見していました。

 松山せいじ先生はなうちゃんの過去のアイコンやシュナムル氏のイラストの流れを踏まえ美少女路線でイラストを描いた様です。御本人曰く皮肉や風刺なしとのことですが、なうちゃんと過去に因縁のある松山せいじ先生がなうちゃんのイラストを描くこと自体が強烈な皮肉と言えるのではないでしょうか。よく見るとなうちゃんが嫌っている「令和」が使用されていたり、そもそも50代男性に萌え絵を提供することが皮肉という意見もありますが、絵だけを見ると攻撃されるスキが無いところが逆にロックです。結局「信条と異なる」という理由で採用はされませんでしたが。

 それに対してろくでなし子さんは美少女路線とは対極的に、なうちゃん自身が公言したとされるプライバシー情報を元に50代既婚男性を想像して描いた様です。絵を見た瞬間、正直「うわあやっちゃった」と思いました。一般的観点から見てもお世辞にも「なりたい顔」とは言えず『いやげもの』の極致と言えるでしょう。イラスト自体はポップなのですが、それがかえってファンネルの神経を逆なでした様で、ほのぼのした雰囲気が台無しになり一気に物議を醸す展開に。松山せいじ先生のイラストと比較すると攻撃されるスキしかない。完全にノーガードなイラストだと思いました。しかし、この空気の読まなさこそが「ろくでなし子節」と言えるのではないでしょうか。当然こちらも採用されることはありませんでした。

 案の定、ファンネルだけではなく私の相互フォローの方々までも「ふざけ過ぎ」「下品」「いじめ」「ハラスメント」などと、ろくでなし子さんに爆風が吹き戻る非難轟々の展開となりました。

 しかしここで疑問が生まれます。仮になうちゃんが素顔を公開していて、悪意を持ってその特徴を強調するような似顔絵を描いたのであればいじめや嫌がらせと捉えられても仕方ないのかも知れませんが、なうちゃんは匿名アカウントであるため誰も素顔は知らないわけです。ろくでなし子さんはあくまで想像図を描いただけで似顔絵ですら無い。それをアイコンとして採用するかどうかはなうちゃん次第であり、どんなに醜悪な絵であろうと萌え絵であろうと選択肢の一つでしか無い。であれば様々な種類のアイコンがあった方がいいじゃないですか。物質的な『いやげもの』とは異なり邪魔になるわけでも無いのに何をベースに叩いているのか?考えてみると説明がつきません。さらに言えば、なうちゃん自身も公開後しばらくは一笑に付した感もありました。本当に気分を害したのなら普段の彼なら即ブロックしたと思うのですが、普通にろくでなし子さんともリプライを交わしていましたからね。元々そんなに義理のある関係でも無いのに。

 要するに完全に周囲の忖度だけで「なうちゃん可愛そう!」という空気になってしまったのですが、何故ろくでなし子さんのイラストは叩かれ、松山せいじ先生の美少女アイコンは受け入れられるのか。ろくでなし子さんも仰るように、あのイラストを醜悪だと叩く側にこそ50代のおじさんに対するルッキズムなどの差別心が内面化されているのでは無いでしょうか。「ヤレる女子大生」という言葉を女性蔑視的だと主張する側にも「ヤリマン」に対するミソジニー的な蔑視が内面化されている様なものですね。

 とは言え、何気にこのイラスト良く出来ていて、悪意を持って描いている様に見えても仕方ない面もあるとは思うんですね。私も差別心を内面化しているためか率直にキモいと思ってしまいましたから。しかし、ろくでなし子さんがこれまで描いてきた絵柄の流れで「50代のなうちゃんの現実的なイメージに近いイラスト」を想像すると、それほど逸脱はしていないんですよ。実際こういうおじさん近所にいますし。ちなみにamanaimagesの「笑顔の50代男性」写真素材はこんな感じ。

 ね、そんなに変わらないでしょう?

 この写真をろくでなし子さん風にコミカライズすればあのイラストに近くなるのではないでしょうか(モデルは山本さん(仮名)の様ですが)。故にろくでなし子さんはイラストの制作自体はふざけないで真剣に行ったものと考えられます。そもそも御本人も何度もそう仰っていますからね。あのイラストがキモいと思う人は、私も含めて普段から美化されたイラストに慣らされすぎなんですよ。こうやって人々の潜在的偏見や無自覚な差別を一気にさらけ出した点はさすがアーティストだなと。勿論、絵の出来についてあれこれ言うのは自由だと思いますが、いじめなのかと言われると疑問です。そもそも『いやげもの』的なイラストを描くこと自体がいじめであると主張するのなら松山せいじ先生やシュナムルさんも同様に批判されるべきでしょう。イラストが気に入らないからと言って、ろくでなし子さんだけを集中砲火するのはおかしい。

 最終的にはなうちゃんも「人を馬鹿にするのもいい加減にしろ」とろくでなし子さんをブロックしてしまいました。その結果、ろくでなし子さんはなうちゃんに謝罪し、描いたイラストは「山本さん(仮名)」ということになりましたが、なうちゃんも立場上仕方なくブロックした様な気がするんですよね。勿論これは推測に過ぎないのですが、なうちゃんの立場を考えるといじめを容認することは到底許されないわけですから、本人の意志と言うよりも暴走するファンネルが今回の件をいじめと断定する以上それに従わざるを得なかったのかなと。そういう印象を受けました。

 あるいは、ろくでなし子さんのイラストがなうちゃんブランドを傷つけるものと本能的に判断したのかなと。Twitterを行っていると常々思う事なのですが、SNSにおけるアイコンって想像以上にアイデンティティを形成するために重要な要素なんですよね。特に匿名アカウントの場合、文字通りそれが「イコン」になり得るのです。ろくでなし子さんが描いたイラストもアイコンとして採用しなければ良いという単純な話でもなく、明確に拒絶しない限り否が応でも「イコン」化してしまい、これまで培ってきたイメージが崩されてしまうと感じたのかも知れません。

 イエス・キリストも本当の顔は誰にも分からないわけですが、世界中に存在する多くのイコンや『聖☆おにいさん』などによって我々も何となくワイルドなイケメン男性をイメージ出来るようになっています。今回の「なうちゃんアート」騒動は2001年のBBCドキュメンタリー「神の子」で、人類学者が「イエスの顔」を、科学的に追求した件に近いものを感じました。

 この科学的に再現された「イエスの顔」が信者たちにどう受け入れられたのかまでは存じ上げませんが「思っていたのと違う!」とショックを受ける方もいらっしゃったのではないでしょうか。当然これもあくまで想像図に過ぎず「イエスの顔」ではないと制作した人類学者も明確に否定していましたが。

 まして、なうちゃんの場合、アイコンは萌え系の美少女で一貫していましたから、そのイメージと50代既婚男性のイラストとの落差にショックを覚える人も多かったことでしょう。中にはなうちゃんが美少女であると勝手に思い込んでいた人もいたのかも知れない。そう考えると、なうちゃんやファンネルに現実を突きつけるような「なうちゃんアート」はイコノクラスム(聖像破壊運動)級の行為だったのかも知れません。そういう意味においては罪深いと言えるのかも知れませんが、仮にそうだとしても、ろくでなし子さんは現状明らかになっている情報を元に想像図を描いただけなので、単に自分たちの都合の良い妄想が傷つけられただけの話なんですよね。つまるところこれも個人的な快・不快の問題に過ぎないのです。

 この様にフォロワーが持つイメージを崩さまいと全力でニーズに応えようとするなうちゃんを見ていると、お節介ながら非常に危なっかしいものを感じてしまいます。誤解を恐れず言えば晩年のAviciiを彷彿するというか。

 ポジショントークを徹底することで多くのフォロワーやファンネルを獲得・維持することが出来たとしても、そのファンネルの過剰な期待や信仰心によって、逆に極めて不自由な状態になっているのではないのかと。いっその事、ろくでなし子さんたちが作成したイラストを一時的にでも採用してしまった方が面倒なフォロワーも減って、少しはスッキリしたんじゃないかなとも思いました。大きなお世話であることは重々承知していますが。

 ただ、それでも言っておきたいのは、元々なうちゃんと敵対していた松山せいじ先生が過去の因縁を水に流してなうちゃんのアイコンをタダで作成したことは(仮にそれが皮肉であるとしても)平和的で良い話だと思いましたし、どんな思いがあるにしてもこんな面倒な事、愛がないと出来ないですよ。勿論アイコンを採用するかどうかはなうちゃんの自由なのですが「信条が違う」という理由での断り方はなうちゃんの信条的にはどうなのでしょうか。そして、ろくでなし子さんに対するファンネルによる罵声の嵐を放置することは、なうちゃんが日頃から批判している忖度政治そのものであり、ファンネルの行為こそいじめの枠を超えた集団リンチであるということは自覚して欲しい。正当な主張をしたlxy氏に対するファンネルの政治的な因縁にしてもそうですが、ろくでなし子さんの件に限った話ではありませんからね。仮に「なうちゃんアート」がいじめだったとしても、ろくでなし子さんは既に謝罪しているわけで、代償が大き過ぎます。平和を愛するのであれば、承認欲求よりも優先すべきことがあるのではないでしょうか。

おわり

(2019.5.18 加筆修正済み)

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