新車のデザインからストロングゼロな人たちを重ね見る
突然ですが私、車を所有しておりまして、そろそろ買い替えの時期かなと思い、最近はコソコソとカタログを漁っています。外車はハードルが高いので出来るだけ無難な燃費の良い国産の新車を探しているのですが、これが本当に選択肢が無い。個人的にはminiや911の様な普遍的で可愛い系のデザインが好みなのですが、どの車もフロントマスクが厳ついんですよね。いや世界的にそういう傾向があるのは存じ上げております。しかし最近の国産車はいわゆるファミリーカーでもマイルドヤンキーがD.A.Dのステッカーを貼りそうなデザインの車ばかりで、私好みのものがありません。各自動車メーカーがマーケティングを行った結果がこれなのでしょうけど、何故こんな結果になってしまうのか。これが本当に日本人が求めているデザインなのか。それとも私が古いだけなのか。諦めて軽自動車を選ぶしか無いのか。
■全てはマウンティングのため?
特に車が趣味というわけでもないし、あまり深追いする気も無かったのですが一つ興味深い記事を見つけました。
極端ないい方をすれば、前走車のルームミラーに映ったときにインパクトがないと、道を譲ってもらえないなどの不都合があり、クルマの売れ行きにも影響を与えるのです。そこで世の中のクルマが全般的に怒り顔になったというわけです。
これは、弱肉強食的な世界観でもあるでしょう。存在感の強い怒り顔で、前方の車両に道を譲らせながら、自分は追い越し車線を突っ走る感覚です。
(くるまのニュース より引用)
なるほど。皆さん無意識的に「ナメられたら終わり」というヤンキーの様な強迫観念に駆られているから自然と厳つい外見の車が売れるようになるわけですね。その他にも類似記事はいくつかありますが、いずれも隣の家の車よりインパクトが欲しいからとか、常に新しいものを求めているからとか、要は他者をマウンティング出来るかどうかが昨今の車選びにおける重要なポイントになっている様です。私のようにノームコア的な敢えて目立たないデザインを求める人は少数派ということなのでしょう。一昔前までは車に威圧感を求める人なんて反社や芸能人くらいしか居なかったように思うんですけどね。
■不毛なナワバリバトル
プロダクトデザインは時代を写す鏡であるとも言えますが、車社会における総マウンティング気質の状況はSNSに置いても同じです。今もTwitterでは己の主張を上書き・拡散しないと負けという議論の体をなさないナワバリバトルが繰り広げられ、その主張に全く正当性が無くても「信心」と「熱量」によって企業や団体なども強引にねじ伏せることが出来てしまう。そうやってマウントを取ること自体が目的なのですから、問題を解決することなんて求められていないのです。それ故に批判的な意見や矛盾点の指摘などは全てクソリプとして処理されてしまう。それどころか批判されるほど被害妄想をこじらせてしまい、かえって信心を強固にしてしまうケースも多い。
私も表現規制問題において幾度となく発信してきましたが、昨今の表現規制派とはそもそもの目的意識が異なるのだろうなと。「先進国ではポリティカルコレクトネスが正か負か論じること自体が間違ってるとされる」と宣う女子高生もいましたが、私からすれば皮肉や冗談にしか見えないこの発言も、発信された経緯を見ると少なくとも彼女自身は本気でそう受け捉えているんですよね。つまり彼女たちの目的は教義の普及であり議論を行うことでは無い。インターネット・ミームにもなっている「女性だけの街」はその本音が露呈された典型例ですが、常に誰かから加害されるかも知れないという被害妄想から逃れるために、共感し合えるお仲間だけのコミュニティを築くことが目的であり、この世の中をより良くしていこうという気は毛頭無いわけです。故にこちらが対話を望んでもマウントの取り合いにしかならない。上記の発言をした女子高生もそういう党派を超えようとしただけでパージされてしまいました。流石に不毛だと感じた私はここ暫くSNSを控えています。こういうのは放置した方が自滅も早まるだろうし、こういう争いを眺めているだけでもエコーチェンバー化が進行しそうですから。
この閉塞的な状況を少しでも打破するためには、SNS上の同じ土俵で争うのではなく、現実において自らの役割を果たしていくしかないのかなと。各々が地に足つけて生きていくことでしかこの負の連鎖を断ち切れないのではないかと考えるようになっています。要は社会も、企業も、テレビの視聴者も、SNSユーザーも、地に足ついていないから実体のない恐怖心や嫉妬心が肥大化し「日本は治安が悪く不幸な国」だとか「萌え絵やポルノが性加害を増やす」などの根拠のない話を教義化したり、声が大きいだけの空虚なラウド・マイノリティに翻弄されたりするのですよ。私も含めて。
■カーデザインにも侵食する実体のない不安
あおり運転に関しても最近になって急激に増えたわけではなく、平成29年の東名死傷事故以降に取り締まりが強化されるまではドライブレコーダーの普及とともにむしろ減少傾向にありました。ただ、そのドライブレコーダーの衝撃映像がマスコミやSNSなどで好まれるため、過剰に可視化されることで国民の恐怖心が必要以上に煽られている側面があることは否めないでしょう。厳罰化に反対するつもりはありませんが、これも脳内マッドマックス状態で見えない敵と戦っているだけなのではないのかと。こういう大衆心理も車のデザインに影響を与えているのかも知れません。
一度テレビやSNSから離れてみましょうよ。そして冷静になって新車を改めて見直してください。平和な世の中とはミスマッチな攻撃的なデザインが多いと思いません?そう思うのは私だけ?
フェラーリやランボルギーニが攻撃的なデザインなのは許せます。本物の高級車が醸し出す存在感の強さは本質的なものだからです。しかしフロントマスクの威圧感に全振りした大衆車なんて酔うことに全振りした安価なストロングゼロみたいなものでしょう。文字通り"ストロングゼロ"な人でも"強いフリ"が出来るだけ。嘘松や盛り写メで自己顕示欲を満たしている人たちと同じで実質が伴っていないのです。新車のデザインやSNSに対する私の嫌悪感はこういう"張子の虎"が浅ましく虚勢を張り合っている印象が強いという点で一致しています。
■脱マウンティングのススメ
現実社会においては実質が伴っていないと気持ちよくマウントを取ることが出来る機会なんてそうありません。隙あらばマウントを取ってくる人も居ますが大抵は張子の虎です。というよりこの手の人は仕事やプライベートで行き詰まっている身の程知らずな危ない人と相場が決まっています。その場において一時的に優位に立つことが出来たとしても、その後その人の事態が好転したり周囲から慕われるようになることは無く、ただ嫌われて孤立していくケースが多い。
それ故に匿名性の高い車やSNSがマウンティングアイテムになるのでしょう。マウントを取っても実生活にそれほど影響を与えることはなくノーリスクで優越感や酩酊感に浸ることが出来ますから。特にSNSは時間以外のコストが掛からない上に攻撃的な発信を行うほどフォロワーが増え、フォロワーが増えるほど自分が強くなった気にもなれる。私もまたストロングゼロな人間であり、SNSに依存して酔っていた時期はありました。
しかしSNSであろうと現実社会であろうと実質を伴わない炎上商法やマウンティングによって得られる地位なんて所詮は砂上の楼閣です。MeTooムーブメントのように一時的に影響力を持つことが出来たとしても長続きはしません。昨年イキり本を出版した某インフルエンサーを見ても分かるように、本当に優れた人間でもない限り最終的にはクラスタ内からの信頼も失い、散々利用された挙句ガラガラと崩れ落ちるのがオチです。そもそも本当に優れた人間はマウントなんて取りませんから。
月並みな意見ですが、確固たる地位を築きたいのならマウンティングではなく、まずは自分自身と向き合い、自らを高めることに専念し、他者を敬い、身の丈にあった発信を地道に行うのが一番なのでしょう。それがなかなか出来ないから刹那的な快楽を耽溺するために近道しようとするのでしょうけど、SNSで虚勢を張ったところで最終的には遠回りにしかなりませんから。頑張っても閉鎖的なクラスタ内のボスになれるだけ。暇潰しの範疇なら良いかも知れませんが。
■令和は礼節を重んじる時代に
車に関しても自らの存在を誇示したいのなら高級車を購入できるように努力しましょうよ。それが出来ないのなら身の丈に合った車で落ち着くべきでしょう。そして「V8を讃えよ!」の精神を持つことです。だいたい安価な大衆車に威圧感なんて求めてどうするんですか。心配しなくても今の世の中普通の車だからといって襲われることはないし道も譲ってくれますよ。デザインだけでもインパクトを求めたい気持ちは分からなくはないですが、最近の国産車のデザインからは礼節が感じられないのです。ただ目先の利益を追求し過ぎて安易に目立とうとしているだけにしか見えない。攻めたデザインに見せかけただけでむしろ企業を守るための保身的なデザインとも言える。まあこれも主観的な話なのであまり強くは言えないのですが、自動車メーカーさんにはせめて選択肢をもう少し増やして欲しいと願うところ。
ただ、前向きに考えれば、車の怒り顔化に関する記事が数多く存在しているということは(多くは昨年の夏頃ですが)、それだけデザインが飽和状態になっていると考えることも出来ます。あまり根拠はありませんがここまで多様性が失われてしまった以上そろそろ方向転換する企業も出てくると思いたい。てかここまで書いておいてなんですが既にそういう兆候はあるんですよね。なので新車買い換えはもう少し先延ばしにしようかなと考え直しています。
カーデザインが落ち着くのと同時に、SNSにおけるマウンティングゲームも少しは収束に向かえば良いですね。
おわり
(2020.1.23加筆・修正済)
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