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「ビジュアル宝石キャラクター図鑑」炎上に関する備忘録・雑感など

 2019年2月中旬。Loftのバレンタインコーナーは大盛況のうちに終了しましたが「ズッ友ガール」に腹を立てて女性蔑視的であると難癖をつけLoft不買運動まで暗に呼び掛けていた皆様。その後いかがお過ごしでしょうか。あれから2週間程度しか経っていませんが、おそらく「ズッ友ガール」のことなんてすっかり忘れ、機会があればまたLoftでショッピングを楽しむのではないでしょうか。

 TwitterのTL上でもLoftのバレンタインコーナーのことなんてほとんど話題にならない中、全くの別件で、今度は汐街コナ氏というイラストレーターが炎上しているのを目にしました。

挿絵を担当させていただきました、「ビジュアル宝石キャラクター図鑑」金の星社様、発売中です!
宝石の擬人化キャラクターを20体描かせていただきました。

 こちらは今年の1月15日にツイートされた内容ですが、添付された画像を見るといわゆる今風な萌えキャラを散りばめた宝石図鑑の宣伝ツイートの様です。図鑑の内容について金の星社のサイトを見ると

「どんな宝石なの?」「誕生石ってなに?」
個性的なキャラクターで宝石のことがよくわかる!人気コミックの影響で注目の集まる宝石。輝きと色で魅せる地球の宝、そしていつの時代も人々を魅了してきた宝石を、キャラクター化して楽しく学びます。特徴や用途の他、その背景にある物語や逸話、宝石言葉や宝石占いも掲載。結晶や硬度、比重についても解説しています。
https://www.kinnohoshi.co.jp/search/info.php?isbn=9784323074337

 子供向けに作られた本の様ですね。なので私はまたツイフェミたちが子供向けの本に萌えキャラを挿絵にしている事に対して「女性蔑視的」や「性的モノ化」であると憤慨するいつものパターンかと思ったのですが、今回は少し様子が異なります。

あれ?!体にピッタリ張り付いた服は総合的な判断によると「性的搾取」の「児童ポルノ」じゃなかったんですか?!しかも小学生向けの本で!?性的搾取ですよ汐街コナ先生!!!
ヘソまで出して…完全に性的にまなざしてますよね!!??
男性への性的搾取、本当にありがとうございます。
よくもまあ男をキンキラキンに恣意的に歪めて書きましたね。これは多くの男性にとっては侮蔑的です。
【「性的欲望の的になるように、恣意的に歪められた女性像」は多くの女性にとっては侮蔑的です。】
自分の言葉には責任持ちましょうね。
へそも肩も露出している非常に性的なデザインですね。これは女体の性的消費では?女性への配慮が足りていないですね。宝石を紹介する上でこの露出度にする必然性はありますか?そしてこのような差別的なヘイトイラストを生産してしまったことへの釈明は無いのでしょうか?

 以上4ツイートは、いわゆるアンチフェミや表現の自由クラスタの方々によるものです。私と相互フォローの方も何名かいらっしゃいます。どうやらこの「ビジュアル宝石キャラクター図鑑」の挿絵を担当した汐街コナ氏、昨年のキズナアイ炎上騒動の時NHKのキズナアイ起用に批判的な立場を取っていた一人の様です。

「表現の自由」はどのように守られるべきなのか? 再びキズナアイ騒動に寄せて(千田有紀) - Y!ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/sendayuki/20181004-00099263/
言いたいこと、だいたい本人が説明してくれてた。
ラノベ表紙の時にも同じ構図があったけど、「TPOに相応しくない程度に性的なのが問題」という話に、すぐに「オタ差別反対!なんでもキモいと言えば消してもらえると思うな!個人の好き嫌いで表現の自由を規制しようとするな!」って論点ズレた反論する人が一定数いるね。
考え方は単純で、「実在の女の子に、その服装とポーズさせてもセクハラにならないか」でいいと思うんだけど。
キズナアイくらいから微妙よね。
16歳くらいの女の子に、あんな胸の形がはっきりわかるピッタリしたボディースーツみたいな服装をさせるか?
アイドルでも微妙にセクハラになるよね…。

 上記3ツイートは汐街コナ氏によるものですが、当時かなり物議を醸した千田有紀氏のキズナアイに関する記事に同意し、Vtuberとしてのキズナアイは問題無いとしつつもNHKのノーベル賞解説の聞き役として起用されたことに関しては「TPOに相応しくない程度に性的」「セクハラ」などと主張しています。

 にも関わらず汐街コナ氏は「ビジュアル宝石キャラクター図鑑」という子供向けの本の挿絵として、キズナアイと露出度の変わらない萌えキャラを描いている。つまり、典型的なダブルスタンダードです。

 そもそも私はこの手の「アテクシ基準のTPO押し付け屋」インチキマナー講師と同類だと思っているのでハナから信用していません。キズナアイにとってはあれがフォーマルスーツなのでしょうし、NHKもそれを承知の上でゲストとして招いているので第三者がとやかく言える問題ではありません。あの格好がTPOに相応しくないというのなら、トランプ大統領との面会時でもいつも通りの仮装をした(一応紋付き袴風でしたが)ピコ太郎氏はふざけているという事になりますし、公共の場でも裸体で過ごすヒンバ族は性的という事になってしまいます。しかしそんな事は個人的な価値観の押し付けに過ぎませんよね。キズナアイは性的だからNGだけどプリキュアは性的ではないからOKという意味不明なコードについて熱弁する人もいましたが、その数週間後にはプリキュアの抱き枕が公式販売された事に対して激怒していましたから。結局その時の気分次第なのでしょう。話を聞くだけ無駄です。

 もちろん、汐街コナ氏の性的な萌えキャラが子供向け図鑑に描かれていても何も問題はありません。問題はあくまで、キズナアイ騒動の時に汐街コナ氏が行ったダブルスタンダードな態度にあります。この図鑑は昨年の12月に発売されているので、キズナアイを批判した時にはキャラクターは制作済だったはずですから。

 なのでキズナアイ騒動の時、汐街コナ氏たちに批判された人たちが憤慨する気持ちはよく分かります。私もムカつきます。

 ただ、上記でも取り上げたアンチフェミや表現の自由クラスタの方々による攻撃方法に関しては全面的な支持は出来ません。

 その件についてジョンお姉さん氏は次のようにツイートしています。

キズナアイの敵討ちに燃えるオタク諸氏がキズナアイ叩いていたイラストレーターの絵を「性的搾取だ」と叩き返すのは論理的に筋が悪い。
その論理を使うならば、オタク諸氏はキズナアイもその棍棒で葬らねば汐街コナと同じダブルスタンダードに陥るから。

「性的搾取だ!」などと相手の論理を借りてネタで殴り返す、いわゆるミラーリング攻撃に関してですが表現規制派に通用するのかどうか私も懐疑的です。この攻撃の真意を彼等に理解させることは、我々が考えている以上に困難なのではないかと。

 例えば、差別的な表現の規制に肯定的であるアルファツイッタラーのなうちゃん氏は、あからさまに宣伝用の茶番だった「麻雀放浪記2020」公開中止騒動を本気で政府による言論弾圧だと受け取っていた様ですが、「正義感」が強かったり表現規制に肯定的な方々は、ネタ(フィクション)をネタ(フィクション)として受け取ることが出来ない人たちが多く、表層的な情報をそのまま鵜呑みにしてしまう傾向が強い様に見受けられます。だからこそ表現規制に肯定的なのだとも言えますが、そんな人たちにネタや皮肉だとしても「性的搾取だ!」と攻撃したらそのままベタに「え?表現の自由戦士のくせに表現規制を訴えるの!?」と受け取られてしまうのではないでしょうか。実際そういう内容のツイートはいくつか目にしましたし、しかもかなり伸びていました。仮にネタや皮肉だと把握出来ていたとしてもそうやってベタに受け取るフリをされたら逆にダブルスタンダードの烙印を押されてしまい、結果的に不利な状況に追い込まれてしまうのではないかと。

 青識亜論氏も頻繁に提唱している「反転可能性テスト」についても、私も論議においては有効な手段だとは思っているのですが、扱い方は簡単な様でいて難しい。そもそも仮定の話や条件法が理解出来ない人は意外に多いのです。「AがBならCだ」という仮定の話に対し「AはBではない」「AがCだなんて酷い」というやりとり。皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

──話は少し逸れますが、私は昨年1月にこのTwitterアカウントを開始するまで2ちゃんねる(現5ちゃんねる)やSNSなどネット上のコミュニティに関しては数年間のブランクがありました。久しぶりにTwitterを触れてみて思ったのは、この表現規制問題、昔から議論の蓄積がほとんど為されていないんですよね。むしろ表現規制に肯定的な人たちは以前よりも退行しているとすら思います。私の知る限り「BL無罪」などという馬鹿げた理屈は無かったはずですから。まあ、一部のクラスタが先鋭化しているだけなのかも知れませんが、SNS上におけるサイバーカスケード(集団極性化)は深刻なレベルに陥っているなと感じます。

 Twitterはその性質上1ツイートにつき文字数は140文字に制限されます。議論となると当然相手とのタイムラグが発生するためTwitterに長時間張り付きにならないといけません。しかも議論中に相手を少しでもイラつかせてしまうと脊髄反射的にブロックかミュートを行われてしまい分断がますます進行するという、人を諭す事にはとことん向いていないツールだと思っています。少なくとも私にはそのスキルも気力もありません。

 そういったディスコミュニケーションの末、論敵とは逆方向に先鋭化した人たちは社会的には極一部の存在なのかも知れませんが、出版社や企業による表現物取り下げはそういうノイジーマイノリティによって引き起こされることがほとんどです。なのでその影響力は無視できません。では、この先鋭化した人たちとどう向き合うべきなのか?──

 汐街コナ氏の炎上が加熱する中、さらに追い打ちをかけるように相互フォローのフキ氏は次のようにツイートしました。

汐街さん本人に直接リプ送るのもいいけど性的搾取表現の取り下げを求めるのであれば出版社に連絡するのが一番ではないかな。雇い主を直接揺さぶるのが効果的だってせっかく教えて頂いたし、見習いましょう。宛先こちらになります。

 信頼しているアカウントなのですが、さすがにこれはマズイなと思いました。事態を沈静化させるためにあえて燃料を投下したのかも知れませんが、汐街コナ氏がどのような人物であっても、フキ氏にどの様な思惑があるとしても、私は表現物を焼くことには絶対反対なのです。

 なので、正直いい子ちゃんぶりたくは無かったのですが私は下記のようにツイートしました。

汐街コナ氏がダブスタなのは間違いないけど、仕事で萌え絵を描くこと自体は何も悪くない。リベンジ的な取り下げ運動には反対する。

 フキ氏に対するリプではなく、あえてエアリプにしたのは出版社への圧力を煽る相互フォローアカウントはフキ氏だけではなかったからです。水を差す様な内容だったためそれなりの反発は覚悟していたのですが、反応は概ね好意的でした。ただやはり一部には「汐街コナ氏を反省させる為の手段である」と出版社への圧力を正当化される方もいました。

「我々と同じ痛い目に遭わないと反省しない」という論についてですが、私はこの手の先鋭化した規制派は痛い目に遭っても反省しないと思いますというのも既に中国ではBL同人誌で懲役10年という判決が出ていますし、リベラル派映画監督のジェームズ・ガン氏はオルタナ右翼によるカウンター的な攻撃によって監督降板まで追い込まれてしまった。国内においても東京都の青少年健全育成審議会にてBL漫画が何冊も有害図書指定になっているのに、未だ他人事の様に「BL無罪」「私たちの萌えは正しい萌え」を主張しつつ自分たちの気に入らない萌え絵は攻撃するような人たちです。「明日は我が身」という概念がなく都合の悪い事実は脳内ブロックしてしまうのでしょう。そんな他罰的な彼等が(自発的に痛い目に遭うのならまだしも)敵対する相手から痛い目に遭わされるわけですから、ますます被害者意識が肥大化し自らの妄想に固着して蛸壺(クラスタ)のより奥へ逃げ込むのは目に見えています。出版社や表現物への攻撃によって得られるのは攻撃する側の感情的解決のみで、本来の問題解決につながるとは到底思えません。

「殴られ損のままでいろ」「我慢しろ」と述べる気はありません。普通に殴り返せば良いのです。作品ではなく本人を。今回の場合、汐街コナ氏のダブルスタンダードな態度を批判すれば良いのです。ただ、彼女の仕事の成果物や出版社には何の罪もありませんから。作品を殴る行為はカウンターになるどころか結果的に世の中の表現規制の流れを後押しするだけです。

 先鋭化した表現規制派を反省させる手段として作品を焼いてしまうと、あっという間にその手段が目的化するでしょう。論敵の作品を焼くことが目的になってしまうのです。ヘイトスピーチのカウンターとして誕生した某団体もあっという間に手段と目的が入れ替わってしまいました。手段のために理性を捨てて感情的になってしまうと目的に到達するどころかむしろ悪化する可能性の方が高いと思います。

 ちなみに私は先鋭化した表現規制派の方々が「話せば分かる相手」だとは思っていません。少なくともTwitter上では完全に「話の通じない他人」だと思っています。ハナから相互理解なんて期待していません。その点ではミラーリング攻撃を行う人たちよりも不誠実でドライだと思います。なので最近は性的搾取だの何だの言っている人たちを見てもあまり苛立ちを感じなくなりました。むしろ、そのような少数派の戯言にビビって表現物を取り下げてしまう日和見的で事なかれ主義な企業や出版社に対して怒りを感じる様になっています。

 今回の場合、何も悪いことをしていない金の星社に圧力をかける行動力があるのなら、例えば「ズッ友ガール」の広告を取り下げたLoftなど、SNSの炎上如きで広告を取り下げてしまう企業に対して表現の自由の観点から批判する方が建設的なカウンターになるのではないかと思います。もちろん先鋭化した表現規制派を批判していく必要もあるとは思いますが、彼等と同じステージで戦うだけではなくそれと並行して表現物を守る姿勢を企業や出版社にアピールしていく必要もあるのでは無いかと思います。

 なお、このLoft「ズッ友ガール」炎上問題。お昼の情報番組でも取り上げられた様ですが、ほとんどの出演者は広告を擁護する側だった様です。アンケート結果でも問題があるとする人は少数派。唯一出演者のロバート・キャンベル氏のみが広告内容が稚拙であると批判的だった様ですが、私もその点は同意見ですし、取り下げるべき理由になっていないので問題ありません。

 少し楽観的過ぎるかも知れませんが、SNSの炎上やクレーム如きで弱腰になってしまう企業側の姿勢や、お気持ちスクラムに対する批判的な空気が世間一般的にも少しずつ芽生えているのかなと。そこには負の側面もあるのかも知れませんが、今は前向きに捉えたい。

 おわり

(2019/2/23 加筆修正済)

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