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[第一回梗概]伝アインシュタインエレベーター式・大学入試センター試験におけるチートテクニック

ゲンロンSF創作講座の第七期が始まることと合わせて、衰えてきた梗概筋を鍛えようと、自分も梗概を書いてみました。
テーマは『宇宙、または時間を扱うSFを書いてください』

伝アインシュタインエレベーター式・大学入試センター試験におけるチートテクニック

 2013年には解体されることが予定されている東京大学本郷キャンパス理学ー号館内に存在する、通称『伝アインシュタインエレベーター』は、人類史上、究極のカンニング装置だった。なぜならこの函は、年に一度、特定の日にちだけ、搭乗者の脳内に未来の問題を出力したからだ。
 その蛇腹型の扉が閉まると、厳しい駆動装置によってリレーが唸りをあげて巻き上がる。戦前から稼働していたとされるこのエレベータだが、実際に施工されたのは、アインシュタインが来日した1922年より四年後だった。
 にも関わらず、アインシュタイン乗ったという噂が何代もかけて囁かれ、更にその噂が更に何段階化かホップして、今では『そのエレベーターに乗ると未来がわかる』という伝説がまことしやかに囁かれ、更に更にそこから『乗り込むと未来の試験内容がわかる』との都市伝説が学内の一部で跋扈していた。

 2010年。物理学生物学系の研究室に所属する、学部三年生のかなえは、迫る院試にその噂に一縷の望みを託す。特定のステップを踏みエレベータを稼働させると、金属同士がぶつかるの豪快な摩擦音が響いた。
 内部の暗闇の中、火花が散る中で叶の脳内に現れたのは、意外な問題だった。

『平成23年 政治・経済』
下線部hに関連して、アダム・スミスが提唱した経済理論の中で、市場の自由な競争によって最適な経済状態が実現されるという原則について、正しいものを下の①〜④のうちから一つ選べ。
・・・

 突如、頭に浮かんだのは、来年のセンター試験の問題だった。最初は徹夜続きの頭が見せた妄想だと思ったが、次の年の冬に新聞を確かめると、あのときの問題とまったく同じものが載っていた。
叶は驚き、再現性を確かめるため、去年と同じ日付に今一度エレベーターに乗り込む。

『令和30年 生物』
 Xさんは新たな発見をしました。生物体内での特定の反応において、エントロピーが減少し、ネゲントロピーが観測されたというものです。この現象が本当に発生した場合、以下のどの記述が最も正確ですか?
①: この現象は、熱力学第二法則が生物体内で破られたことを示す。
②: この現象は、生物体内では化学反応がランダムに進行しないことを示す。
③: この現象は、生物体内でエネルギーが100%効率で利用されたことを示す。
④: この現象は、生物体内で反応が逆方向に進行したことを示す。

 まったく知らない元号である『令和』、そのSFチックな響きに一抹の未来を感じ取った叶は、問題文に沿って、ある特殊な単細胞生物の内部で起こる現象であると知り、密かに再現実験を試みる。
 そして、その散逸構造の中にエントロピーをキャンセルする機構を発見する。なんと、一番あり得なさそうなこの"①"こそが、正解だったのだ。
 しかもただの局所エントロピーの減少ではない。この現象が断熱系でも再現したことから、この生物は進化の中で、エントロピーの総和を減少させるシステムを手に入れていることが判明した。
 そして、エントロピーの減少は、時間の矢を逆向きにすることと深く結びついている。この発見が発展した未来とアインシュタインエレベーターで繋がっているのではないかと叶は考える。

 2013年、建物が取り壊される年。自分がアインシュタインレベルの発見をしたことで意気揚々としていた叶は、最後にもう一度だけ、エレベーターを起動させた。

『西暦2130年: 倫理』
下線部bに関して、図の2050〜2100年の間のグラフから読み取れることとして適当なものを下の①〜④のうちから一つ選べ。
・・・
②: 時間可逆性により、資源や技術の不公平な分配による社会的不均衡による、世界的な因果破壊問題が起きたため
・・・

 叶は驚く。四択のうちの一択に。世界に災厄が見舞われると記されていたからだ。ひょっとしたら、叶がエレベータで未来の科学をカンニングをしたせいで。
 叶は、世界を変える科学的発見と、故に起きうるかもしれない25%の確率的破滅を天秤にかけ思い悩む。
 その時に浮かんだのは、昔読んだアインシュタインの伝記にあった、"奇跡の年"に現代物理学の基礎を完成させた栄光と、自分が存命の僅かな期間の中で、人類がその理論から、大量破壊兵器にまで発達させた、悍ましいほどの進歩の力だった。
 その年、解体が始まる理学部ー号館を見ながら、叶は苦悩し覚悟を決める。叶は修論のテーマを変え、エレベーターの天啓を発表しないことに決めたのだ。
 叶は、新しい理学棟の建設現場に忍び込み、自分の発見を新理学棟の基礎の下に未来への手紙として、アインシュタインの伝記と一緒に地中に埋める。あえて残すのは、未来の誰かがいずれ訪れるかもしれない破局を逃れるため、未来の誰かがこのエレベータを利用しようと考えたのしれないと思ったからだ。
 だからあえて叶はこの結果を埋葬する。間違いが正解に、正解が間違えになることを祈って。いつの日か、それを見た人々が本当に正しい選択をしてくれることを願いながら。

アピール文

 伝アインシュタインエレベーターは本当に東大にあったエレベータです。

 実際にはアインシュタインが乗ったはずがないのに、乗ったと噂されるその不可思議さから、一度は物語にしてみたいと思って書きました。ひとまず梗概だけ。
 ちなみに2013年の少し前は、光を超えるスピードが検出されたり(結局誤報)、ヒッグス粒子が観測されてノーベル賞を受賞したり、物理界隈はいろいろ面白いことが起きてました。その辺の小ネタもいれつつ、いつか書けたらいいなと思います。

注1: 今回使用したセンター試験の問題はすべて創作です。
注2: 2023/06時点で、既にセンター試験という名前は過去のものとなりましたが、物語内時間を踏まえ、わかりやすさ優先のためにセンター試験で揃えました。

余談
 SF創作講座では毎回の傾向として、一回目は正統派なテーマで出題がされてます。ただし、40人いる中で、王道のテーマで目立つってのは、むずかしいですよね。

参考

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/45/4/features/00.html
https://blog.goo.ne.jp/asabata/e/f232441c77916261db8e196d1b60fd8c
https://www.youtube.com/watch?v=ZGUbQstnJyo


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