新型コロナの今、財政出動は問題なし

今年に入り、新型コロナウイルスの感染が拡大したことによって外出が自粛となりました。それに伴って経済活動は大幅に減速してしまい、売上が低迷する企業や店舗が続出しました。

そのような状況を打開するために、政府は新型コロナの緊急経済対策として、第1次・第2次補正を合わせて総額60兆円規模の予算を計上しました。

新型コロナの緊急経済対策の中には、国民全員に支給する特別定額給付金としての1人当たり10万円が含まれるほか、医療体制を整備するための費用、治療薬やワクチン開発に関する費用なども含まれます。

これらの予算は国債の発行によってまかなわれますが、国債の発行=国の借金がますます増えてしまう、ということではないのでしょうか?

そこで着目したいのが「MMT」という考え方です。

MMT:通貨発行権があれば最大限まで財政出動可能

MMTとは「現代貨幣理論」のことで、内容は以下の通りです。

自国で通貨を発行している場合に限り、市場の供給能力を上限として財政支出を行うことができる

つまり、財政赤字の状態であっても財政支出は通常通り行うべき、という考え方です。

しかし、そんなことをすると国の財政赤字が一気にふくらみ、借金を返すことができない「デフォルト」の状態になって、国家財政が破綻することにもなりかねません。

なぜ、自国で通貨を発行している場合に限り、市場の供給能力を上限として財政支出を行うことができるのでしょうか?

その理由は、自国で通貨を発行できる権利、つまり「通貨発行権」にあります

家計や企業の場合、収入を上回る製品やサービスを買う必要がある場合は、借金をします。借りたお金は返さなければならないので、無理な借金をしてしまうと返済不可能になってしまいます。

政府の場合、税収を上回る公共サービスを提供する必要がある場合は、国債を発行します。国債を発行することによって民間から資金を調達できます。

発行された国債は誰が買っているか、ということについて内訳を見てみましょう。

財務省のホームページによると、2019年12月末時点の国債発行残高は1037兆円で、そのうち47%を日本銀行が買っています。次に多いのは生命・損害保険会社で21%、銀行が15%となっています。

生命・損害保険会社と銀行が国債を買うための元手は、保険会社の場合は保険の加入者が支払う保険料であり、銀行の場合は、預金者の預金となります。

つまり、私たちは保険会社に保険金を払ったり、銀行にお金を預けたりすることで間接的に国債を買っているともいえるのです。

なお、国債を最も多く買っているのは日本銀行です。政府は、国債の購入者に対しては国債の利子を支払う必要がありますが、日本銀行は政府の子会社であるために、日本銀行が国債を持っていても政府は国債の利子を支払う必要はありません。

さらに、政府が発行した国債を日本銀行が保有することで、その国債は政府の負債ではなくなるため、返済する必要がなくなります。つまり、国債の発行残高は実質的に500兆円程度にとどまっており、実質的に返済すべき額は目減りしている状態といえるのです。

インフレ率2%以下なら財政出動は可能

MMTの理論をベースに考えると、政府が国債を発行すれば日本銀行は際限なくお金を印刷することが可能となります。

特に、日本は自国の通貨である円を国内で発行していること、また、国債は円建てなので海外に返済する必要がありません。

しかも、日本はモノの供給能力が高く、よほどのことがない限り物不足になることがありません。つまり、モノの値段は低く抑えられるため、インフレ率も低く抑えられます。

通常、お金を大量に発行してしまうと、モノの量に対してお金の量が圧倒的に多くなってしまいます。すると、大金を持った大勢の人たちがモノを買おうとしますが、モノが欲しい人に対してモノの数が少ないために、モノの値段が大幅に上がってしまいます。

これが、お金を発行しすぎてインフレが起きてしまう仕組みです。

しかし、日本はモノの供給能力が高いうえにモノがあり余っていることから、お金をたくさん発行してもそう簡単にモノの値段は上がりません。そのような場合こそ、お金をたくさん発行しても問題ないといえるのです。

逆に、モノの供給量が少ない場合、つまり、インフレになりそうな場合にお金を発行しすぎてしまうと、モノが少ないにもかかわらずお金ばかりが増えてしまい、結果的にモノの値段が一気に上がることになってしまいます。

そのため、インフレ率が高い場合にはMMTによる財政出動を行わない方が良いのです。

ちなみに、MMTによる財政出動は、インフレ率が2%になるまで行うことが可能とされています。なぜなら、インフレ率2%という数値は、経済が過熱しすぎず、逆に落ち込みすぎない適切な水準であるためです。

インフレ率が2%を超えると経済は過熱気味とみなされ、インフレ率が2%を下回ると経済が低迷しているとみなされます。日本では、インフレ率が低い状態が長い間続いていますが、そのような理由からもMMTはむしろ行うべきといえるのです。

景気の底入れを図るためにも財政出動すべき

冒頭で、新型コロナの緊急経済対策として総額60兆円規模の予算を計上した、ということについて説明しましたが、この金額はまさに巨額といえます。

しかし、新型コロナによって経済が縮小、業種によってはほぼ停止している現状を踏まえると、MMTに基づいた財政支出はためらうことなく行うべきと考えます。

MMTに基づいて財政出動を行える条件は以下の通りです。
・自国で通貨を発行していること
・変動相場制であること
・インフレ率が低いこと
・国内において製品の生産能力が高いこと

日本は上記の条件を全て満たしており、MMTによる財政出動は問題ない状況といえます。

むしろ、今、財政出動を行わなければ、日本の経済は停止してしまい、今までとは比較にならないほどの景気低迷が生じることにもなりかねません。

日本には通貨発行権があり、諸外国のように財政赤字が増えたとしても、よほどのインフレが発生しない限りデフォルトする可能性はかなり低いといえます。

MMTの弱点は、インフレになったときに行った場合、インフレに輪をかけてしまう点です。その点、日本では長い間インフレ率が低水準に抑えられているため、MMTによる財政出動を行ってもインフレは起きにくい状態と考えられます。

もちろん、巨額の財政出動により、今後インフレが発生する可能性はなきにしもあらずですが、新型コロナの影響で経済活動が停止している現状では、MMTの理論に基づき、財政赤字であったとしても資金の供給を行い、経済活動を活発にすることの方が重要といえるのではないでしょうか。


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