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童話

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自作童話ですが、習作です。上手くなるためには書くしかなく、投稿生活を乗り切るための土台となる作品を集めました。未熟なものもありますが、ご一読いただければ嬉しいです。
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#童話

童話『ぼくのふろしき』

 わが家にエコバッグはない。と書くと環境のことを考えていない家族と思われそうだけど、そうじゃない。エコだけど、バッグではないだけ。  何を使っているのかって? 日本に古くからある、ふろしきという布だ。 コツさえつかめば何でも包める。環境に優しく、畳んでしまえばポケットにもしまえるというスグレモノ。便利さという点で、ぼくはみんなに勧めたい。でも本音を言えば、これを使わせる親を何度うらんだことか。  だって友達と買い物に行く時、ふろしきを持って行く小学生が周りにいる? 友達だけで

童話『そらになった雨つぶ』

 雲の上はいつも晴れた空が広がっています。地面にいくら雨が降っていても、空は雲より高い所にあるのですから。昼間はどこまでも青く、夜はたくさんの星が輝きます。  黒い雲は小さな雫の集まりです。その雫が、ぽつり、ぽとぽと雲から落ちて、雨になるのです。雨粒は透き通っていますが、地上に降ると色がつきます。どんな色にもなれるのです。それが雨粒たちの楽しみでした。  雲の中で空を見上げている雨粒がいます。 「きれいだなぁ。あんなきれいな青になりたいなぁ」  それを聞いて他の雨粒たちは笑い

童話『アリ、そしてキリギリス』後編

 虫の音楽コンテストには多くの歌自慢の虫達が集まっていました。キリギリスだけでなく、コオロギ、鈴虫、ウマオイ、松虫。どの虫もコンテストに向けて練習してきたのでしょう。歌も演奏も、みんな上手です。でも、とキリギリスは思いました。アリは自分が一番だと言ってくれた。自信をもとう。ここで弱気になってはいけない。 「次、野原から来たキリギリスさん」  いよいよ自分の番です。キリギリスは自分の歌を、目を閉じて聴いていたアリを思い出しました。今も彼が聴いてくれている。そう思うと緊張がほどけ

童話『アリ、そしてキリギリス』前編

「仲間がみんな一生懸命働いているのに、君はいいのかい?」 「いいのいいの。それよりもう一曲聴かせてよ」  太陽の下であちこち歩き回って食べ物を巣に持ち帰る仲間を横目で見ながら、一匹のアリが大きな葉っぱが作る涼し気な陰で、友達のキリギリスの歌と演奏を聴いています。 「そうかい? じゃあ、この歌を聴いておくれよ」  キリギリスの奏でるバイオリンと澄んだ声が、風に乗って流れます。 「なんていい歌なんだろう」  アリは目を閉じて、うっとりと耳を傾けています。 「ねぇ、アリ君」とキリギ

童話『クスノキの鐘』前編

「そろそろ巣立ちかね?」  梅雨もそろそろ終わりに近づき、空は何日かぶりに晴れ渡っています。丘の上のクスノキは、カラスのお母さんに声をかけました。数年前からカラスの夫婦はクスノキの枝を借りて巣を作り、子育てをしているのです。春に少し葉を落とすものの一年中緑の葉を茂らせる上に、丘の上のクスノキは幹も太く、四方に長い枝を伸ばしているので敵から見つかりにくく、巣を作るには最高の場所でした。 「そうですね。もういつでもって私は思ってるんですけど」  カラスのお母さんは、あちらこちらの

童話『星の子の冒険』 前編

 春の終わり頃のことです。東の空から昇ってきた月の明かりが野原に降り注ぎ、草花の葉っぱが宝石のように輝きました。まるで野原が星空になったようです。もちろん本物の宝石ではなく夜露が光っているのですが、草花は大喜び。 「ほら、大きな指輪みたい」とタンポポがギザギザの葉についた夜露を嬉しそうに見ています。 「私はティアラを載せたみたい」とカラスノエンドウが小さなピンク色の花についた夜露を落とさないように気をつけながら言いました。  花が咲かない草も、花が終わって葉っぱが出始めた木も

童話『春の音楽会』最終話

三、春の音楽会  春になりました。暖かい太陽の光は、町も、山も、野原もきらきらと輝かせました。春風が、野原の草をそよそよと揺らしながら通ります。  野原のまん中を通る一本道の傍で、白いきれいな花が咲きました。春風は花の周りをくるくると回りました。  旅人が 楽団に入ってから 一か月が経っています。その間、風は野原にいました。花のつぼみが開くのを待っていたのです。 「花さん、きれいだねぇ。ぼく、うっとりしたよ」 「北風さんも、すっかり暖かくなったわね」 「うん。だからぼく、も

童話『春の音楽会』第二話

二、旅の音楽会 「旅人さんが来たかった町は、ここかい?」  小さな町なので、北風は少しがっかりしていました。たくさんの人に音楽を聞いてほしくても、広場に人がいないのです。歩いている人はみんな、ぶ厚いコートの襟を立てて、足早に通り過ぎていきます。 「旅人さん、別の町に行った方がいいと思うな。ぼく、どこか人の多い町があるか探してくるよ」  北風は空に浮かび上がると、ぴゅうっと飛んでいきました。  旅人は、北風が飛んでいった空を見上げながら、ほほえんでいました。旅人は町から町へと

童話『春の音楽会』第一話

作品について 2022年『小川未明文学賞』短編部門に応募した作品です。原稿用紙20~30枚の規定です。全部で6600文字ほどになりますので、三回に分けて公開しようと思います。短編部門は小学校低学年が対象のため、応募原稿では小学二年までの漢字のみを使い、ひらがな表記の文節間に空白を入れる、分かち書きをしていましたが、公開にあたり表記を改めています。 では、本編です。 一、夜の音楽会  暗い夜空の下で、一人の旅人がたき火をしていました。  朝からずっと歩いてきましたが、町につ

童話『風の岬の小さな灯台』後編

 森が静かに眠りについた時、ろうそくが言いました。 「さっきはありがとう。でも、なぜ一緒にお願いしてくれたの?」 「自分でも分からないけど、よかったね」  山風は本当は分かっていたのです。ろうそくの火があんまりきれいだから、ずっと見ていたかったのです。 「そうだ。ちょっと待ってて」  山風は森を抜け、野原の花畑の上を通り過ぎて戻ってきました。 「なんだかいいにおいがする」 「うん。花のにおいを集めてきたんだ」 「じゃあ、お礼にいいものを見せてあげる」  山風はろうそくに近づい

童話『風の岬の小さな灯台』前編

作品について 2022年『日産 童話と絵本のグランプリ』童話の部に応募した作品です。400字詰め原稿用紙5~10枚の規定のところ、10枚フルに使いました。一度に公開すると長いですから、前後編に分けます。よろしくお願いします。  海に面した岬に灯台がありました。昔はこの灯台の光が船の目印になったのですが、別の場所に新しい灯台ができてから、光が灯ることはなくなりました。今ではもう古くなり、ひっそりと立っています。  人間は知らないことですが、灯台の場所が変わってから困ったことが

童話習作『こん太のクリスマス』

 キツネのこん太は、巣穴から顏を出しました。 「うわぁ、たくさん降ったんだな。どうりで寒かったはずだよ」  森の木も、地面もまっ白な雪に覆われています。森に来て初めての冬です。  白い雪の上を、まっ黒な動物が歩いてきます。きょろきょろと何かを探しているようです。 「あっ、くま太くんだ。おーい」  こん太は巣穴から出て走っていきました。 「やぁ、こん太くん。どうかしたの?」 「雪がたくさん積もってるから、一緒に遊ぼうと思って」 「もうすぐ冬眠するから、たくさん食べておかないとい