[親愛なる片割れについて], From, 千春, to, 佳歩

 佳歩は、中学の時に出会ったかけがえのない親友だ。ちゃんと自分の考えを持っていて、人を気遣うことができて、いつも広い視野で物事を判断できる人。時間がかかっても決して前に進むことをやめない根気の強さと、常に人を尊重することを忘れない彼女の優しさには、私を始め多くの人が救われていると思う。

 佳歩とは中学校3年間を一緒に過ごした。
第一印象は「大人っぽい子」だった。穏やかそうで、自分も含めた他のクラスメートたちとは明らかに精神年齢が違うように感じた。ピアノが上手で勉強面出も優秀だった。先生たちからの評判も良く、平たく言えば優等生だったのだと思う。
けれど、別に天才というわけではなかった。ピアノが上手なのはそれだけ練習していたからだし、勉強だってしっかりしていた。佳歩の才能は、結果のために自分のできる精一杯の努力ができることで、それらを他人にひけらかさないところだ。尊敬しているけれど、もう少し力を抜いてくれると私は安心なんだけれど。
二人とも寮生活をしていたので、大袈裟でなく一つ屋根の下で暮らしていたし、朝起きてから寝るまでずっと一緒にいた。この時間があったからこそ私たちは今も一緒にいるのだと思う。
残念ながら同じ空間で生活していたのは3年間だけだったけれど、それでも私は佳歩をそれなりに知っている。

 現在佳歩はカナダの大学で勉強している。正直何の勉強をしているかあまり知らないけど、学びのために母国を出て立派に生活しているだけで本当に尊敬しかない。近くにいられればと思うこともあるけれど、佳歩は何かを吸収している時間が一番魅力的だから応援せずにはいられないのだ。
ナスが嫌い。昔はラーメンも苦手だったけど今は食べられるようになった。
名探偵コナンが好き。格好いい女性に憧れているけれど、自分の道は自分で切り開ける彼女はすでに格好いい女性だと思う。大丈夫、そのまま進め!
恋愛運が良くない。佳歩が重いものを背負おうとしている時、それを一緒に抱えてくれるような人が現れるといいんだけれど。

 いろいろと書いたけれど、知らないこともたくさんある。
たとえば何色が好きなのかとか。ピンクのものをよく身につけていた気がするけど、好きだったから持っていたのか単に自分のイメージに合うものを選んでいたのかは分からない。
たとえばどの季節が一番好きかとか。春が苦手なのは知っているけど好きな季節については印象が薄い。

 一番怖いのは知らないことがあるという事実ではなくて、全てを知った気になること。佳歩という人間を私のイメージの中に閉じ込めてしまうことだ。佳歩が何を考えているかは二の次にして、考えそうなことを勝手に予想して満足してしまうかもしれない。長い付き合いになるほどその可能性は増えていく。
だから今回のアンソロジーは、お互いを知りなおすいいきっかけになる。同じテーマで書くからこそ、私たちの違いや共通点がよく見えるはずだ。私は佳歩の新しい一面を知ること、そして世間に佳歩という人の足跡が残ることが楽しみで仕方ない。

 雨を晴れにすることはできない。けれど、雨の日を楽しく過ごすことならできる。私たちは迷ったり傷ついたりしながら、いつもこうやって生きてきた。
過去の私たち、未来の私たち。私たちの綴る言葉が、どこかで佇む誰かに届くことを願って。

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