Tu me manques

「――強いとか弱いとか、そんなんじゃないの。結局、淋しいという思いは、そういう思い自身によって助長されるものでしかないの」
「君は強いね」という彼の何気ない科白を遮るように、彼女は答えた。
「でも、君だって、淋しい思いをしたことはあるはずだよ。まだほんの子供の時分にとか……」
「淋しさってなんだろうって、時々思い出したように私は考えるのね。『あなたなしじゃ生きられない』なんて科白があるけれど、あれって嘘でしょう? 実際、私達は特定の誰かを失っても生きていけるし、誰もがそうしてるじゃない」
「やっぱり、君は強いね」
 彼女の断定を受けて、彼は再び言った。彼女はふうっと一つ溜息をついた。
「本当に淋しさが埋められるのならね、私も慰めあう彼らに哀しい目を向けたりしないわ。でもね、淋しさはどこまでいっても淋しさなの。淋しさは、自分の内側からふつふつと沸いてくるもの。それを癒すのは、自分の外にいる誰かじゃなくて、自分自身でしかないの。淋しさは孤独と一緒。外からの火ではけっして燃えない炭もあるわ」
「それじゃ、どんなに温めあったところで、その温もりが心の底まで届くことはないんだね……」
「だから、私には淋しいという気持ちが分からないの。だって、独り生まれ、また独り死んでいく私達は、その誰もが最初から淋しさと共に在るんだもの。そういう運命にある私達には、本来的に誰かを温めることなんてできっこないの。だから、幾ら泣いても、誰かに依存しても、淋しさをどうにかできるわけじゃないの。それは癒えることのない傷口を必死で舐め合っているだけ……」
「君には淋しいという気持ちが分からないの、本当に?」
「私には分からないわ――」
「それなら、なぜ、さっきから君はずっと、涙を流し続けているの?」

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