私にとっての京アニさん

今日、一つの読み切りの漫画を読んだ。
友達が面白いって呟いてたから、昼休みに読んでみた。

すごく面白くて、素敵な作品だったけど、読了後に涙が止まらなかった。会社の昼休みにデスクで泣いていた。
感動したわけじゃない。
あの事件を思い出して悲しかったのだ。
なんで今日、昨日の今日でこの作品が話題になるんだろうと思った。
今日じゃなくて、1ヶ月後だったら受け入れていたかもしれない。

でも昨日、10時半からのYouTubeの追悼式で、手を合わせて唇を噛んで、涙を流したばかりの私には、受け入れられなかった。

きっと、この悲しみが分からない人は多いと思う。
そういう人に、「あの漫画は辛かった」って言っても多分理解してもらえないと思う。

私はやっぱり悲しくて一人で抱えきれないので、ここに京アニさんへの思いの丈を書いて昇華させようと思う。(漫画の話はここで終わります)



私が京アニさんの作品と出会ったのは、高校2年生の夏だった。多分オタクの中でもだいぶ遅いと思う。
当時声優さんにハマりたてで、好きな声優さんがメインキャラをやる作品があって、しかも面白いと友達に勧められて、見始めた。
「Free!」という作品だった。

話は王道、でもほぼ常時キャラたちは上裸(水泳部のお話なので)という狙いすぎな設定で、時にはギャグを織り交ぜながら、青春を描いていた。もちろんハマった。

ただ面白くてハマったわけでもない。
主人公のハルちゃんは高校2年生で、部活を頑張っていて、私も高校2年生で部活を頑張っていた。とても共感した。
ラジオやオーディオコメンタリを聴きあさり、雑誌は(買うお金がなかったので)立ち読みして、アニメは録画を何回も見て、とにかく全てのコンテンツを追いかけた。

ハルちゃんが大好きだった。
その頃我が家にやってきた子犬に「ハル」と名前をつけるくらいに大好きだった。

ではハルちゃんの何が一番好きなのかと問われたら、私は迷わず「瞳」と答えるだろう。
ハルちゃんは基本的に無表情で無口。でも瞳がころころ表情を変えるから、ハルちゃんのことはよく分かった。
清い水のような真っ青な瞳が、とても印象的だった。

高校3年生の夏、ハルちゃんたちも高校3年生の夏を迎えた。Free!の第二期である、Free! Eternal Summerが放送された。
ハルちゃんと、親友のマコちゃんが進路で悩んでいた。マコちゃんは、生まれ育った故郷と親友と離れて、東京の大学に進学することを思い悩んでいた。

私も、遠く離れた大学を受験しようとしていた。
ひどく重なって、感情移入して、毎話毎話放送日の翌日は教室の隅で泣きじゃくっていた。

受験の当日、試験開始の直前まで、Free!の曲を聴いていた。そういえばこの頃にFree!の主題歌に目覚ましを設定してから、今まで変えていない。

Free!にハマって既に一年が経っていた。
私の愛は、制作サイドの京都アニメーションさんへ向かっていた。

Free!の世界の中では、海は青く輝き、空は透き通り、飛ぶ鳥も、水飛沫も、舞い落ちる桜の花びらも全てが輝いていた。
京都アニメーションさんの描く世界は、とても美しかった。
大好きなハルちゃんの瞳も、京都アニメーションさんの表現があってこそだと気づいた。
こんなに素晴らしい作品を生み出してくれて、「ありがとう京アニ」といつも思っていた。

マコちゃんの声優さんが、「俺は真琴の声を担当してるだけで、真琴は絵を描いている人、動かしている人、スタッフのみんなで真琴なんだ」みたいなことを言っていた。

そうか、私の大好きなFree!は、関わっているスタッフさんもみんなで作り上げたものなんだ、そう思った。
次第にエンドロールに流れる名前に目がいくようになった。スタッフインタビューもたくさん読んだ。
私の大好きなFree!は、作っている方々みんなが心から愛して生まれていることが、何よりも嬉しかった。

京アニさんの他の作品も見た。エンドロールには、知っている名前がいくつもあった。
京アニさんの見せてくれるアニメは、いつもとても美しかった。

Free!の聖地に巡礼もした。遠かったけど。
自転車を借りて走れば、ハルちゃんがそこにいるんじゃないかと錯覚するくらい、アニメの中の岩鳶町がそこに広がっていた。
ここがハルちゃんの家で、ここがマコちゃんの家。ここが高校で、ここがみんなで話した神社で、、、
アニメ映像と見比べながら、同じアングルで写真を撮った。海は美しかったし、素敵な街だったけど、「京アニ」というフィルターを通した岩鳶町の美しさを改めて実感した。

Free!は長く続いた。映画も何本もやったし、アニメも3期があった。
ハルちゃんが大学生になり、私も大学生になっていた。
ハルちゃんが悩んで、苦しんで、でも必死に頑張っていて、ずっと応援していた。

ハルちゃんがオリンピックへの挑戦権を懸けてスタートした瞬間に、現時点での最新のアニメは終わった。
2020夏に新作アニメが劇場公開されることが発表された。そう、オリンピック編である。
きっとそこで完結してしまう、それは寂しい。
でも楽しみ。

ある夏の日、バイトが終わって、携帯を開いた。
何気なくニュースを見た。京アニで火事があったらしい。
心配だった。あの美しい原画たちは無事だろうか?スタッフさんたちは避難できただろうか?

でもそれからは地獄だった。

毎日毎日、少しずつ更新される、「この人は無事らしい」という情報。
少しでも多く、知ってる名前が出てくることを願った。

テレビも、ニュースも見ていたけど、心がどんどんすり減っていった。
Twitterのオタク垢では、同じようなフォロワーさんが多かった。
みんなで、「今このテレビで報道してるから、自衛しよう」「今日はこのネット記事に取り上げられてる」そうやって情報交換して、みんなでみんなの心を守り合った。

1ヶ月くらい経ち、ようやく被害者の名前が公表された。
たくさん知ってる名前があった。たくさん。
私の大好きな、ハルちゃんの、Free!の大部分が、そこに、無情な文字列としてあった。

フォロワーさんには耐えきれず、薬や病院に頼っていた人もいた。
みんな、Free!の、その先にいる京アニさんが大好きだった。
新しいコンテンツが出てくるたび、よく京アニさんの話になった。アニメの話であそこまでスタッフさんの話をしていたのは本当に珍しいことなのではないだろうか?
それだけに、心に深い傷を負っていた。

私はそれから、京アニさんから少し離れた。
心から応援していたから、御用達の京アニショップでたくさん買い物した。
でも届いたDVDは、何一つ見ることができなかった。
裏面に並ぶ名前の意味を理解してしまう前に、本棚にしまった。

1年が経った。
あの日も制作が進んでいたヴァイオレットエヴァーガーデンが公開された。
その時に、1年ぶりに、新しい京アニさんのアニメを見た。

とても美しかった。美しくて心がひどく動かされて、たくさん涙が出た。
エンドロールには、知っている、もういない、名前が並んでいた。
彼らの美しいアニメが焼けずに残っていて、よかった。

目を逸らさないで見れて、少しだけ乗り越えられた気がした。

Free!の新作の公開は延期が決まった。
奇遇なことにオリンピックも延期になった。

1年半が経った。
Free!の公開日が決まった。

2年が経った。
あれ以降の完全新作のアニメが公開された。
放送されたというニュースを横目に見て、嬉しかった。でも見れていない。
エンドロールに、もう彼らの名前がないことにきっと気づいてしまうから。

Free!の公開日が迫っている。
映画が公開されるたびに、入場記念で配られたイラスト入りのコースター。
ハルちゃんのコースターは全ての映画の分、部屋の一番いいところに飾ってある。

でも今度の新作の特典はどうなるんだろう?
だってそのコースターに書いてあるサインは、もう二度と見られない。

もちろん楽しみである。私の大好きなFree!の、その先の物語。
でも、私の大好きなFree!は、それを作り上げていた人たちは、遠くへ行ってしまった。

いや、京アニさんのことだから、大好きなFree!に変わりないに決まっている。そこは全く心配していない。
ただ、Free!を愛する皆さんが描いた、ハルちゃんのオリンピックを見届けたかった。

全然消化も昇華もできない。
どうして一度なくなってしまったものは、二度と戻らないのだろう。

でも、私の大好きなアニメ制作スタッフの方々がいたという事実と、彼らの素晴らしい作品だけは絶対に無くならせない。

ハルちゃんのオリンピックと、きっとこの先も生まれるだろう素晴らしい数々のアニメ作品を、見守りたい。

必ず見守るので、今はまだ、目を閉じて祈らせてください。どうか、安らかに。

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