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「真珠女」2話【涼】


【涼】

「涼君初めまして、かっこいいですね」

一度眠ったら忘れそうなくらい適当な一言を送ってしまったとSNSを閉じる

「かっこいいなんて嬉しい!奈帆ちゃん!可愛いね」

10分も経たないうちに返信がきて、スマホが急に引力を持ちだした。

「あんまりsns慣れてないんですけど、涼君がかっこよすぎてタイプでメッセージ送ってしまいました」
「ほんとに?ありがとう!奈帆ちゃん何歳なの?」

深夜2時、返信が10分以内という事は涼もベッドでスマホを触りながら寝る前だろうか、せっかく返信をもらえたんだから途切れさせまいとフリックする指が少し震える。

「23歳です、学年は涼君の一個上だと思います」

この後返信が来たのは次の日だった
「いつもどの辺で遊ぶの?」「池袋?あんまり行かないけど近いね!」「池袋が地元なの?」

無難なやり取りが数日続く、会ってみたいと伝えたいけど私のアカウントに投稿されてるのはキャバ嬢時代に同伴で行ったお店の料理、アフターで飲んだテキーラばかりで友達とお洒落なケーキを囲んだ1枚も、キラキラの自撮りの1枚も無い、警戒されてしまいそうだしイケメンとメッセージのやり取りをしているだけで満足な気もしてきた。

「お酒好きそうだね!強いの?」
「お酒好きです、あんまり強くないんですけど。。涼君はお酒結構飲みますか?」
「1人では飲まないけど好きだよ!今度奈帆ちゃんと一緒に飲みたいな」

―――この時誘われなかったら、涼はただの「ちょっとメッセで会話した事のあるイケメン」で終わっていたのに。

「飲みに行きたいです!」と素直に送信したらスルスルと日にちが決まった。
会う約束の日までやり取りが途絶える事は無く、キャバクラを辞めるまでひっきりなしにスマホを鳴らし続けていたのが、9割以上客であった事を寂しいと思うようになっていた私は、涼から送られてくる「可愛い」「早く会いたい」「すごくタイプ」という言葉達を全て吸収する。海綿みたいだ。
私の中ので5ヶ月沈黙し続けた“女”は簡単に濡れ喜ぶ。
涼からのメッセージが届く度にスマホがデパ地下に入ってるお洒落なケーキ屋さんのショッパーに見えて、メッセージを開く時はどんなケーキが入ってるんだろうとドキドキして、メッセージを読むとケーキを丸呑みした気分になった。

#創作大賞2024
#恋愛小説部門

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