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「真珠女」14話【ブリーチ】

【ブリーチ】

「友達と六本木でアフヌン行ってきた!可愛く撮れてるでしょ」
奈帆と別れてからケーキの写真を送ってもう丸1日経つのに返信が来ない、どんなに遅くてもその日のうちに返してくれていたのに、SNSの更新も無い。
2日経っても返信は来ない、こんなに日が空いたのは初めてで、何かあったんじゃないか、事故にあって意識が無いとか、事件に巻き込まれて身動きができないとか。
3日経っても涼が今どこで何をしているのかわからない、もう一度連絡を入れてみようと思ったけど、まだ3日だ、まだ待てる、まだ待つ。
4日経っても返信は来ない。こんなに涼の事を必要としてるのに、涼がいないと私は生きていけないのに、涼が生きてるのかさえ知ることができない場所に私はいるんだ。もし涼が死んでしまってたとしても、それすら知る事ができない遠い場所にいるんだ。地元が近いとか、職場が一緒とか、共有する人間関係があればよかったのに。
待つしかない、そう思いながら1週間が経った。起きて期待をせずにスマホを開き、やっぱり返信は来ていない、もう一度目を閉じて涼を想う、涼の声と体温を思い出し、優しく頭を撫でてくれる、奈帆は俺のもの、抱きしめてくれる涼の匂いを思い出しながら目を閉しる。ゲームすらやらなくなり、布団の中で涼を想い続けた。

もう一度私から連絡を入れてみよう、それでも返ってこなかったらその時考えよう
「連絡来なくて寂しい、何かあったの?」
送信した後、SNSを見に行くと

北海道へ行ってきたと更新されていた。
「初めて2人で飛行機乗った」とだけコメントがあった写真達には、化粧の濃い金髪の女の写真が何枚もあった。
彼女の金髪はパサついて見えた。涼は初めて会った時私の髪の毛を透き通っていて触りたくなると言ってくれたのに。
とても痩せて見える彼女。私にスタイルがいいと言ってくれたけど、本当は胸もお尻もどうでもよくてガリガリに痩せた女が好きだったんだ。
クロップド丈のトップスに、私が絶対に履かないであろうカジュアルなジョガーパンツ姿の彼女。私の服のセンスを好きと言ってくれていたのに。
タグ付けされた女のアカウントを見に行くとフォロワー以外非公開になっていた
フォロワー申請してまで中身を見る気にはなれず、プロフィールの写真だけをじっと見つめる。

そんな気がした、女が出来て連絡が来なくなった
なんとなくそう思ってた。
全部全部わかってた、涼のくれる言葉に中身なんて無くて、甘い匂いがするのに食べても味がしない。
それでも好きだった、いつか跡形もなく消えてしまうと、わかっていたのに。

私は自分を覆っている殻の隙間から手を伸ばし、好奇心で涼という小さな核を手に入れた。
私の中で優しく転がり続けた核は、綺麗な真珠のようになっていく。
大切にすればするほど痛くて、涙で核は大きくなる、痛くて仕方がない、大きくなってしまった真珠を吐き出したいのに殻を自分で開けられない。馬鹿な女だ。殻が開かないならこの身ごと滅びてしまえばいい。

家にある鎮痛剤の残り、風邪薬1瓶をテーブルに出し、ビールで全て流し込んだ。飲み込む度に十数の錠剤が喉の奥に当たり落ちていく感触が気持ち悪くて体が震える、なるべく纏めて飲まないと吐いてしまうと思い一気に飲み込む。

ああ、虚しいと思った。記憶はそこで終わっている。

激烈な頭痛で目が覚めた。目が飛び出してしまいそうなくらい頭が痛い、どうしてこんなに頭が痛いのかわからない、今まで経験したことの無い割れるような頭痛に混乱し、何が起こったんだと思った瞬間嘔吐した。
ほとんど形を保ったままの吐瀉物を見て、自分が大量の鎮痛剤と風邪薬を飲んだのを思い出した
その場で嘔吐を繰り返し、喉の奥が苦く焼けるようだった。吐瀉物を横目にまた意識が飛ぶ

再び目が覚めると、酷い頭痛と手の痺れと動悸でしばらく動けなかった
水が飲みたいと這いつくばりながら台所に向かい水を大量に飲んだ
もう一度嘔吐した、固形物はもう殆ど出てこなかった

苦しい、なんでこんな事をしたんだ。
今から救急車を呼んで胃洗浄しても意味が無いかもしれない、点滴か何かしてもうのか、下剤でも飲まされるのか、この部屋で孤独死はしたくない、何かしらの処置をしてもらわないと。救急車を呼ぼうとスマホを手に取る

「ごめんね、連絡返したと思ってたら送信できてなかった。奈帆から返信ないから嫌われたと思ったよ、寂しかった」

しょうもねぇ嘘ついてんじゃねーよ死ね



#創作大賞2024
#恋愛小説部門


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