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文体の舵をとれ 練習問題② ジョゼ・サラマーゴのつもりで

 今回の課題のむずかしいところは、句読点がなくても伝わる文章を書けばいいというわけではないところだ。句読点の使用を禁止することで、句読点の真価を考えるようになるのが目的。

練習問題② 句読点のない語り

 中年になって郊外に引っ越したというとなにやら優雅なもしくは意志のあることのように思われるが単に家賃の安いところでぎりぎり通勤にも支障をきたさないという条件で探したのでいきおいあまり美しくもなく便利でもなく川が近いのがせめてもの環境だが万が一氾濫でもしたらすぐに浸水するような土地だった乗降する人間の数こそ多いが賑わいというほどの賑わいもなく買い物するにも外食するにも不便で不毛な駅前をちょっと離れると車一台がやっと通れるような道がときおり不規則に曲がりながら住宅地を抜けていく森が丘遊園まで歩いてお昼を食べに行きましょうよ三連休の中日の妻の突然の思いつきにいったんはいいかなと思ってみたがすぐに隣駅も似たようなものなのを思いだしたいやだねクソ店しかないそんなことないわよ美味しくもないけど不味くもないお好み焼き屋さんがあるじゃない言われてみれば一度行ったお好み焼き屋は悪口を言うほど悪くはなかったかも学生の頃に住んでいた街を思い出す食べ物屋と喫茶店と古本屋がむやみと多い街だったお好み焼き屋もあったが一人で入る気にはならず前を通るばかりだった急にその店のお好み焼きがうまかったのではないかと食べなかったのが惜しくてたまらなくなるなぜ一度くらい行ってみなかったのだろうこうやって食べなかったお好み焼きの味をきっといつまでも追い求めるのだそうだとしても森が丘遊園なんか行かない行かない

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