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1度だけ邂逅した「貴婦人」の味と香り【書く部のお題で書いてみた】

忘れられぬシャンパーニュがある(以下のサイトは生年を西暦で記入するフォームが表示され、20歳未満の閲覧が禁じられています)

ヴーヴクリコ、ラ・グランダム 1990 ジェロ。興味のある方は検索してみて欲しい。一例として「勝田商店」のサイトを挙げる👇


通信販売でも高額、中々入手できぬヴィンテージのシャンパーニュである。シャンパンではない、正当のシャンパーニュ。

この至高の雫、私には到底手が届かないそれのお相伴に与ったことがある。今から20年以上前のことだ。

私は1994年から短歌同人誌に所属していた。その代表(二人いた内のひとり)が処女歌集を上梓(出版と言い換えるべきか。そろそろ歌集も特別な言い方から解放されてもよい時代だから)し、それを祝うパーティがアットホームな中で、店の一角を貸し切りにして執り行われた。
その店は、恩師と仰ぐ方が懇意にしていたワインバー。そこで恩師が用意し、テイスティングした一本がラ・グランダムであった。


ラ・グランダムと共に供されたのはドンペリ。私はワインオーダーの作法など知らぬ粗野な人間だが、どうやら客への礼儀として2本を供し、テイスティングの後に目的の一本をワイングラスに注ぐのがソムリエの作法であり、上客への礼節ならしかった。


「なあ。ドンペリともう一本、どっちが高い?」

恩師が中座した時、こんな間の抜けた質問をしてきたのが、祝われる当人の夫君だった。天然気味だが誠実な彼に、私は同人仲間として友情を感じていたし、今も感じるのだが、この時ばかりは「アンタ何言ってんの?」と思わずにはいられなかった(苦笑)

「あのですね……(以下省略)ってな感じなので、グランダムを元々出す予定なの、この場合。普通に買ったら結構なお値段だよ、ボトル。それを店で出しているからお高くなるでしょう?」
「ってことは……」
「ワイングラス1杯、五千円は降らない計算になるわね。後で「ワイン百科」とか買っておいて、本屋で(私は買って予習した。姑息かもしれないが、それが心臓への(仰天せぬ)保険だったのだ)」

私の言葉を聞いてくだんの彼は、蒼白な顔をして頷いた。


「改めて思ったけど。先生って凄い人だったんだな……」
「凄いよ……さっき、先生の奥様が『出かける時は忘れずに』なカードでスマートに会計を済ませた瞬間を、私は目撃しました。あとで同人皆で御礼を考えよう?あなたたちご夫婦は、それとは別にお礼するべきだね」
「そうするわ……おい、聞いてたか?」

私と夫君の会話を聞いていた祝われている御当人は、夫の言葉を聞いて可愛らしく首を縦に振った。

その後、恩師も席に戻り、祝いの席もたけなわとなった。貴重なグランダムのビンテージ、そのラベルを持ち帰りたいと二人が言い出し、私に「上手く剥がせないか」と頼んだり、それを聞いたソムリエが「お客様。剥離用の透明シールがございます。当店の用紙でよろしければ、ひとまずそれに貼って保存されるのがよろしいかと存じますが」と申し出てくれるなど、まあ、少々のごたごたはあったが、皆宴席を楽しんで時間はお開きとなった。

余談であるが、私はその時(宿痾の副鼻腔炎が絶賛(苦笑)だったため)抗アレルギー剤を服用中で、アルコールを控え目にせねばならぬ状況だった。2度とはお目に掛かれないグランダムのビンテージである。せめてグラス一杯は飲んでおきたい。そう思いつつゆっくりと(チビチビと表現した方が適切かもしれない)グラスを傾けていると、恩師から声が掛かった。

「春永さん。まさか、グランダムを残すつもりじゃないだろうね?」
「いえ、とんでもない。わたくし、呑むのが遅くてご無礼申し上げます。ビンテージを残すなど、そんな罰当たりな(汗)」

私が慌て返答すると、恩師は笑みと共に頷いた。

「分かっているならいいんだよ。ゆっくり呑みなさい、自分のペースで」


あのロゼ色は本当に美しかった。香りは芳醇で、陳腐な台詞だが、花の香のような優美さを備えていた。口に含んだ瞬間、香りと甘味、旨みが口の中に拡がり、鼻へと抜けていった。あのようなシャンパーニュは最初で最後だった。

そして、恩師と一献を傾ける時間も、あれが最後となった。


ビンテージには到底手が届かぬし、ラ・グランダムも私の懐には痛すぎる。せめてイエローラベルを傾ける機会を得たいと思う。あの時の仲間たちと共に。


ヘッダー画像と同時出力、MicrosoftCopilotによるAIアート。


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