#9 Landscape Architecture

ランドスケープアーキテクチャー、ランドスケープアーキテクトについて説明する機会が何度かあったのだけれど、幅広い領域にまたがるこの学問を簡潔に説明できたためしがない。なので今回は自分でも整理しなおして文章に起こしてみる。

ランドスケープ・アーキテクチャー

まずは一般的な解釈として妥当そうなものをネットから引用してみたのでざっと読んでみてほしい。

ランドスケープ・アーキテクチャー:ランドスケープ分野における実践、およびその学問領域の名称である。「ランドスケープ」という言葉自体が、庭園のようなごく小さな空間からより大きな風景まで、景観を構成するあらゆる要素を包含するものであり、また時代や専門分野ごとに使用法が異なるため、必然的に「ランドスケープ・アーキテクチャー」という言葉が持つ意味も非常に幅広いものとなっている。日本における学問領域としては、大きく園芸学や生態学、植物学などを含む農学系と、都市計画学、建築計画学、心理学、美学などを含む建築・芸術系の二つの系統に分かれている。そもそも「ランドスケープ・アーキテクチャー」という言葉は、1859年にマンハッタンに開園した《セントラル・パーク》の設計者であるF・L・オルムステッドが、「ランドスケープ・アーキテクト」を自称したことに端を発する。馬車と歩行者の動線を分離した道路計画や、植栽のための徹底的な土壌改良、既存地形や露岩の利用など、さまざまな工夫が凝らされた《セントラル・パーク》の設計により、植生や地形、交通計画や建築など、幅広い要素を取り扱う新たな分野としての「ランドスケープ・アーキテクチャー」が成立したとされる。現在では、自然環境保全や生物多様性の確保などのエコロジーの観点や、癒し効果やバリアフリーなどの医療福祉の視点、地域の歴史・文化を含めた景観の考え方などから、建築や土木、都市計画分野に限らず多方面においてその重要度を増しているといえる。(引用:Artwords®)

引用してきた記述からわかるように、「専門はランドスケープです」とひとことに言っても、そのバックグラウンドは異なる。そして多くの、「専門はランドスケープです」という人は(私もそうだけど)造園・土木や建築などを学部で学んで、そのあとに違う分野も勉強した、あるいはしている。だからこそ、自分の専門は何かということを一言で言い表しにくいというのがランドスケープ分野の人の共通の悩みではないかと個人的に思う。

引用元のArtwords®を書いた人は良くまとめたなあと思うのだけど、もう少し踏み込んで、ランドスケープアーキテクチャーの本質について、私のランドスケープ遍歴と合わせて書こうと思う。というのも、(あくまでこれまでにインプットしてきたことを元にしかアウトプットできないので、)様々な学問領域の中で何を経験してきたかも頭の片隅に入れながら読んでほしいから。

ランドスケープ分野の本質

ランドスケープアーキテクチャーという言葉は時代とともに、公共空間の設計やまちづくりなどざまざまな意味を持つようになってきたが、その本質は人々が健康で生き生きと暮らせる空間とその社会をデザインすることではないか。

だからこそ、農学系や建築系、芸術系などそのバックグラウンドが多岐にわたるのは当然のことで、多分野の懸け橋になれる可能性を持つ分野である。例えば、造園のバックグラウンドを持つランドスケープアーキテクトなら、植物に興味のない・知らない人々(建築や土木系)を緑を取り入れたデザインによってつなぐ存在になる、みたいな感じ。


今でも印象に残っている、造園学科入学当時に教えてもらったオルムステッドの言葉があって、

ランドスケープアーキテクトは、科学的百姓であり社会計画家でもある。様々な分野の専門家と一定以上のレベルで会話できる教養が必要だ。

というものだ。

自分自身、色んな角度からランドスケープを勉強しようとしてきたのも、少なからずこの言葉に影響されたからだろう。

ランドスケープ遍歴

上に書いた文は中々専門外の方にはわかりにくかったと思うので、「色々な角度からランドスケープを勉強しようとしてきた」の具体例を書いてみる。

新潟の棚田で
私のランドスケープ遍歴は、”ランドスケープ”という言葉の存在を知らなかった中学生時代にさかのぼる。
新潟県十日町市にファームステイ(修学旅行)したときに体験した棚田での田植え体験とその風景がきっかけで、「ひとの暮らしと景観」に興味を持ちはじめた。当時の総合学習で棚田の景観を取り巻く自然・農業・景観についてまとめたことで農学部で扱う生態系システムと景観を勉強したいと思うようになった。わかりやすく言うと日本の里山や農村景観研究がそれに近い。

造園
農学部に入るつもりだったんだけれど、高校の図書館でたまたまランドスケープアーキテクトという職業を知ったことで、地域環境科学部の造園科学科に入り、いわゆる農学系のランドスケープアーキテクチャーを学んだ。(日本庭園や造園の歴史、植物・石材・木材など造園材料のこと、測量について当たり前のように勉強したけれど、建築とか都市工学系の人はそういう造園のことを意外と知らなかったりして驚いた)
あるとき設計の授業で、街の景観をつくっているのは設計者だけでなく、様々な規制をかけている制度が大きくかかわっていることを知る。また、公園や広場など公共空間の設計だけでは手に負えない課題はたくさんあって、それらに立ち向かうには、設計というハードのデザインだけでなく、課題にかかわる制度・政策を動かしたり、かかわる人々をつないだりといったソフトのデザインも組み合わせていかなければならないと気づいた。
それと同時にチームでデザインワークショップに参加したり、芸術系の建築出身の人に風景デッサンを習ったり、庭園の工事のバイトをしたり、少しづつ大学の外にも出ていく事を意識した。
こんな感じで様々なことを知り・気づいたことで、すぐに社会に出て働く事よりも景観を形作る制度・政策(都市計画・国土政策etc.)についてもっと知りたいと思い始めた。

都市・環境学
当たり前だけど、そのまま進学すると先生も学生も農学系のランドスケープが専門の人たちが集まる環境にいることになる。だから私はそれ以外の、つまり人文・社会学系や建築系を含む都市工学的な人たちのランドスケープの世界も見てみたくなった。それと海外に行って広い世界を見たいという思いも強くなった。ほかにも理由はあるけれど、それらの実現に一番近そうな場所に身を置きたいと思って農業大学から工業大学の都市・環境学という複合系のコースに進学することにした。

エコデモ、ヨーロッパ留学
修士1年は、建築の人とのチームワークで考えの違いに苦戦したり、四国やイタリアで石積みを修復したり、色んなことにチャレンジしつつ、エコロジカルデモクラシーという考え方にも出会った。
イタリアに行ったことも影響して、修論で一つのことを研究する前に、社会に一番近いところを経験しようと思って、ヨーロッパでのインターンシップに挑戦することも決めた。

インターン先のベルギーでは設計事務所で働きながら、空き時間にエコデモの勉強をしつつ、休日はヨーロッパの街を見て回り(ベルギーはどこへ行くにも便利で立地は最高だったなぁ)、インプットできることはできる限り吸収した。そして早く研究したいなとうずうずした気持ちで日本に帰ってきた。

ランドスケープアーキテクト?研究者?それとも市民?

昔から好奇心旺盛なタイプだったのでまあ見ればわかるけどいろんなことに手を出してきた。急ぎ足で一通りのことをちょっとずつ経験して、もう一度そもそもランドスケープって何だっけ?っと考えてみたことをメモしておく。

①「ランドスケープアーキテクト=設計者」という固定概念みたいなものがあったので、「研究者≠ランドスケープアーキテクト」だと思っていた。でもランドスケープアーキテクチャーの本質が人々が健康で生き生きと暮らせる空間とその社会をデザインすることならば、そのための社会の仕組みを研究して社会のデザインという形で還元する研究者も広義のランドスケープアーキテクトといってもいいんじゃないか。

②暮らしを形作っていくということは、自分自身も一市民として、それに参加していかなければならない。自分の身の回りの環境を改善しようとひとりひとりの市民が意識したら、それはすごいパワーになる。研究者や設計者が一人の力では動かせないことを簡単に動かす、つまり社会を変える可能性を市民は持っていると思う。そう意味でみんなランドスケープアーキテクチャーにかかわっている。(ちょっと無理があるかなぁ?)

③ここまで何回”ランドスケープ”って言葉が登場したか数えてないけど(笑)、この言葉に縛られてはいけないと思う。そもそも人々も社会も変わっていっているんだから、それに密接にかかわっている分野であるランドスケープ分野も動的であるのは当然。だから、今まで関わりのなかった分野や人々とのつながりをつくっていったり、必要なことを学んでいく事をしていかなければならない。かといって、根無し草になってしまったら元も子もないので、自分の土台となるバックグラウンドの知識やスキルも、しっかり固めておく必要がある。

私にとっての修士の研究はそういった意味でこれからの土台となるだろうから、腰を据えてしっかりやっていきたい。

桜並木の下で

さいごに、おまけとして今日の出来事をちょっと書き留めておく。

新学期初の授業に向かうため、お昼過ぎに大学の桜並木を歩いていた。そしたら桜の木の下のベンチでお弁当を食べる研究室の先生に遭遇。ちょっと座っていきなよと声をかけられて、これから研究を続けていきたい事とかについて少し話した。

ほんの10分くらいだったけど、

他の可能性を捨てる必要はなくて、(博士論文書けるかは別だけど)進学してみればいいよ。書こうと思ってから3年はかかるけどね。ははっ(笑)

みたいな、いつもの調子でにこにこしながら言われた。

気持ちばっかり先走って力が入っている時、いつもふいにふっと気を緩められてしまう。(良い意味で)「あぁこの人にはかなわないなぁ」ってまた思った。こんな人と一緒に楽しく研究出来たらきっと、来年も桜の下でにこにこお弁当を食べてる気がした。

そして、桜の花びらで淡いピンク色になったウッドデッキを歩きながら「あぁ、こういう瞬間が生まれる空間を設計したのもランドスケープアーキテクトなんだなぁ」なんて思った午後でした。


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