冷蔵庫を拓く三作〜『るるるるん』vol.2を読む
『るるるるん』vol.2を読んだ。「るるるるん」というのは、(『アフリカ』最新号(vol.30)にも書いている)UNIさんが、かとうひろみさん、3月クララさんとやっている小説を書いて発表する“ユニット”だ。チームというのか、仲間というのか。そんな彼らが発表する2冊目の作品集は、「冷蔵庫」がお題になっている。ぼくは例によって編集後記から読む。記名がないが、読むと、UNIさんが書いているのだとわかる。後ろから順に読もうとしたら、3月クララ「光の中で」だけは横書きになっていて、その扉ページは後ろではなく前だった。
「光の中で」は、「Barで」「オフィスで」「領土で」「休日に」の4パートからなり、冷蔵庫は“大事なもの”と“腐ったもの”をしまっておく場として現れている。語り手の女性は、喪失感に満ちた日常の中で、何らかの手応えをつかもうとしている。そのヒントは、休日に自宅で試みるレシピにあった。書き手も、書くなかに何らかの手応えを求めているようで、読む方も共に模索しながら読む。ここからもっともっと書けそう(読めそう)な、原石のような作品。
次にかとうひろみ「コン、コン」を読むと、冷蔵庫はそこに住むひとの暮らしのあり様を映し出す空間としてある。語り手の女性の1人暮らしの部屋に突然、母親が居候しにきて冷蔵庫が変貌をとげ、異界への導入口になってゆく。人がキツネ化してしまうという事件(?)を、味覚を通して浮かび上がらせているような面白さがある。“食べる”という動物が生きてゆくうえでベースにある営みを、思い出させてもくれる。
そして冒頭におかれたUNI「おいていかれたから」をさいごに読む。ミドリという女性が顧客と会うのに謎のカフェを指定されて、迷い込む。「道」にかんする考察と描写に惹かれてぼくも読みながらミドリについてゆく。が、冷蔵庫は彼女が帰宅する部屋にあり、うるさい音を鳴らしている。あるとき突然、押し付けられた贈り物(ギフト)である。ミドリはそのギフトに困惑しながらも何とか“受け取ろう”としている。帰宅したミドリは冷蔵庫に抱きつき、その温度を感じる。冷蔵庫が、得体の知れないものとして、そこにあるのを読みながら感じる。
そのように三者三様な“冷蔵庫観”が読める。3作を通じて、立ち上がっているのは「匂い」ではないか。「匂い」の小説。ぼくもいま少し「匂い」にとりくんで(書いて)みたい気持ちになってきた。
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