作品の土台をカジュアルに支える 浦井健治という役者の魅力
『五右衛門ロックⅢ』のシャルル・ド・ボスコーニュ。
『メタル・マクベス』disc3のランダムスター。
『GHOST』のサム。
『王家の紋章』のメンフィス。
『笑う男』のグゥインプレン。
振り切った三枚目か、ど真ん中で二枚目かを演じることの多い浦井健治さんの新境地が観られた。
東宝版『ガイズ&ドールズ』のネイサン・デトロイトである。
ネイサン・デトロイトの役どころ
ネイサンはギャンブルの元締のような役割をしている男で、賭場を開催してはギャンブラーたちを集め、クラップゲームをしている。男たちには慕われている。だが婚約中のアデレイドは、14年も「婚約」中のままほったらかし。肝心なところで決めきれない。
けれど、アデレイドを愛しているのは本当だし、とてつもなく真剣なのだ。
始まって早々、舞台の上を走り回るネイサン。どうやら追いかけてくるのはブラニガン警部補のようだ。逃げまどうなかでアデレイドの手にキスをし、また逃げる。なんと忙しい男なのか。
クラップゲームの賭場が見つからない、だがネイサンなら見つけてくれるさ!というナンバー「The Oldest Established」。曲中でネイサンはギャンブラーたちとあいさつを交わし、髭をあたってもらう。男たちがネイサンを慕っていることが良くわかって、グッと心を掴まれる。
1930年代のゆったりとした空気感が板の上に漂う中、速射砲のように言葉がポンポンポン!と飛び出てくる。オープニングのせわしさと、セリフ回しの妙。クラシックな名作である本作に、浦井健治さんは絶妙なカジュアルさをブレンドする。
ネイサンが作品にもたらすもの
先程も触れたが、舞台の上を走り回り、早口でまくしたてることでネイサンは作品のリズムという土台を作っている。
ジャズのアレンジが入ったクラシックな作品のゆったりとしたナンバーは、どれもうっとりと美しいが、ここに、ネイサンを演じる浦井健治さんのとてつもない早口が加わることで、作品にリズムが生まれるのだ。
ネイサンの早い早い喋りのリズムは、婚約者アデレイドとのシーンに笑いをもたらす。喋るリズムだけで笑えるのだ。もはや反則である。
身体能力
群舞の多い本作の中でも、特に下水道でクラップゲームをする場面「The Crapshooter's Dance」が大好きなのだが、この場面でネイサンも踊る。一糸乱れぬ素晴らしいダンスを披露するダンサーさんたちの中にいても遜色ないところがまた、イイのである。
出来ればもっと踊るところが観たいぐらいだ。来年1月の『キング・アーサー』では踊りというより、きっと殺陣をカッコよく見せてくれることだろう。
どなたか浦井健治さんに踊る役を・・・
優しい歌声とセリフ回し
ネイサンはほとんど歌わないので、アデレイドと喧嘩したときに歌う曲「Sue Me」ぐらいしか本作では歌声が聴けないのだが、声がやさしい。あんな声で「I Love You」と歌い上げるのは卑怯である。アデレイドも許してしまうよ・・・
アデレイドと話す時と、伝道所の集会でサラに懺悔する時ではまったく声の色も話すスピードも違うことを、付け加えておきたい。見事なボイスアクトに、何度でも繰り返し声だけでも聴きたくなってしまう。
終わりに
まったくの3枚目というわけでも、ど真ん中の2枚目というわけでもない。
しかし、作品の根幹を支える重要な役まわりだった。浦井健治さんがミュージカルに出るというのに、ほぼ歌わないというのもなかなか斬新だったが、歌わなくてもこれまでの経験で培った、確かな実力が輝きを放っていた。
この作品で、この演出でのネイサン・デトロイト役は浦井健治さんにぴったりだった。2022年、浦井ネイサンに出会えたことに心から感謝したい。
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