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浦井健治さんへの手紙

浦井健治様

『キングアーサー』東京千秋楽を観て、観劇記録を書いていました。ノート3ページ分使いましたが、まだグィネヴィアと出会ったところで止まっています。書きたいことがたくさんありすぎて、なかなか進みません。

フレンチロックの曲とダンスで彩られるこの作品では、いわば悪役のメレアガンやとモルガンにキャッチーな曲や振り付けが当たっていて、あなたの演じる主人公・アーサーは歌で決意を語る。リプライズが多く、あなたに割り当てられている曲は悪役たちに比べて、地味な印象でした。

それでも、わたしの目は他の誰でもないアーサーに引き寄せられたのです。

無邪気な青年が板の上に現れ、屈託ない笑顔で騎士たちの戦う姿を見つめている。兄のためにさっと刀を調達しに行く姿も、普通の家庭に育った普通の明るい青年でした。フラフラとエクスカリバーに向かい、聖剣を抜いたその後も、ただひたすらに嬉しそうでしたね。

若者らしい恋。サクソン人との戦い。メレアガンとの対立。マーリンとの別れ。異父姉モルガンとのあれこれ。そしていつもそばに居てくれた、兄ケイやガウェインとの信頼関係。過酷とも言える経験を経て、ラストシーンを迎えた時、そこに居たのはまぎれもない伝説の名君、アーサー王でした。

わたしは、名君とは「テンプレート」だと思っています。にんげんではなく、民のために存在する枠組み。

にんげんだった青年アーサーが、テンプレートである名君に変わっていくさま。これだけキャッチーな音楽とダンスに彩られたミュージカルの中にあって、主人公であるアーサーが曲の助けをあまり借りることなく、お芝居でど真ん中に立ち、作品の屋台骨としてしっかり存在している。

震えました。

思えば、わたしがあなたと初めて出会ったのは、秋葉原のUDXシアターでした。他の俳優さん目当てに『五右衛門ロックⅢ』を観に行き、金髪のおバカ王子・シャルルに出くわしたのです。

あれから何作かあなたの作品を観ました。劇場で、Blu-rayで。
「ミュージカル界のプリンス」といたるところで呼ばれておいでだとは思うのですが、すでにミュージカルという枠におさまりきらない役者である、と今回の『キングアーサー』を拝見して感じています。

まだ、『キングアーサー』の地方公演が続いています。大千秋楽終了後は、すぐゴールデンウイークに上演される『アルジャーノンに花束を』の稽古に入られるのでしょう。

お忙しいとは思いますが、どうか心身とも健やかでいてください。
欲が深くてすみませんが、あなたの進化するお芝居をまだまだ、観ていたいのです。

はるまふじ 拝


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