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稀代のコメディエンヌ爆誕 ミス・アデレイド役 望海風斗のココがすごい

ミュージカルにおいて、「コメディエンヌ」をできる人は、そんなに多くない。思いつくままにあげると、モリクミさん、ソニンちゃん、モリクミさん、モリクミさん…

あれモリクミさん多いな?

とにかく、人を笑わせるのは難しいのである。ミュージカルだから歌がちゃんと歌えないと笑いも何も無い。つまり「歌が下手」というのは笑いに結びつかない。今回の『ガイズ&ドールズ』で言えば、言葉を発する「間」と喋るテンポ、声のトーン、そして何より場の空気感。ぜんぶ感じ取って臨機応変に対応できなければ笑いは生まれない。

ミュージカル界に素晴らしいコメディエンヌが降臨した。『ガイズ&ドールズ』でミス・アデレイドを演じた望海風斗さんである。

ざっくり望海さん紹介

望海風斗さんは、宝塚歌劇団89期。元雪組トップスター。在団中は卓越した歌の上手さと演技力で人気を博し、2021年春にご卒業。まだ退団から1年ほどの間に、『INTO THE WOODS』『NEXT TO NORMAL』そしてこの『ガイズ&ドールズ』と、多くのミュージカル作品に引く手あまたの実力を持つ女優さんである。

もう最初から面白い

オープニング、ニューヨークの雑踏。
人々が行き交い、サラがチラシを配り、それをスカイが受け取り、3人組の女性に渡す。ネイサンがブラニガン警部補から全力で逃げる。

逃げ惑うネイサンの後を小走りに追いかけ、アデレイドが「ネイサ~ン!」という。もうその第一声だけで面白いのである。
なぜか。声が変に甲高いし、走り抜けるタイミングが絶妙なのだ。

アデレイドから目が離せなくなる瞬間である。

HOTBOXのショー

アデレイドが踊り子であり、ショーに出演することは観客にもわかっている。わかっているのだが、登場の仕方が想像の斜め上を行っていた。

セリから馬と一緒に上がってくるのである。

もうこれだけでむちゃくちゃ面白いのだが、後ろにいるナイスリー・ナイスリー・ジョンソンやベニー、ネイサンの反応がまた面白い。

歌うのは「A Bushel and a Peck」。絶妙な鼻声でかわいらしく歌い上げる望海さんがすごい。前作『NEXT TO NORMAL』のダイアナ役では圧巻の歌声を披露していた望海さんの、鼻声ボイス。音程がぶれることはまったくない。かわいらしい鼻声なだけである。

そう、「かわいらしい」のである。踊り子として「楽しんでいってね♪」と客席にいう姿が愛らしい。一生懸命HOTBOXに来るお客さんを楽しませようとしているのだ。風邪気味だけど。

ネイサンとの絶妙な掛け合いが面白い

ネイサン役の浦井健治さんは、「笑い」という点では劇団新感線で鍛えられているし、福田雄一監督との絡みも多い。コメディに仕立て上げるのは得意な方だろう。

とはいえ、とんでもない早口だった。あんな風にまくし立てる浦井ネイサンにきちんとテンポを合わせられて笑いに昇華できるなんて、誰にでも出来ることでは無い。浦井健治さんと望海風斗さんは、コメディ芝居の相性がとても良くて、観ていて楽しかった。

アドリブ禁止の中…

基本的に、『ガイズ&ドールズ』ではアドリブは禁じられていると、何かの取材時に井上芳雄さんが言っておられた。しかしアデレイドについては少しルールが緩かったのか、毎回違うセリフになっているところがいくつかあった。そこがまた、絶妙なボケになっていて面白いのである。

ロングトーン対決!

ネイサンとアデレイドが別れる別れないの喧嘩をするところで歌われる「Sue Me」。ネイサンとアデレイドのデュエットだが、肺活量お化けの望海風斗さんは、毎回浦井ネイサンとロングトーン対決を繰り広げていた。

面白いけど、この人スゴいな…化け物か?と思わず目を見張ってしまう。

終わりに

歌の上手さもお芝居の実力も、知っていたつもりだった。しかしまだこんな飛び道具を持っていたとは!嬉しい発見だった。望海さんの持つ声の色彩が、これほど豊かであると言うことも。

繊細かつ大胆にアデレイド役にチャレンジし、誰にもできないほど素晴らしいコメディエンヌぶりを魅せてくれた、望海風斗さんに心からの拍手を贈りたい。次の『ドリームガールズ』も楽しみになった。

願わくばまた、いつかコメディエンヌとして舞台に上がってもらいたい。その日を楽しみに待つことにしよう。

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