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三浦春馬さん「僕のいた時間」はなぜ私の心を掴んで離さないのか

ここのところ、映画「天外者」をより楽しむためのnoteが続いたので、今日は三浦春馬さんの好きな作品について、書いておこうと思います。

三浦春馬さんの演じた役の中で、わたし的1番はもうぶっちぎりで「キンキーブーツ」のローラです。もうこれは、私の中では動かしようがありません。ローラとキンキーブーツについては、以下で語っておりますので、そちらを見ていただけたらと思います。

テレビドラマについては、甲乙つけ難いところがありまして順位はつけられないのですが、今日は私の心が完全に三浦春馬さんに奪われるきっかけとなった、「僕のいた時間」のことをここに置いておきます。

「僕のいた時間」は、私の三浦春馬さんへの愛と敬意のスタート地点となった、特別な作品です。観なおすのはつらいので、基本的には記憶を引っ張り出してこれを書いています。

情報に間違いがないかを確認するため、少しWeb検索を頼りました。内容についてうろ覚えのところが多くありますので、情報が不正確な点はご容赦ください。

ラスト♡シンデレラの後

2013年の春ドラマとして放送された「ラスト♡シンデレラ」の佐伯広斗役は、三浦春馬さんの魅力のうちカッコよさを取り出して濃縮したような、リアル王子様の役でした。

まるで漫画の世界から抜け出てきたようなその王子様ぶりが人気を博し、平均視聴率は15.2%。世の中の篠原涼子世代の女性たちを虜にしました。もちろん私もです。

イケメン御曹司役が当たったので、次もこの路線で行くのかと思っていた私の予想を裏切る形で、2014年の冬ドラマとして「僕のいた時間」が放送されました。

この「僕のいた時間」は、三浦春馬さんが自ら企画を持ち込んで実現した、ALSという難病を通して家族や友人・恋人といった周囲に支えられながら、強く生きる主人公の姿を描くヒューマンドラマです。

番宣に見る本作への想い

本作の番宣でいくつかの番組に出演された三浦春馬さんは、一つ一つ言葉を選びながら丁寧に、ALSという病気について知ってほしいこと、病気を通じて強く生きる主人公の姿を見てほしいことを語っていました。

その、静かに真剣に語る姿が、何とも言えない強い印象を私の記憶の片隅に残しているのです。番組の司会の方との温度差も含めて「ああ、この人は俳優という職業に、すごく真剣に向き合っているんだな」と感じたことを覚えています。

第一話オープニングシーンの衝撃

第一話のオープニングシーン。

雨の降る中、傘もささず車椅子に乗った拓人が前へ前へと進みます。何かにぶつかって倒れ、そのまま転倒。集まってくる傘。ずぶ濡れの拓人。聞こえてくる救急車の音・・・

いったいどうしてこんな風になったのか、ここから語られることになります。

拓人の苦悩・メグとの出会い

「僕のいた時間」の主人公・澤田拓人は、病院長である父と同じ医師の道を志したものの大学進学時に挫折。両親の期待は弟である医大生・陸人(野村周平さん)に集中しており、やさぐれています。

好きなフットサルを、先輩(斎藤工さん)と一緒にするのが趣味の一つ。医師への道を進むことに対する挫折感から、家族との距離が少しずつ離れていっていることを感じています。

就職活動が上手くいかないのも、気持ちの上で「これ」と思えるものが見つかっていないせいなのでしょうが、本人はやさぐれてしまっているので、そのことに気づいてません。

家族とのことも、就職のことも、何もかも上手くいかない。そんな思いを抱えたまま就職活動を続ける拓人の前に、一人の女性が現れます。

それが、恵(多部未華子さん)です。

ほどなく二人は結ばれ、恋人となりますが、この二人のデートが何とも微笑ましい。なぜこんなに温かい気持ちになるのだろうと思うほどでした。

「君に届け」で共演してお互いの呼吸が分かっていたおかげだったのでしょうか。改めて多部未華子さんという女優さんの力を感じました。恵といるときの拓人は本当に幸せそうで、お芝居だということをすっかり忘れて、「ずっとこのままだといいね」とテレビの前で呟きそうになりました。

ALS発症・メグとの別れ

フットサルをしている最中に足が攣るなど、徐々にALSの症状が出始める拓人。だんだん左腕に力が入りづらくなるなどの症状を頼りにネットを検索し、ALSという病名にたどり着きます。不安に駆られつつ病院を受診、診断がつくと、病気を隠したまま恵に別れを告げます。

このあたりで、自分の身体の異変を感じたときに感じる不安、インターネットを検索してALSという病名を見つけ、あまりに自覚症状が当てはまることを実感した時の絶望が、三浦春馬さんの細かい表情の演技で観てるこちらに痛いほど伝わってきます。

メグとの別れのシーン。「別れよう」という拓人の辛そうな顔。傷ついた恵の表情。二人のすれ違う気持ちが痛くて、苦しくて、悲しく伝わってきます。

拓人の就職先「宮前家具」の人たちの温かさ

拓人は宮前家具という会社に就職しました。ALS発症後、解雇覚悟で拓人が会社に相談したところ、できなくなることに応じて彼に出来る仕事を与えてくれるようになります。

身体を動かす仕事が難しくなればデスクワーク、それも難しくなったらマウス操作でできる仕事。ついには在宅勤務まで。支える会社の人たちが本当に温かく、拓人の人柄で周囲の温かさが作られているのかもしれない、と感じました(もはや、このあたりの私の感情移入ぶりはお芝居なのを忘れていたような気もします)。

メグとの運命の再会・二人の決意

大学時代の友人(風間俊介さん)は拓人の病気のことを知っています。拓人は友人と一緒に車いすサッカーを観に来て、体験に参加します。

そこで拓人は、介護の仕事をしていて同じALSの患者さんを送ってきた恵と再会します。この瞬間まで、恵は拓人がALSであることを知りませんでした(と記憶しています)。

この時恵は、先輩(斎藤工さん)と付き合っているところでしたが、紆余曲折を経て、拓人と恵は再び一緒にいることを選びます。

その決意のシーン、車いすの拓人が恵に「僕の隣にいてください」と告げます。「はい」と答える恵。手を握る二人を祝福するかのように、雪が降りだします。ロマンチックな、ベタだけど印象に残る良いシーンです。

家族との絆・メグの支え

「拓人の苦悩」のところでも少し触れましたが、ある種、機能不全だった澤田家は、拓人の病気をきっかけに拓人も陸人も、両親に言いたいことが言えるようになり、ようやく家族の絆を取り戻します。

拓人と陸人の母は医師の妻として、子どもを医師にすることに必死で、自分の子自身を見ていなかったことをようやく理解して、向き合うようになります。

父は、これまで子どもとの関わりを母親に任せ過ぎていたことに気づき、拓人の病気をきっかけに医師として、父として自分なりのあるべき姿を目指そうとし始めます。

拓人を中心にして、家族の絆が再生されるさまを見た時、ドラマ冒頭で家族の隅っこに追いやられていた彼の、家族の中での本当の姿を示しているのだろうなと感じました。本来、家族の中心だったのは彼なんだろうなと。拓人は優しく、強く、温かい人として描かれていました。

拓人と恵は、互いの両親に一緒に暮らしたいと説明し、一緒に暮らし始めます。ある日、夜中に目を覚ました拓人は恵にこう告げます。

「怖い、怖いよ」「死にたいわけじゃない。生きるのが怖いんだ」

ただただ、抱きしめる恵。「わたしがいる」「わたしがいるから」。今もって、私はこのシーンを観る勇気がありません。

愛する人がそばにいても、ぬぐえぬ恐怖と不安。拓人の不安はいかほどだったかと思わせる、三浦春馬さんの演技。

だんだん身体の自由が奪われているという設定のため、演技の上では動きに制約がありますから、細かい表情としぐさ、目線の動きで伝えようとしているのが伝わり、観ているこちらの心を揺さぶります。

講演・そしてラストシーン

最終話。拓人に講演の依頼が舞い込みます。

講演で話した内容はあまり覚えていませんが、このシーン、三浦春馬さんはほとんどもう表情が動かなくなっている拓人を見事に演じてます。

支えてくれる周囲への感謝の言葉を訥々と話し、「僕は覚悟を決めました。生きる覚悟です」と語る、無表情だけど晴れやかにも見える解像度の高い演技は圧巻でした。

ラストシーン、砂浜に埋めた瓶を拓人と恵は取り出します。何年か前、互いに向けた書いた手紙を入れて埋めた瓶です。

「拓人へ 私の隣にいてくれてありがとう 恵より」

もうほとんど全身の筋肉が動かなくなっているはずなのに、目を大きく見開く人工呼吸器をつけた拓人。拓人の手紙にはこう書かれていました。

「メグへ 俺の隣にいてくれてありがとう 拓人より」

全く同じことを書いていた二人。恵の笑顔と、表情が動かないはずなのに、わずかにはにかんだような、拓人の表情(そう見えた)。涙があふれて止まらなくなりました。

終わりに

24歳になる直前の三浦春馬さんが臨んだこのヒューマンドラマは、直前の同枠で放送された「リーガル・ハイ2」の平均視聴率約18%に比べて平均視聴率が10%前後と、テレビの世界では「ヒット作」とは言えない作品となりました。

「ラスト♡シンデレラ」と比べても数字の上では微妙でしょう。しかし、三浦春馬さんのチャレンジ精神と心根のまっすぐさ、お芝居というものに対する真摯さや熱意、まるで4K映像のような解像度の高い表現力は、このドラマを通して私の記憶に深く刻まれました。

この後彼の舞台を観に行く気になったのも、このドラマがあったからこそなのです。私のなかで、三浦春馬さんという俳優に対する見方がかなり変わったターニングポイントとなる作品で、今でも大好きです。

心が落ち着いたら、ゆっくり観なおそうと思います。




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