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LSDバッドトリップ体験記

10年くらい前の話です。
時効だから大丈夫でしょう。という、浅はかな考えではあります。僕は違法薬物のお話をしようとしていますから、どうなんでしょうか、いいんでしょうか。

17歳の時です。LSDを手に入れました。仕事やら、やらなくちゃいけないことやら、その他、社会生活を送る上で必要なことに関しては無関心でしたが、ドラッグとなると少年のように好奇心を発してしまう当時の僕はご覧の通り無知でした。
無知は勇者なり。誰がいったのでしょうか。無知は、悪です。
ですがですが、僕はとあるネット記事を読んだことがあったんですね。
「インスピレーションを受けた。LSDの体験は貴重なな体験だった」
スティーブジョブズがそのようなことを言っている記事を読んだのです。僕はLSDについて輝きに満ち溢れた希望的な想いをはせていました。

 さて、LSDを手に入れました。

「もう、余裕っしょ、Appleのボスのインスピレーション降りてくるっしょ、」
だとかなんとかいって完全にたかをくくっていました。
ミッキーの柄が印刷された切手サイズのLSDが染み込んだ紙を1枚ぺろっと食べてしまったんです。
「6分の一でも強いから、ようすみながらね」
貰った先輩から念を押されていたはずなのに。

初めマイタケとかキクラゲを食べた人を僕は尊敬します。彼らは人類の叡智に知恵を刻みました。
「ワンチャン、死ぬけど食えるかも、死ぬかも」
そんなあやふやすぎる初めてみた死の境界線キノコを普通食べれません。今とは違います。スーパーで「しめじ」とパッケージなんかされていません。
彼らは究極にラリりながら、あるいは「うまい」と呟いた次の瞬間白目を剥いて倒れながら泡吹いて即死。自らを実験台として生きるために必死でキノコをむさぼっていたのかもしれません。

僕も必死でした。
自分の本当にやるべき事はなんなのか、社会に出て、仕事の毎日を送るべきなのか、結婚、夢のマイホームなのか、食べれるキノコ探しなのか。
それらは自分から見つけ出さなくてはいけないのです。
あの手この手を使って、必死に自分のやるべき事を探すのです。

17歳の僕は早速ドラックに頼りました。

「答えはきっとこのちっこい紙切れの中にある」

とりあえず効果が出てくるのに3〜40分かかるのは予備知識としてあったのでYouTubeで音楽を聴いて待っていたんです。

マリファナを吸いながら。
これがダメ。今思うと初めてLSDを1枚食べたなら、少し様子を見て大丈夫そうだったらマリファナを吸うのが正しかったんでしょうけど、もう完全にたかをくくってましたので、もう行くとこまで行こうぜって感じですごく吸っちゃいまして、ヒッピーはLSDとマリファナを一緒にやるんだ、なんて聞いてましたから。
僕はヒッピーでもないのにです。
お香を焚いて部屋を暗めにしてずっとミュージックビデオを見ていました。

「インスピレーションんよ」

30分ぐらい経ってもうそろそろかな、て位の時です。僕は確かVic Mensaのミュージックビデオ見てまして、かっこいい曲だな、なんてぶりぶりですから思ってたら、突然、パソコンで見ていたそのミュージックビデオが何の前触れもなくぐにょんぐにょんと波打ち始めたのです。

びっくりしました。
画面が横に、ほんとウェーブするっていうか、にょいんにょいんって。そんなミュージックビデオでは無いのは知っていますから、僕は1人部屋の中で「やべー」とか「すげー」とか言って大興奮で嬉しくなっちゃいました。なんせ、人生の答えが目前に寄ってきていると思い込んでいましたから。
すごいすごい、って夢中で見てました。
効果が現れて30秒位の出来事です。
すると、その画面のウェーブがさらにえげつない感じに波打ち始めました。
この時点で希望に満ち溢れたこころに小さな不安のシミがぽつんと浮かび上がりました。

 「あれ」
うわー、これはマジで異常だ。画面の波が激しくて止まらない。
僕はLSDの世界に完全に持ってかれてしまいました。うわうわ、やばいやばい、と思って画面から目をそらしました。
そして自分の手を見たんですね。あ、自分の手は大丈夫か、とかなんかよく分からない事を思ってちょっとだけ安心したのも束の間で、自分の手の指がうにょうにょ〜っと伸びていきました。
僕は多分この時に気が付きました。

これはやばいやつだ。

僕はうにょうにょ〜とどこまでも伸びていこうとする指をマジでやばいと思って反射的に反対の手でバシッと抑えたんですね。客観視したら様子のおかしい人です。そして、その抑えたほうの指も、うにょうにょ〜と伸び始めて、本当に不安の気持ちでいっぱいになってしまいました。ここまでくるとスティーブ・ジョブズのインスピレーションもクソもへったくれもありません。
パソコンに目を移すと、いつの間にか勝手に自動再生でジャスティン・ビーバーのsorryが流れれていました。この曲のミュージックビデオは、5人位のカラフルな女性ダンサーが常に踊りまくってるんですけど、僕はもうパニックなので藁をも縋るほどの情けなさで
「助けて下さい」と女性ダンサーに言いました。でも、全然助けてくれない。
そりゃそうですよね、ミュージックビデオですもの。そのかわりカラフルでセクシーな女性達は激しく踊りまくっています。
その助けてくれなさに僕は絶望しました。すると、今度はそのダンサーたちが、もっとやばい世界に連れて行こうとしているように見えました。踊りも、映像も、ダンサーたちもまた激しく波打ちだします。
こいつらは敵なんだ、と僕は思いましたが何故か目が画面から離せなくなりました。動きもめちゃくちゃ奇抜に見えてくる。ほんとに怖くなっちゃいまして、何とかパソコンごと閉じてバッとベッドの中に潜り込んだんです。

やばいやばいこれやばいで、頭の中はパニックです。こうなると思うドラックに負けたと同じです。どんな状況になっても冷静さを保たなくてはいけないのがドラックを使用するための黄金律なのですが、僕はまだ高校1年生と若かったので、経験も浅く対応することができなかったんですね。

さて、そこからは目に映るすべてのものがうにょうにょし始めてました。これ以上見たくないと思って目を閉じるのですが、目を閉じた世界もずっとうにょうにょしているのです。
うにょうにょってなんだよ、って思われるかもしれませんが、僕の語彙力ではとても表すことができないほど、複雑かつ、人知を超えた「波」であり「模様」なのです。
逃げ場はありません。
僕は完全にバッドトリップしてしまいました。僕はベッドに座り直して、頭から布団をかぶっておびえてました。この世界から逃げられない、一生出られないんじゃないか、と言う不安が頭を支配していきます。すると、次第に僕のバッドトリップが次のフェーズに移ろうとしだしました。
波の代わりに、モンスターが出現するようになってきました。モンスター。
部屋の床のカーペットからグーンと何本もの海藻のようなものが次々と生えてきました。
よく見たら、その海藻には目がついていました。そして、海の中でゆらゆらと揺れているような感じで部屋の中いっぱいにいるんです。
相当やばい状況です。

ちなみに僕はこのモンスターたちを現実世界にいる存在として、はっきりと見えている状態なので、間近にこれらのモンスターを前にした僕は恐怖のどん底にいました。このモンスターは、危害を加えてくるような様子ではありませんでしたが、初めて見るモンスターに僕は凍りつきました。きっと殺される前ってあんな感じになるんだろうな、と言う感じです。そんな中、僕にはLSDの効果が早く切れてくれることを願うこと以外に何もできませんでした。ですが、そんな思いとは裏腹にLSDの効果はどんどん強くなっていくのでした。ゆらゆらと揺れているモンスターたちをどうすることもできずに身動きが取れない僕のバッドトリップはまた次のフェーズに入っていくのでした。

視界全体がアラベスク模様のような、サイケデリックな映像の世界に入っていったのです。今思い返すとかなり人知を超えた美しい世界だったとは思うのですが、当時の僕は不安に支配されていたので、その世界に入ると狂ってしまいそうでした。その世界はLSDの成分によって、僕の脳をどうにかして見せている世界だとは思うのですが、どう考えたってその見えている景色は今まで1度も見たことがないし、どうやったって僕の想像力では絶対に思い浮かばないほど複雑でカラフルでディティールの細かいサイケデリックな模様が360度の視界を覆っているのです。

あっちの世界とつながってしまった。

右を向いても左を向いてもその世界。目を閉じてもその世界。ぼんやりと見えるなんてもんじゃありませんでした。

例えば僕は今スマホを手に持っていますが、このスマホくらいはっきりとその世界が見えているのです。運転中なら100%死にます。でも、一瞬だけ、恐怖で「だめだ戻れ」と頭をぶるぶるっと振ると、元の世界に戻ってこれたというか、そもそも自分の部屋にいるんですけど、戻れるのです。一瞬です。すぐに視界がそっちの世界に戻っていってしまいます。

ほんとに逃げられなさすぎて怖すぎてやばい、僕はとうとう神様に助けを求めました。
「もうほんとごめんなさい。こんなことをもう二度としません。生活態度を改めます。大麻もやめます。学校ちゃんと行きます」とかなんとか神様が許してくれそうな言葉を思いつく限り言いまくりました。するとなんとです。
目の前に神様が出現しました。
超絶サイケデリックな背景をバックに優しい顔付きをした神様が、手が何本も生えている菩薩様がカーテンからゆっくりと出現したのです。僕はその神々しさ、美しさ、人智を超越したヤバすぎる存在感とリアルに対面してしまった驚きに、僕は口を開けてみることしかできませんでした。あれは本当にやばかったと今でも思います。あれは幻ではなくて、本物だと言う感じがありました。はい。
30秒位で、神様は元の世界と戻ってしまいました。カーテンの中に吸い込まれていく神様。神様は僕に何を伝えたかったのか分かりませんでした。でも私は存在する、という強いメッセージはビンビンと受け取ることができました。まじでリトルグリーンメンの「かーみーさーまー」みたいな感じです。初めての神秘体験でした。また会えるなら会ってみたいです。でも高校1年生のくそがきの当時の僕はそれどころではありませんでした。
神様がぬーーん、と現れたかと思ったらスゥー、と消えてしまって、なんか見えすぎてしまった感にさらにバトルトリップしてしまったんです。
とにかく、三半規管が狂って気持ちが悪い。
確かこの時点で夜中の3時を回っていたと思います。それなのに僕はどうしようもなく、先輩に助けを求めるため電話をして事情を話しました。

「まじほんとやばいです。助けてください。マジで怖いです」

当然のことながら、夜中の3時ですから、先輩は眠いし、むにゃむにゃしながら「水飲んで寝ろ」とかなんとかあやふやな事しか言わない。
で、電話を切ろうとするんですけど、僕は「ちょっと待ってください!!ほんと怖いんです。助けてください!!」みたいなことを言うんですけど、先輩さすがに怒りまして、やむなく電話を切りました。今考えると失礼極まりないですよね。勝手にバッドトリップして夜中に電話かけてきて助けてくださいなんて。
その後もどうすることもできずに、外に出てみては気分転換を試したものの、真夜中の道端にわかめのモンスターがたくさん生えているし、ばあちゃんは緑色になっているし、おしっこは虹色ですし、そんな状態が8時間ほど続きました。僕は4〜5回ほど吐きました。

このような体験は、今思うととても貴重な体験だったと思います。なぜなら、あの時見た異様な景色が忘れられないからです。
僕は絵を描く時にあのバッドトリップで見た景色に少しでも近づくように描いています。

当時は、ただの最悪の体験だと思っていました。ですが、月日を超えてあの体験がモラルとは違う世界で僕に絵を描く原動力になっていることに気がついたのです。
少なからず、インスピレーションを得られたんだと思います。

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