緊急自宅出産の記録【スマホ版】
はじめまして!
主にInstagramで父親目線の育児漫画を日々投稿しているハルキ(@haruki_komugi)と申します。
この漫画は広く皆さんに知ってもらいたい内容のため、Kindleの電子書籍で無料公開していますが、こちらのnoteでも全編公開しちゃいます。
出産にあたってこんなこともあるのか、と頭の片隅に置いてもらえるとうれしいです。
緊急自宅出産の記録 本編
はじめに
はじめに言っておきます。
これは誰にでも起こりうる話です。
うちの子は自宅で生まれました。
計画的な自宅出産ではなく、
緊急事態で結果的にそうなりました。
当然、経験豊富な助産師さんが
ついていたわけではありません。
私と妻、二人だけでした。
(厳密に言うと、あと長女)
いま思い出しても恐ろしい…。
妊娠中の方、そのご家族、
将来子供を宿すかもしれない方、
みんなに知っておいてもらいたい。
これはテレビの中の話ではなく、
ごく普通の夫婦が体験した話です。
そう、繰り返しますが
誰にでも起こりうることなんです。
この漫画は、夫婦それぞれの目線でお届けします。
漫画を描いているのは夫の私ですが、
当時の状況は妻にも詳しくヒアリングしました。
少し長くなるかもしれませんが、
どうぞおつき合いください。
緊急自宅出産の記録
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***再びナレーターは夫へ***
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***閑話休題、その時長女は?***
***夫目線に戻ります***
***最後は妻が語ります***
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完
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後日談 はてしなおく遠いこの子の「戸籍」
退院後に待っていた役所の壁
病院を無事退院して、妻と赤ちゃんが我が家にやってきたその翌日、私は仕事を休んで、役所へ出生届を提出しに行きました。
この出生届って、だいたいどこの自治体でも同じはずですが、用紙の左半分が出生届、右半分が出生証明書という形式になっています。
出生証明書の部分は、お産をした病院に記入捺印してもらう必要があります。
だが、しかしです。
漫画に描いた通り、今回はやむを得ず緊急自宅出産となってしまったため、病院としての出産証明はできないと言われたわけです。
では、どうするかというと
病院からもらった妻の診断書には、「自然経腟分娩の疑い、会陰裂傷、胎盤遺残」という物々しい言葉とともに、「当院に救急搬送された状況と、診察時に会陰裂傷と胎盤遺残がみられたことから、自宅で自然経腟分娩となったことが推定されます」と記載されていました。
これを出生届と合わせて提出すれば、役所には受理してもらえるはず、という話でした。
こんな感じで、看護師さんがあっけらかんと言っていたので、私もまぁそんなものかなと割と軽く考えていました。
役所の窓口では、きちんと事情を説明した上で、一連の書類(出生届、診断書、母子手帳)を提出しました。
対応してくれた職員さんは、「書類をお預かりします」と奥へ持っていき、それからは赤ちゃん用絵本を一冊プレゼントするので選んでください、とかいたって普通の対応をしてくれました。それで私も「なんだ、やっぱり大丈夫だったか」と安心しかけたのですが…
あわててもう一度説明しました。
病院からは、自宅出産は時々あることで、診断書を合わせて提出すれば、受理されるはずと言われたことを。
焦る私に、職員さんはコピーした書類を取り出して順を追って説明をしてくれました。
見せられたのは『戸籍時報』695号(平成25年4月発行)の中の、「実務相談 出生証明書の添付がない出生届の取扱いについて」(東京法務局民事行政部戸籍課 塩屋ひと美)という文章でした。
次の部分にマーカーが引かれていました。
「家族や同居者の作成によるもの(出産証明書)は、出生事実の担保力が弱いため管轄法務局長の指示を求めることになると考えますが、救急隊員が出産に立ち会って当該隊員が出生証明書を作成した場合は、その任務の公共性から医師、助産師に準じるものと考えます」
「出産に立ち会った救急隊員(自宅又は救急車内のいずれで出産しても)が出産証明書を作成し、到着した病院の医師によって出産後の処置がされ、その旨の証明書が添付されていて他に出生の事実について疑義が生じない事案については、東京法務局においては市区町村限りで受理して差し支えない取扱いとしています」
難しく書かれていますが、つまり、出産証明の作成者は、医師、助産師、救急隊員でなければ有効性がないということです。
我が家の場合、救急車を呼びましたが、救急隊員が到着した時にはすでに生まれため、これに当たらないというわけです。へその緒は切ってもらったんですけどね。
では、どうすればいいのか。同じ文献に次のように書かれていました。というか、役所の人もそれを読みながら説明しているという感じで、やはり相当珍しい事案のようです。
「出生証明書の添付がなければ、これに代わる資料から確認する必要があります。
資料としては、以下の(1)(2)(3)です。
(1)出産までの詳細な経過等を記載した母からの申述書(中略)
(2)出産した事実の裏付けのため、救急搬送された場合は搬送証明書、へその緒・胎盤等の確認(処分した場合は処分方法)した旨の救急隊員又は出産後の手当をした医師の証明書等
(3)母が妊娠していた事実の裏付けとして、母子手帳を母が取得していれば母子手帳の写しを添付してもらいます」
うーむ、なるほど。要するに、医師の証明がない人は、あれこれ補足書類を提出せよということですね。
これに当てはめると、我が家の場合、「出産後の手当をした医師の証明書」と「母子手帳」は提出したので、あと必要なのは「母からの申述書」と「搬送証明書」だということになります。
ふぅ、こりゃ大変そうだぞ。
役所の職員さんは「こちらでももう少し事例を調べますので、またご連絡します。出生届はひとまずお預かりしておきます」ということでした。
何ともすっきりしないまま帰宅した私でした。家には、生まれたての赤子がふにゃふにゃと寝ていました。この子は確かにここにいるってのに…!
出生届が受理されていないので、当然住民票ももらえません。そもそもまだこの子には戸籍がないのです!
住民票がないと、手続き関係が何も進みません。こりゃ困った…。
申述書ってなんだ?
翌日、役所から電話がかかってきました。渡したいものがあるので来てくださいとのこと。
急いでいくと「申述書のひな型がありましたので、こちらにご記入ください」と書類を渡されました。
ただし、それは見るからに簡単な用紙で、別紙としてより詳しい申述書をつけてくださいと言われました。さらに、「申述書は母からのものと、父からのもの、二つご用意ください」とのこと。
え、母の申述書だけじゃだめなんですか?ほとんど書くこと一緒ですけど。
そう言いましたが、役所としては、念には念を入れて両方からの申述書を提出してほしいというのです。それなら仕方がありません。
日中は仕事があるので、深夜にカタカタと二人分の申述書を作成しました(産後の妻にそこまでさせられません)。作成にあたっては十分に妻からのヒアリングを行いました。妻の分はあとで本人にチェックしてもらい、手直しを入れました。
そもそも申述書って何よ?ですよね。こんな感じです。
[母の申述書]
私は、平成〇年2月〇日午前1時15分に、自宅でハル(子供の名前)を出産しました。その状況は以下のとおりです。
出産前日の2月〇日は出産予定日を6日ほど過ぎていましたが、日中に病院で診察を受けたところ数日中に生まれるかどうか確率は半々だと言われました。〇日の夜になっても出産の兆候がなかったため、夫には先に就寝してもらいました。しかし同日21時頃から陣痛らしき痛みが出てきました。ただ、間隔も不規則で、2日前にも同程度の痛みはあったため、少し様子を見ることにしました。痛みが次第に強くなってきたため、寝ている夫を起こしました。
私は通院していた病院に電話をして、陣痛が始まったためこれから病院に向かうことを伝えました。夫とともに準備を進めていたところ、一気に陣痛が強まり、動けなくなりました。痛みがひいたら準備を終えてタクシーを呼ぼうと考えていましたが、破水が起き、下半身に圧迫感を感じたため、少し息んでみたところ、ハルの頭が出てきました。さらに全身が出てきてしまいました。
私はどうしたらいいのか分からず、夫を呼びました。その間に夫は病院に電話をし、さらに救急車を呼んでくれていたようです。やってきた夫はタオルでハルをくるみ、その状態で救急車の到着を待ちました。生まれた時間は午前1時15分でした。ハルはすぐに産声を上げました。
救急車が到着し、救急隊員がへその緒を切ってくれました。私とハルは救急車で病院に搬送されました。夫も救急車に同乗しました。
ご覧の通り、本当に事細かに一部始終を描写しました。
救急搬送証明を手に入れろ!
さて、申述書の他にも用意しなくてはいけないものがあります。
それが救急搬送されたことを示す搬送証明書です。
これは妻の搬送証明と赤ちゃんの搬送証明を、それぞれ用意しないといけないようです。
搬送証明なんてどこでもらえるんだろ?と思いつつ、ひとまず搬送してくれた消防署の分署へ電話をしてみました。
実は、妻と子供を病院に救急搬送してくれた後、帰り際に救急隊の方が「万が一ご自宅に我々の道具が残っていた時は、お手数ですがこちらにご連絡ください」と言って、連絡先を渡してくれたのです。
ハルキ:あの、搬送証明というものをいただきたいのですが…。
分署職員:は?
ハルキ:(あれ二つ返事じゃないな…)これこれ、こういうわけで…。
分署職員:そういうことなら本署の方に電話をしてください。
というわけで電話番号を伝えられた本署の方にかけ直しました。
ハルキ:あの、搬送証明というものをいただきたいのですが…。
本署職員:は?
ハルキ:(あれ、さっきの人?)これこれ、こういうわけで…。
本署職員:それなら、対応した消防署の方に連絡してください。
と、先ほど電話をした分署の連絡先を伝えてきました。
ハルキ:
いえ、もうそちらには電話をしました。そこでこちら(本署)の方に、と言われたんです!
本署職員:
(しばらく電話口で待たされた後)わかりました。用意するように伝えるので、また後で分署の方にご連絡ください。
証明書を出すのって、そんなに大変なんでしょうか。
しかしこちらも搬送証明をもらわないことには、我が子が生まれたことが認めてもらえないので必死です。再度、搬送してくれた消防局分署の方に電話をかけました。本署から連絡が入っていたようで、今度は事情を分かっている感じの人が電話に出ました。
分署職員: 奥様とお子さんの二人分の搬送証明をご用意しますが、当日担当した者が現在研修で留守にしているので、来週にならないと証明書が発行できません。
え?そういうものなの?
なかなか道のりが遠くて嫌になりますが、待つしかありません。
週が明けた月曜日、仕事を早退して消防署まで足を運びました。消防署は夕方までしか事務対応をしていないのです。
必要事項を記入すると、ものの5分で搬送証明を発行してもらうことができました。ちなみに一通200円でした。
とにもかくにも、これで必要書類は揃ったことになります。
いざ、再び役所へ!
最後の関門、法務局からの電話
窓口で事情を話し(対応する人が違うと、話を一からしなくてはいけません…)、申述書と救急搬送証明を提出しました。
窓口職員: これからこちらで、いただいた資料をもとに法務局に聞き合わせをします。法務局から許可がおりた時点で、出生届が受理されることになります。どれぐらい時間がかかるかは法務局次第なので、こちらからは何とも言えません。場合によっては法務局から電話が来たり、出頭を要請されることもあります。
はぁ、まだ先は長いのか…。
それから数日、宙ぶらりんな状態で過ごしました。仕事中もいつ電話がかかってきてもいいように、携帯電話を常に視界が入る場所に置いておきました。
搬送証明を提出してから3日後でした。見知らぬ番号から電話がかかってきました。
ついに電話がきました!
身構えて電話に出ましたが、予想外にとても気さくな男性の声で「すいません。出生届を受理するために出産前後のお話をくわしく聞かせていただけますか」というので話し始めてみると、かなり細かいところまで確認してくるので驚きました。
出産前のことから色々聞かれ、
そもそもご主人は、いつ頃妊娠を知ったのですか。
どのような形で知ったのですか。
奥様は病院に通っていたのですか。
予定日はいつでしたか。
そして出産当日の話でも(申述書をさらに掘り下げる感じで)
ご主人は寝ていたのですか。奥様に起こされましたか。
上のお子さんはどうしていたのですか。
出生時間がはっきり分かっているのはどうしてですか。
救急車を呼んだのは誰ですか。
その時はどんな状況でしたか。
救急車は何台来ましたか。ご主人も一緒に乗られたのですか。
病院についてからはどうなったのですか。
こうして一通り流れを確認した後は、
お子様の名前をつけたのは、どなたですか。
その名前にどんな気持ちを込められていたのですか。
そんなことも聞かれました。
最後に「本当にお子様も奥様もご無事で何よりです。念のため奥様にもお話をうかがいたいのですが、ご自宅に電話をしてもよろしいでしょうか」そう聞かれたので、もちろん了解しました。
後で聞いたところ、その後すぐに自宅に電話が入ったようで、やはり同じようにかなり詳しく根掘り葉掘り聞かれたそうです。法務局の人も大変ですね…。
さて、これでやるべきこと、やれることはすべてやったことになります。あとは法務局がしかるべき手続きをしてくれるのを待つしかありません。
ついに、ついに!
それから一日、また一日、と日が過ぎました。まだかまだかと待ちわびていると長いものです。
法務局の人から電話があった日から5日後、ついに役所から連絡がありました。
役所職員:お子様の出生届が受理されました。いつでも住民票を発行できます。
仕事を終えて、役所へ急いで向かい、手続きをすると、とうとう住民票が取得できました!
いやー、長かった…。
それからは一気にたまっていた手続き関係を済ませることができました。これでこの子も、日本という国の一員として認めてもらえたんだなと思うと、感慨深いものがありました。
普通に病院で産んでいれば、当たり前のように手に入る戸籍や住民票。
それが医療関係者の立ち合いがない状態で出産した時、これほどまでに手間と時間がかかるものなんですね。
出産から数えると、3週間近くかかったことになります。その間、何度仕事を休み、早退したことか。
日本はとてもシステマチックに制度が整っているように見えますが、イレギュラーなことを行ってしまうと、途端に膨大な手続きに襲われるということを知りました。
もちろん、人間ひとり、戸籍を認めるかどうかという超重要な話なので、無理もないんですけどね。
まぁ終わりよければすべて良し、ということにしましょうか。
この話も誰かの参考になれば幸いです。
おわりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
まったくの想定外で、自宅出産となってしまった我が家。お医者さんもいない、助産師さんもいない、そんな中での出産。後から知れば知るほど、本当に危険なことだったなと怖くなります。
へその緒がからまっていたら?
息をしていなかったら?
大量出血していたら?
墜落していたら?
いま、元気に走り回っている娘の姿を眺め、本当に奇跡だなぁと感無量になります。そして、この一件でわかったことがあります。
深夜に車を飛ばして来てくれた、お義父さん、お義母さん。
電話してから数分で駆けつけて、妻と赤ちゃんを助けてくれた救急隊員のみなさん。
迅速に対応してくれた病院の先生、看護師さん。
普段の暮らしではなかなか感じることがありませんでしたが、いざとなるとこれだけの人たちが全力で私たちを助けようとしてくれました。毎日私がぐーぐー寝てる時にも、常に万全の構えで待機してくれている人がいる。それが仕事だから当たり前、なんて到底思えません。
そう、私たちは本当にたくさんの人に支えられながら日々を生きているんです。
たくさんの人に助けられて、今ここにある幼い命。
これからは私たち夫婦が全力で守り育てていきます。
この子が独り立ちできるその日まで。
SPECIAL THANKS!
宝田くま子 様
Keiko.T 様
永山紫穂子 様
まゆP 様
沙織 様
areezer 様
ボクかっぱさん 様
結佳ママ 様
梨木 様
yamao_ukuu 様
晶月 様
saor711 様
S.Rieko 様
内村夢乃 様
しあわせプランナー雅寿 様
オオタサトミ 様
※ご支援日時順
インスタグラムで連載していた内容を、より広く届けたく、電子書籍化を計画するにあたり、諸費用をクラウドファンディングで募りました。その際、上記の方々から特に手厚いご支援をいただきました。ここに記して感謝の意を表します。
ハルキ
制作者紹介
著者・発行者 ハルキ
二人の娘と妻と暮らすアラフォーサラリーマン。
Instagramで、父親目線の育児漫画を日々投稿(アカウント名は@haruki_komugi)。
大騒ぎの自宅出産で生まれた子供の、いまの姿はこちらで。
https://www.instagram.com/haruki_komugi
監修・コラム執筆 賀茂綾乃
助産師免許取得後、大学病院の産科に約7年間勤務。ハイリスクを抱える妊婦の外来受診、入院中のケア、分娩介助、出生時の新生児蘇生とその後のケア、産後ケアなどを行う。病院では救急分野の院内認定看護師として活躍。
産科救急の資格ALSOプロバイダー、新生児蘇生のNCPR取得。
出産を経て大学病院を退職し、現在は育児と両立しながら、認可保育園で看護師として勤務。不妊治療クリニックでの経験もあり。
サポートしてもらえると、応援の気持ちを直接もらったような気がして、本気でうれしいです。めっちゃテンションがあがります! イラスト制作にかかる費用にあてさせていただきます。