名もなき僥倖 #芯家族
土曜。快晴。
午後は寝室で寝転びながら読書と決め込んだ。
だが、文字が見えない。
視力の低下もさることながら、午後の寝室は読書をするにはいくぶん暗い。
ベランダを見ると、陽が射している。
暖かそうだ。何より、とびきり明るい。
(そうだ。あそこで読もう。)
枕を置き、内田樹ばかりを7冊。
仰向けになって読んでみる。
わずか2畳ほどのスペースだが、初夏の陽射しが差し込む南向きのそこは、想像以上に快適だった。
35cmくらい離してみれば、寝室ではぼんやりとしていた文字もくっきりと目に入ってくる。この選択は成功だ。
抜けるような青空が見える。
鳶が1羽、はるか高くを飛んでいると思ったら、もう1羽がやってきて、くるくると旋回し始めた。視線を左に移すと、白い月が半分だけ姿を見せている。
視線を真上に戻すと、頭上には洗濯物がひらひらしている。
バスタオルが本を持つ手に干渉するが、横着なのでそのままで読書を続ける。
こんな時間が2時間もあれば、1週間分の疲れは吹き飛ぶだろうな、と他人事のように思う。
1時間以上読んだ頃だろうか、階段を上ってくる足音が聞こえる。
数秒後、「おーい、おーい、どこー?」と、私を探す声も。
妻はベランダに私を見つけると、たい焼きの皿を差し出した。
午後3時。なるほど。おやつの時間だ。
このたい焼きは、だいたいいつも冷蔵庫に入っている。
レンジで30秒温めれば食べられるが、私はきまって解凍後はトースターで3分強過熱してから食べる。
果たして、それはトースター処理済みだった。
表面はカリカリで、中はたっぷりのあんこが詰まっている。
たい焼きを食べながら、内田樹を読み続ける。
内田は、世間知らずの私に「世間」を教えてくれる、貴重な存在だ。
彼の文章は、”1,500文字に1回は、深い気づきが得られるレベル”だ。体感だが。
私は内田の「視点」と「言い方」を、とても気に入っている。
「たい焼き」から10分後、再び妻がやってきた。
左手に犬を、右手にマットレスを抱えている。
ベランダはプラスチック製の敷物で覆われているが、寝転んで本を読む分には差し支えない。ただ、腹ばいになるには少し痛い。ゆったりと読書できない。
私はありがたくマットレスを敷いて、腹ばいになった。快適だ。
長時間の読書には、仰向けと腹ばいの双方が必要だということを、きっと妻は知っていたんだろう。
腹から下を、初夏の陽射しが照らす。
青空のかなたに、鳶と月が見える。
バスタオルが風に揺られ、読書の邪魔をする。
時折、周りの家々から生活音が漏れ聞こえる。
たい焼きの皿を傍らに置き、次の内田樹に手を伸ばす。
そういえば、昨日帰宅した際に、銀行からの封書が届いていたことを思いだした。
”住宅ローンの残額は、1千とんで40万円です。”
なるほど。まだそんなに残ってたか。
月額6万5千円の支払いを、あと何年続ければいいんだろう?
4年後、私は無職になる予定なんだが。
まあいいさ。
まっとうに生きていれば、きっと何とかなるだろう。
内田は「僥倖」という言葉を好んで使う。
彼に倣えば、こんな1日は、まぎれもなく僥倖だ。
「すべて」がそろったこんな午後は、そうそうない。
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思いつきと勢いだけで書いている私ですが、 あなたが読んでくれて、とっても嬉しいです!