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【日本酒マリアージュ通信】うま味に抗えない日本人(2020年1月レッスン)

ぱったり日本酒マリアージュ通信の更新が止まっておりまして申し訳ございません。熱しやすく冷めやすいタイプなので、気持ちが燃えているうちに記事を書かないと執筆にとりかかれないという自分の特性が分かってきました。

ということで、今月のレッスン内容について、気持ちが燃えているうちに早速書いてみようと思います。

1月のテーマは「"うま味"を極める」

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久しぶりの極めるシリーズ。
今回は"うま味"を極めます。

日本酒の味を語る上で、うま味は外せないワードです。
日本酒の味を説明する際に"うま味"というワードが禁じられたら、なかなかうまく説明できないですよね。
そう、基本の五味のうち、日本酒にとって"うま味"は特別な存在なのです。

それでは、そもそもの「うま味って何??」の講義から始めましょう。

"うま味"って何?

「旨味」とは、5つの基本味(甘味、苦味、酸味、塩味、うま味)のうちの1つであり、料理に美味しさを生む大切な要素のひとつです。

代表的な旨味成分は、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸の3種類。
グルタミン酸はアミノ酸の一種で、イノシン酸とグアニル酸は核酸の一種です。

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・グルタミン酸は、昆布はじめ野菜など植物性の食材に多く含まれるうま味成分。
・イノシン酸は、鰹節はじめ動物性の食材に多く含まれるうま味成分。
・グアニル酸は、干し椎茸に多く含まれるうま味成分。

グルタミン酸とイノシン酸は様々な食材に含まれていますが、グアニル酸に関しては、ほぼ干し椎茸にしか含まれていないので、ちょっと変わったうま味成分です。
しかも、生の椎茸には含まれておらず、乾燥させることで生成されるのです。
乾燥ポルチーニ茸やドライトマトにも微量含まれているそうですが、干し椎茸がダントツに多いらしい。不思議なやつです。

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うま味を美味しいと感じるのは、原始的には、人間にとって必須の栄養素であるたんぱく質を感知するための生理的欲求によるものでもあると言われています。

私たちは、生命を維持するために毎日たんぱく質を摂取する必要がありますが、たんぱく質自体には味が無く、美味しいものではありません。しかし、たんぱく質が分解された遊離アミノ酸はうま味があり、美味しく感じます
うま味は、人間がたんぱく質を摂取するための動機付けになる、言わばたんぱく質のシグナルなのですね。

うま味発見の歴史

うま味は、一番最近発見された基本味であり、19世紀に日本で発見されました。
つまり、それまでは基本味は4味だったのですね。

うま味を発見したのは、東京帝国大学の池田菊苗博士。
京都出身の博士は、湯豆腐が大好き。
ふと、「湯豆腐って昆布を入れるだけでなんでこんなに美味しいのだろう?」と疑問に思い、研究を始めたそうです。

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そして、昆布からうま味成分であるグルタミン酸を発見。
1908年にはグルタミン酸ナトリウムの結晶化にも成功し、「うま味」というものが基本味の一つとして認められました。
現在では、「UMAMI」として、世界共通語として認識されており、これは本当に偉大な発見です。

昔から、人間は"うま味"を"うま味"とは認識せずとも、うま味の多い食材から出汁を得ていました。しかし、これが味の一つであると分かったのは、ほんの100年ちょっと前と最近のことなのですね。

うま味の相乗効果

レッスンでは、ちょっとした「うま味の相乗効果体験」をしていただきました。

昆布出汁と鰹出汁を、まずはそれぞれ単体でお味見いただき、そのあとに2つを混ぜてお味見いただくと、「おお…!」と、どよめきが起こります。

これが、うま味の相乗効果。うま味は、単独で味わうよりも、複数種類を掛け合わせることで数倍美味しく感じます。特に、グルタミン酸とイノシン酸が合わさると、うま味を7〜8倍ほど強く感じると言われています。
つまり、昆布出汁と鰹出汁は非常に相性が良いのですね。

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科学的には、グルタミン酸が舌の上のうま味受容体にくっつき、そこにイノシン酸が更にしっかりとくっつき、離れにくくなるためなのだそうです。

日本の出汁の基本である"合わせ出汁"は、昆布と鰹節のうま味の相乗効果がうまく利用されているのですね。(もちろん、うま味の存在やうま味の相乗効果が発見される前から合わせ出汁が利用されてきたので、日本人の経験的な知恵恐るべしです…!)
なお、昆布と鰹節に限らず、植物性の食材と動物性の食材を両方使うことが、うま味の相乗効果を発揮させるポイントになります。

ちなみに、グルタミン酸×グアニル酸でも相乗効果はありますが、やはりグルタミン酸×イノシン酸が最強だと思います。

コクの正体

今回は、うま味に付随して、"コク"についても掘り下げてみました。

「この料理はコクとうま味がある」など、コクとうま味はセットで使われることの多い言葉かと思います。それでは、コクって一体なんなのでしょうか??
広辞苑によると…

こく【コク】
①(本来、中国で穀物の熟したことをあらわしたところから)酒などの深みのある濃い味わい。「―がある」
②むごいこと。ひどいこと。「―な練習」

なんと、「残酷」などに使われる「酷」と同じ漢字ではありませんか!
そして、酒へんに告で「酷」、しかも"酒などの深みのある濃い味わい"ということで、酒とコクは切っても切り離せない関係のようです。

語源についての考察は今回は割愛しますが、とりあえず、"コク"は"うま味"と違い、明確な成分であったり定義のある言葉ではないことがわかります。そのため、コクを一言で説明することは難しいものの、いくつか説明することが可能です。

なお、コクについては伏木亨先生の「コクと旨味の秘密」を参考にしております。(これ、名著です!!)

この本を読んで、私がコクについて抱いた印象をいくつかご紹介いたします。

①一つの特定の味と認識できないものをコクと感じる
コクとは、「複雑である」という要素が欠かせないのではないかと思います。
例えば、白砂糖を舐めると「甘い!」と思いますが、黒糖を舐めると、コクのある甘味を感じますよね。精製された砂糖はショ糖が主成分ですが、黒糖はショ糖以外にもミネラルやビタミンが多く含まれており、一つの味と捉えられないことに対してコクを感じているのです。

②油は無味なのに、コクを感じる
これ、結構面白い話だと思います。人間は、油に対して味を感じることができないのですが、油にはコクを感じるのです。これは、油が味蕾を刺激することによる、触覚の一種なのではないかとのことです。
例えば、普通の「かけうどん」に「天かす」を入れるだけで、グッとコクが出て美味しくなりますよね。油はコクを生むし、うま味を増強するのです。

③ペプチドは無味なのに、コクを感じる
油と同じく、ペプチドに対しても人間は味を感じることができません。
(ペプチドとは、アミノ酸が数個連なった化合物です。)
アミノ酸にはうま味など様々な味が感じられますが、ペプチドには味がありません。しかし、料理や飲み物などにペプチドが多く含まれていると、コクに感じるのです。また、塩味や酸味をまろやかにしてくれる効果もあるそうな。
なんだか幽霊のような…、ペプチドって不思議な存在ですね。

④コクは舌の奥で感じる
コクは、うま味のような基本味ではなく、私たちにはコクを感じる味受容体があるわけではありません。コクは舌先で美味しく感じるのではなく、舌の奥の方で感じるのだそうです。

その他、とろみにもコクを感じるなど…。
コクについて掘り下げるとキリがありません。

なお、コクは美味しい要素の一つですが、強すぎるとくどいものです。
そこで、今回のレッスンでは「強すぎるコクをリセットする組み合わせ」も盛り込んでおります。こちらに関しては後ほど。

アミノ酸はうま味だけではない!?

先ほどから、アミノ酸=うま味のような説明をしていますが、実はアミノ酸はうま味だけではないのです。
アミノ酸は20種類あり、それぞれ様々な味を持っています。

こちらに関しては、味の素社のHPに良い資料がありました。

グルタミン酸とアスパラギン酸はうま味と酸味を呈するアミノ酸ですが、グリシンやアラニンは甘味を呈し、トリプトファンはフェニルアラニンは苦味を呈します。

アミノ酸は、大きく「甘味アミノ酸」「苦味アミノ酸」「酸味アミノ酸」に大別できるそうで、アミノ酸が多いからといって、うま味のみが強いとは限らないのですね。

それでは、日本酒においては、うま味はどのような存在なのでしょうか?

日本酒におけるうま味とは??

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