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小悪魔キャンディー

 カラオケを出てもまだ外は明るかった。私たちが雑談しながら二人についていくと、
「この後どっか行く?」
和希が振り返って聞いた。
「まだ帰りたくないなー。」
私が甘えた声で言うと、
「じゃあ、スタバでも行くか。」
と和希が笑った。梨奈は一瞬嬉しそうな表情をしたが、
「うちら今日電車で来たから歩きなんだけど。」
と、口をとがらせて不服そうに言った。翔は私を横目でちらりと見た後、
「俺ら今日自転車だから、後ろ乗せてやるよ。」
と、自分の自転車の荷台を指しながらかっこつけて言った。
「えー、私二人乗りってしたことないから、ちょっと怖いな。」
私が不安そうに言うと、
「大丈夫、安全運転するから。どっちがどっちの後ろに乗るか決めてくれる?」
と和希が爽やかに言った。梨奈を見ると、熱く強い視線が私に訴えかけてきた。
『美希分かってるよね、お願い、アシストして。』
私は一瞬考えてから笑顔を作ると、和希に近づいて言った。
「私、和くんの後ろが良いなぁ。」
「じゃあ、梨奈が翔の後ろでいい?」
和希は仕切るように聞いたが、
「・・・え、・・・私も、和希の後ろが良い。」
と、梨奈が小さい声で言った。
「そっか、どうしよっか・・・?」
和希は気まずそうに私と梨奈の様子をうかがい、翔はふてくされたように自転車のベルを一度鳴らした。
「和希が決めていいよ。」
梨奈が言った。私の方は一度も見なかった。
「和くんの後ろじゃないと、私怖いな・・・。」
私は梨奈に聞こえないように小さな声で囁いた。
「じゃあ、美希が俺の後ろで梨奈は翔の後ろで。」
翔は少し私を見てから言った。私は笑みがこぼれそうになるのを必死でこらえて頷いた。
「・・・分かった。」
梨奈は渋々頷いて、私に恨みがましい視線を向けた後、翔の荷台に跨った。翔が少し残念そうな表情で自転車を漕ぎ出したのを見て、
「俺たちも行こうか。」
と和希が笑った。私は頷いて、荷台に横向きに座ると、和希のおなかに遠慮がちに腕を回した。
「もっとちゃんと掴んで良いよ。怖いでしょ?」
和希はそう言うと、私の手を少し握ってから自転車のハンドルを掴んだ。
「本当はさ、今日、翔と美希をくっつけるアシストをすることになってたんだけど、・・・駄目だな、どうも。」
和希は照れるように言ってペダルを漕ぎ始めた。
「何それ聞いてない。」
私が笑うと、
「翔から頼まれてたんだけど、美希のこと見てたら、あいつの後ろに乗せるのは嫌だなって思い始めちゃって・・・。」
和希は苦笑いして言った。
「私も。本当は梨奈ちゃんに和くんとの仲を取り持ってほしいって頼まれてたんだけど。」
私がぺろりと舌を出して言うと、
「嘘、梨奈って俺に気があったの?全然気付いてなかった。」
と、和希は罰が悪そうに言った。
「後ろに乗せる人、私より梨奈ちゃんの方が良かった?」
私がいたずらっぽく聞くと、
「いや、美希を選んだのは俺じゃん?」
と、和希は得意気に笑った。私はつられて笑うと、
「私は和くんの後ろじゃないと嫌だなーって思ってた。」
と言って、ペダルを漕ぐ和希に甘えるようにもたれかかった。前を走っていた翔の自転車に追いつくと、盛り上がる私たちとは反対に、梨奈と翔は一言も話していない様子だった。横に並ぶと梨奈が私をちらりと見て目を逸らした。
「和くん、スタバ行ったら何飲む?」
私はわざと大きな声で聞いた。
「うーん、今だったらストロベリーフラペチーノかな。」
和希が少し私の方を振り返って答えた。
「私もおんなじのがいいけど、一人で一杯飲みきれない気がするー。」
私が甘えた声を出すと、
「分かった、じゃあ俺の半分飲む?」
と和希が聞いた。
「えー、いいのー?嬉しいー。」
私は喜びの声をあげた。和希に抱きつきながら横目で梨奈を見ると、口をぎゅっと結んで、何を考えているのかよく分からない表情をしていた。
『勘違いしないでよね?お姫様は私だけで十分。』
私は心の中で呟いた。

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