【創作BL】デスゲームでファンサする彼
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1700字ほど 一次創作BLのss.028 おれ×彼 異様な話です。タイトルオチ。踊り続けるデスゲームで。
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デスゲームというのが、この世にあるとして、それを観客として眺めるだけなら、おそらく、気は楽だ。少なくとも、参加する側よりも。ずっと。きっと。
よくある、升目に区切られたというより細かく敷き詰められたタッチ範囲の画面を、音に合わせてリズム良く叩くゲームであった。
しかしそれは、携帯端末の表示を指で打つのではなく、生身が動く、さながらショーのようだった。
そしてそれはさながらではなく、観客がいるショーであった。
電子空間ではない。
足元を踏み間違える、一定回数ミスした人間が処刑されていく。撃たれて消えていく。
最後の一人になるまで、あるいは最後の一曲まで、耐久持久走のように続く。それも火に炙られて、やみくもに脚を上げ続けるダンスの類いではなく、小粋な音楽が流れ、指定される升目を踏んで、舞うのだ。音の多彩な複雑な、それでいて終わりが決まっていない体力測定のシャトルランのように、延々と、踊り続けなければならない。
だが、最後まで残ることができたなら、多額の金と賞品を得られる。
中継される、五年に一回の優雅なデスゲームに観客は熱狂した。大多数が、デスゲームの殺戮を固唾を飲んで見つめるというよりダンスショーを鑑賞する気分だろう。
これについては、何が賞杯を、勝敗を分けるのか、わからない。
身体能力か、体力か、舞踊テクニックか、精神力か。
十歳以下の子どもでもできそうな体操のような音楽から始まる。曲の難易度が上がっていき、中盤、曲の最初からリズムが速いものになると、人数は一気に減る。疲れてきたところに、もう脚の動きが、ついていかないのだ。
たいがい、みな動きやすそうな服装で参加するのにこの年は、一人、オシャレな男が居た。ダンス衣装のスーツのようなファッションに、帽子《ハット》まで被っていた。
生中継を見て、おれは、聞いてない、と思った。これに出場するとは聞いてないが。おまえ。
何のためかは知らないが、金が必要だと聞いてはいた。なんとか工面できないかと頭を悩ませていたのも知っている。
賭けも同時開催されている。もし残れたら、自分に賭けられた分を、取り分として、何割かもらうことができる。だから紹介のカメラに向かって、自己アピールし、勝つからぜひ賭けてくれるように言う奴もいる。
これまでは、オシャレな服装で出場する奴は中盤まで保たないのが多いから、賭けでは人気がないのに彼は紹介のカメラに、目線を送ったあと、近くのマイクをもぎとって名乗って、流れるようにウインクまでした。ずいぶん余裕である。
このショーで、ここまでアピールする奴はいなかったので、賭けでも大穴として、急激に盛り上がっている。
知り合いが、デスゲームに出場して、どう見ていいやら。わかるわけない。ミスして、撃たれて回収されるのを見たくない。
本人には言ってないが、おれは彼が好きだった。
なぜこんなことを、と生中継を見ているしかない。
彼は始まりは準備運動みたいにこなし、中盤もラフにタップダンスするノリで、人数が一気に減った後には、やっとエンジンかかってきたなというように動きにキレが増す。
持ち曲であるみたいに、彼は踊って、最後の数曲には素早くターンする動きも入るのを易々とこなす。
ラスト、一人になったあと、独壇場で中継のカメラが正面からとらえると、帽子《ハット》を押さえ「どう、驚いた?」と言いそうな、あどけないような笑みを浮かべ観衆に向けて、指を動かした。
おまえ、デスゲームで……と思った。
周りが撃たれた際の返り血にやや汚れたスーツの衣装で、彼は優勝インタビューに応えた。
『――オレに当たったのが、アンラッキーかもね』
と彼は今年の参加者を振り返って笑って言った。
あまりに、莫大な金を抱えて、彼は帰ってきた。
生還したあとに、彼が頼んだのは、いつものホットチョコレートだった。
ひとくち飲んで、ソファにだらっと伸びる彼を見ながら、この先、好きって、言っても、うまく伝わるかなと思った。金目当てかと思われてしまうかもしれない。
あとあと、おれの気持ちはバレていて、彼は「キミにファンサしたのに……」とぼやいた。
いや、おまえ、デスゲームでファンサはするな。
(注釈)
「一定回数間違えると撃たれる」の部分はリチャード・バックマン(スティーヴン・キング)の『死のロングウォーク』(1989、扶桑社)からです。『死のロングウォーク』はとてもおもしろいので読んでください!
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