中国配信と実名登録と

"noteを使い始めるきっかけとなった可愛い人に"

01. はじめに

 2024年02月09日(金)、X(旧称Twitter)上で一つの話題が議論の的になっていました。
 中国での動画配信やSNS投稿にあたって、
「配信者・発信者の実名公開が必要なのではないか?」
「いや、公開不要なのではないか?」
「ツイートに個人情報を含んでしまった」
などなど。

 この話題、多くの人が想像するよりずっとデリケートな問題だと思います。
 米中対立深まり、VRや通信含む先端技術、新興技術でも激しく火花が散ってる昨今、下手をすると、外交問題になったり配信者が中国へ渡航した際に身柄を拘束される事態になりかねないからです。

 もちろん、そんな事にはなって欲しくありません。
 それは、交流のある、ねむちゃんちもさんはもちろん、交流のない配信者さん達全てについてもです。
 また、事と次第によっては、今後の #VRライフスタイル調査 にも、悪影響を及ぼしかねないとの懸念も頭に浮かびました。

 そこで、まずは私自身が状況を理解する為に調べると共に、次に今後のVR業界の為に結果を公表してはどうかと考えるに至った次第です。

02. 実名取り扱いの基準

 大きく二段階の基準があります。

 一つが、法律による取り扱い、もう一つが、配信プラットホームの利用規約による取り扱いです。
 違反した際、前者は、刑事罰を伴う事があり得ます。後者は、違法ではないものの、アカウントがBANされるなどがあり得ます。

03. 中国政府の意向

 基準のひとつが法律だと書きましたが、その前段階である中国政府の  "意向"(原文では指導意見) として、「インターネットを通じた作品発表・配信行為全般について、実名を政府へ申告して欲しい」という思いが存在します。

 アカウント等の実名登録が求められるのは、ここに大元の理由があります。
 ただし、実名を公表する事まではこの段階では求めていませんし、意向であって法律ではない為、実名登録しなくても違法ではなく、強制力もありません。

 この "意向" の原型が公表されたのは、2015年01月08日、原典は、"国家知識産権網" だそうです。
 私自身は、"中国政府、インターネット発表作品の実名登録制導入へ"(文献8)で知りました。

 また、文献8ではそれ以上の事を書いていないのですが、アカウント登録に実名が求められる一方、実名を公表するかは、配信者自身の自発性にゆだねるとの原則が存在します。
 この辺りの詳細を知りたい方は、"国家网信办发布《互联网直播服务管理规定》"(中国サイバースペース局より《インターネット生放送サービス管理規定》公布)(文献13)を読んでみてください。
 だいたい中ごろにそのあたりの記載があります。

04. 法律での取り扱い

 実名登録が中国の法律 "そのもの" に書いてあるかと言えば、、、実は、書いてないでしょう。少なくとも記載を見つける事は出来ませんでした。
 しかし、実名登録しないと違法になる場合があります。
 「一体、何を言っているのか?」と疑問を持たれる方も多いでしょう。

 一般論として、法律そのもの(狭義の法律)には、大まかな方針のみ書いてあり、細かい事は、省令・条例・通達などの段階を経て具体化するという事が法体系の構造となっている為にこのような事態が発生します。

 そして、今回も、"通達" で実名登録などの具体的事項が定められています。
 この為、実名登録そのものが法律に直接書いてあるわけではないのですが、実名登録していないと違法性を問われるケースが出てきてしまう事になるわけです。
 つまり、省令・条例・通達を含む、"広義の法律" に書いてるとの認識であれば、誤りではありません。

 で、その通達はというと、"国家广播电视总局 文化和旅游部关于印发《网络主播行为规范》的通知"(国家放送局文化観光部による「インターネット配信者の行動規範」の発行に関する通達)(文献9)です。
 この、第3条において、実名でアカウント登録する事が定められています。

 次に、Vtuberの扱いについてですが、巷の記事では、Vtuberも対象だとする記載をしばしば見かけます。
 通達における記載では、同1条において、AIを用いた仮想配信者にも適用される事が記載されているわけですが、AI配信者をVtuberとして扱う記事は、この部分を誤訳した可能性が高いと考えます。
 中国では、日常TV放送でAIキャスターにニュースを読み上げさせる事が以前から行われていますので、こちらでの用途を念頭に書かれたものというのが本来の姿ではないでしょうか。
 つまり、日本で言う所のVtuberとは、別の存在に対する記載です。
 直訳すればVtuberにならなくもないのですが、意訳では異なりますし、そもそもVtuberは、Virtual YouTuber ですから、Youtubeに限定しない時点で用語として本来不適当です。

 とはいえ、自身をAIとし、Vtuberの始まりでもあるキズナアイさんの登場が2016年ですから、考えようによっては、誤訳じゃないとの見方もある意味正しいとも言えるわけで、そのあたり「日本のせいで今の通達になった」と言われたらそうかもしれませんww

 日本で言う所のVtuberについてですが、実は、これも含まれるでしょう。
 というか、AIでない人間(法律で言う所の自然人)については、職業ニュースキャスターも、企業所属ネット配信者も、個人配信者も、特に区別したり限定している様子が読み取れないからです。
 単に "主播"(日本語の配信者を表す中国語) と書かれています。

 では、じゃあ、日本人が中国で配信する時に実名登録しなければいけないかというと、実はそうとも限りません。
 というか、法的には、原則として個人は対応不要だと考えます。

 理由は、この法令が中国法だからです。
 中国法が対象とする範囲は、"原則として" 以下のいずれか一つ以上が当てはまる方に限られます。

  1. 中国の国籍を持つ自然人 (※居場所は問わない)

  2. 中国に居住する自然人 (※国籍は問わない)

  3. 中国に拠点のある法人・組織 (※従業員の国籍や居住地は問わない)

 まあ、厳密には、外交特権による例外とか、旅行者とか、留学生とか、他にも色々あるのですが、日本の個人Vtuberは、そこまで知らずともそうそう困る事は無いでしょう。
 もし、そのあたりに不安を感じる様であれば、中国法に詳しい弁護士さんか、JETROさん、外務省さんあたりに相談されると良いでしょう。

05. プラットホーム利用規約での取り扱い

 中国企業による中国国内向け配信プラットホームでは、当然ながら、前述の中国法を前提とした利用規約になっているでしょう。
 だから、基本的に実名登録を行う形式になっていて不思議はありません。というか、法にのっとった形を目指したらそれが本来の姿です。
 少なくとも中国籍の方は、やらないと違法になってしまうでしょう。
 ただ、日本に住む日本人なら、利用規約違反になる事はあっても、ほとんどの場合、違法にはならないと思います。

 利用規約違反になるかどうかですが、これは、規約がプラットホームごとに異なると思いますので、利用するプラットホームの規約をよく読んでほしいです。

 規約の中に、「実名登録が必要」とか、「中国法に従う」とか、その様な趣旨の文言が含まれる場合、実名登録しないと規約違反になってしまうと考えます。

 巷の記事で「・・・フォロワー50万人~100万人の登録者は・・・」とか書かれているのは、それらの記事を一件一件確認したわけでないものの、恐らく規約に基づいた話なのではないでしょうか。

06. どう対処すべきか

  1. 日本に住み、かつ日本国籍を持つ個人配信者
     まず、利用規約は、細かい点までしっかり読んだ方が良いです。 
     そして、利用規約上必須でなければ、実名登録も実名公表も必須じゃないと思います。
     ただ、実名登録した方が中国側で波風は立たないでしょう。
     一方、「中国の配信プラットホームを利用しない」という選択肢も選ぶ事が出来ます。

  2. 中国に拠点のある法人に所属する、日本在住の日本国籍配信者
     実名登録はした方が良いと思います。
     配信者個人は、しなくても違法じゃないでしょうけども、会社が違法性を問われかねません。

  3. 中国に居住、または中国籍を持つ配信者
     実名登録すべきでしょう。
     しないと、恐らく違法になってしまうと考えます。

  4. どこにも当てはまらない方
     実名登録しておけば、その件で違法性を問われるリスクはないでしょう。
     実名登録したくない方は、中国以外の配信プラットホームを利用するか、中国法に詳しい有識者に相談されるのが良いと思います。

07. おまけ

 中国法では、他にも個人情報の扱いや技術提供、反スパイ法などで、取り扱いの難しい所が少なからずあります。
 また、近年、法令の整備・改定が急速に進んでいる為、常に知識をアップデートしておく必要もあります。

 配信活動を行うにあたっては、実名登録に関わる中国法だけでなく、個人情報の取り扱いや、技術提供など、他の部分も知っている事で、様々なリスクを回避できたり、配信者についての法規制をよりよく理解する事につなげられるでしょう。
 今後、中国で配信活動される方は、別途改めて "中国輸出管理法関連資料"(文献10)、"中国輸出管理法関連資料"(文献11)も併せて読まれると良いかと思います。

08. 謝辞

 中国法に関して、今回もCISTECさんやJETROさんの記事に頼らせていただきました。いつもありがとうございます。

 中国法原典については、中華人民共和国の公式webサイトを確認させていただきました。日本からでも確認できる状態の公開に感謝を。

 今回の記事を書くきっかけとなった最初のツイートは、ねむちゃんのものです。きっと、広くVR業界の為に役立つでしょう。
 また、私がnoteを使い始めるきっかけというか最後のダメ押し?もねむちゃんです。
 いつも、陽に陰にありがとうございます。

09. 参考・引用・出典・出所

  1. "中国の動画配信に関する市場調査", 2023年01月, JETRO

  2. "中国の映画・テレビに関する市場調査", 2023年02月, JETRO

  3. "中国のアニメに関する市場調査", 2023年02月, JETRO

  4. "中国の音楽に関する市場調査", 2023年03月, JETRO

  5. "中国の出版に関する市場調査", 2023年03月, JETRO

  6. "中国のゲームに関する市場調査", 2023年03月, JETRO

  7. "中国のメタバース市場におけるプラットフォーマーに関する動向調査", 2023年03月, JETRO

  8. "中国政府、インターネット発表作品の実名登録制導入へ", 2015年01月08日, JETRO, 2024/02/09(金) 閲覧

  9. "国家广播电视总局 文化和旅游部关于印发《网络主播行为规范》的通知"(国家放送局文化観光部による「インターネット配信者の行動規範」の発行に関する通達), 2022年06月23日, 中華人民共和国 国家广播电视总局 文化和旅游部

  10. "中国輸出管理法関連資料", 2017-2024, CISTEC, 2024/02/09閲覧

  11. "米中の新輸出規制等の動向", 2019-2024, CISTEC, 2024/02/09閲覧

  12. "note投稿企画「仮想現実での生き方」を考えよう【VRライフスタイル調査】", 2023年12月18日, バーチャル美少女ねむ/Nem, 2024/02/02/09

  13. "国家网信办发布《互联网直播服务管理规定》"(中国サイバースペース局より《インターネット生放送サービス管理規定》公布), 2016年11月04日, 中华人民共和国国家互联网信息办公室, 2024/02/10閲覧

  14. "著作権表示", 2006-2023, Wikipedia, 2024/02/10閲覧

10. 変更履歴

△0 : 2024/02/10 初版公表

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・ハッシュタグ #VRライフスタイル調査 つけていますが、"note投稿企画「仮想現実での生き方」を考えよう【VRライフスタイル調査】"(文献12)の企画投稿用という事ではありません。


サポートって何のことかまだよくわかっていません。 Youtubeで言う所のスパチャの様なものの事でしょうか???(汗)