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酔いの口 そのニ :「なんで知ってるの?」

久々に高校時代の友人と合い、懐かしい話に花が咲きました。毎年年末とGWには必ず集まっていたのに、ご時世柄中々会えずでしたので嬉しい限り、飲んだ飲んだ。
で、そんな中会った友人Aさんのちょっと怖い話を思い出したので書いてみました。
この話(1992〜3年)、実はこの後20年くらいかけて解決?していく事案の始まりのお話。
続きはまた、ポツポツ書いていきます。
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Aさんが高校3年生の時の話。
埼玉県大宮市(今のさいたま市大宮区)で少し広い戸建に住んでいたAさんは、祖母と父母、弟と犬の5人と1匹暮らし。

初夏の晩のこと。
友達と遅くまでヤンチャして遊んでいたAさんはこの日も深夜に帰宅し、自身の2階の部屋のベッドにそのまま倒れるように大の字に寝転んだ。

まだ週末までは遥か遠く、明日も学校が待っている。
漠然とした不安と思春期特有の恍惚感、そして「やれやれ」という少しの諦め。様々な感情が浮かんでは消え、ゆっくりと混ざり合いながら、そのまま微睡みに落ちていった。

………。

どれくらいの時間が経っただろうか。

連日の寝不足のお陰で、ここ数日は叩き起こされるまでほとんど朝まで目覚めることがなかったAさんだったが、この日は何故か眠りが浅く、そして得体の知れない違和感を感じていた。

寝た時と同じ仰向けのまま、ゆっくりと目を開ける。部屋は暗く、どうやらまだ朝までは時間があるようだ。

「今、何時だろ…。」

枕元の時計に手を出そうと思った時にある事に気が付く。

「(?体が動かない…)」

意識はハッキリとしているが、体がピクリとも動かない。
所謂「金縛り」である。
同時に頭の先から足先にかけて、まるで雷が落ちたかのように悪寒と発汗が駆け抜ける。

Aさんは以前「金縛りは何回か経験があって、それを解くコツも知っている」と話していたが、この日の違和感と体の反応は初めてのことだった、と後日語っている。
この時は”いつもの”金縛りではない事は、瞬時にして理解していたという。

動かない体、ハッキリした意識の中、暗闇に適応してきたAさんの「眼」。
徐々に、その違和感が浮かび上がる。

初めに認識出来たのは「長い髪の毛」だった。
鼻先三寸、と言わんばかりの距離に髪の毛の先端がぶら下がり、揺れている。
暗闇に慣れピントが合い始めたAさんの眼は、その先にある顔、そして正面を向いて全身に覆いかぶさるように宙に浮いている女の全貌を映し出したのである。

「(!!!)」
確かに今、自分の上には女が覆いかぶさっている。
正確には女の足先はAさんの足の指に触れるか触れないかの距離に位置し、顔の位置はAさんから30〜40cm程の距離であろうか。斜めに宙に浮き、真っ直ぐにAさんを見下ろし、そして何故か睨んでいる。
脳が恐怖を認識する手前、理解不能のステイタスのままAさんは手の指先に一心不乱に力を入れ始めていた。これが「金縛りを解くコツ」であり、この行動を繰り返す事で回避した経験から、既に体は本能的にこのアクションを繰り返していた。

女はその表情を変えずに、無機質に、しかし確実にAさんを睨んでいる。見覚えはない。

徐々に指先が反応を示し全身に力が入り始める。
「(!!!)…ぷはぁぁあ!」
指先の力がトップギアに達し、それが全身に弾ける感覚と同時に、一瞬にして金縛りが解けていった。
そこからはAさん自身が、そして女がどうなったかは覚えていないと言う。


翌朝、Aさん朝食を取りながら、
「変な事があってさぁ…」と、昨晩起こった事を祖母と母に話してみた。夢のような気もするが、やはり割り切れない。妙にハッキリとした部分が多すぎるのだ。

しかし案の定、祖母も母も半信半疑、朝の忙しさもあり結局ほとんど相手にされなかった。
「やっぱり寝ぼけてたのかな…」Aさんは苦笑いしながら食器を片付けようとした時、隣で朝食を取っていた弟が、少し震えた声でポツリとつぶやいた。

「兄ちゃん、それ、何で知ってるの….?」

昨晩、弟も全く同じ体験をしていた。

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