実況パワフルプロ野球2018_20190909205744

出てこい圧倒的セカンド。パワプロでも「脱・田中賢介」を


※これは「文春野球 フレッシュオールスター2019」に応募した原稿に修正を加えたものです。選考結果は「惜しい!あと一歩だったで賞」ということで残念ながら本選進出とはならなかったのですが、文春野球という野球好きの中でも味の濃いところが集まる舞台で、ゲームという自分のカラーを出した原稿が一定の評価を頂けたことは大きな進歩かなと思っています。

書いたのが6月末なので今とは状況の異なる点もありますが、恐らく世界初のパワプロ野球コラムとして寛大にご覧いただけたら嬉しいです。


出てこい圧倒的セカンド。パワプロでも「脱・田中賢介」を


今シーズンのオリックスでは攻撃的走塁を掲げるチーム方針のもと、西浦と佐野の若手野手が快足を飛ばして外野手争いに参戦している。阪神ではルーキー近本の活躍が話題を攫うが、同じ新人である木浪の二遊間へ割って入る勢いも見逃せない。

こうしたポジション争いは若手の、そしてチームの成長に欠かせない要素であり、その争いがハイレベルになればなるほど勝ち残って定位置に座った選手の自信になる。今絶対的なレギュラーとして君臨している選手たちもポジション争いを制して定位置を掴み取ってきた。

若手による生き生きとしたアピール合戦を見ているのも楽しいものだが、必ずいつか、誰かがこの争いに勝利して決着を迎えなければいけない。

そんな中で、結論を急ぎたいポジションがある。

日本ハムのセカンドだ。


北海道日本ハムファイターズのセカンドと言えば恐らく今の野球ファンは殆どが田中賢介を思い浮かべるのではないだろうか。ベストナイン6回を誇る好打者がファイターズ史上に残る屈指の名選手であることは議論の余地も無い。だが、そんな田中賢介も2019年シーズンを最後に現役引退を表明している。

だから結論を急ぎたい。このままでは『パワプロ』でセカンドがいなくなってしまうのである。


ポップにデフォルメされたキャラクターでお馴染みの『パワプロ』こと『実況パワフルプロ野球』シリーズは12球団の選手が実名で登場する野球ゲームで、プロ野球ファンなら誰もが一度はプレイしたことがある名作だ。近年は選手の表情やフォームも非常に多彩になり、ゲーム性も高まっている。

そんな『パワプロ』は今やNPBとコナミデジタルエンタテインメントの共催で、話題の「eスポーツ」としてプロリーグも開催されている。選び抜かれた熟練の『パワプロ』猛者36名が12球団の代表として各球団を使用して対戦し、2019年の1月に開催された「e日本シリーズ」ではセ・リーグ王者のDeNAを退けて西武が初代プロリーグ日本一の栄冠を手にした。

この「ebaseball プロリーグ」はゲームとは思えない白熱した展開とドラマ性で大いに盛り上がったのだが、この魅力を深く語るのはまたの機会にしたい。

問題はこのパワプロのプロリーグ、日本ハム代表チーム。道産子の選手3名で構成されたチームは日本ハムの選手を巧みに操りAクラス進出の好成績を残したが、ここで主にセカンドの守備を任されたのは田中賢介だった。

まだ「脱・田中賢介」は出来ていない。


背景として『パワプロ』ではゲーム内のパラメーターにおいて守備能力が高い選手が貴重になりやすい仕組みがある。単純に「ポップタイム2秒を切る強肩」や「50mを5秒台で走る俊足」という数字が出ればルーキーや一軍経験の無い若手選手でも良い数値を設定されやすい。

それに比べて守備力そうは行かない。アマチュアでどれだけ守備評価が高くとも、実際に一軍の試合である程度の試合数を守ってみないと高い評価をするのは難しい。逆に一度高い評価を得ることが出来れば、例え怪我や不振でファーム暮らしが続いても打撃ほど明確な数字の衰えが分かりづらいので能力値の現象は緩やかになる。「上がりづらく下がりづらい」能力なのだ。

今では球界最高の守備力を誇り、100段階で95という破格の数値を誇るライオンズの源田選手ですらルーキーとして初登場した時の守備力は60だった。守備力を評価されるには一軍で定位置を掴んである程度の試合数をこなす必要がある。


100段階で50が平均的能力とされる『パワプロ』で、今その50をセカンド守備能力でクリアしているのは田中賢介と中島卓也の2人だけ。田中賢介の引退が迫る今、セカンドのレギュラーがズバリと決まり、セカンドを任せられる選手が出てきてほしいというのは、実は『パワプロ』を遊ぶファイターズファンからの切なる願いなのだ。


セカンド争いを振り返れば、スタートは田中賢介が渡米した2013年シーズン。まず当時は内野手だった西川遥輝が天性のバットコントロールと易々と次の塁を奪う俊足で飛び出したが、守備の面で安定感に欠き現在地のセンターに落ち着いた。同時期には中島卓也が安定した守備を披露していたが、チーム事情に合わせてファーム時代からの「本職」であるショートへと戻っていった。

その後ユーティリティープレーヤーである今浪隆博や杉谷拳士も一時はスタメンに座って持ち味のバッティングを披露したが固定に至るほどのインパクトは残せず、2015年に田中賢介がチームに復帰すると共にスッポリと同位置に収まったが、結局後継者問題は未解決で先送り。

2017年、その田中賢介の不振を機にセカンド争いは再燃。この時はルーキーの石井一成が大型セカンドとして期待されたが、後半戦は太田賢吾、渡邉諒、横尾俊建、杉谷が加わり固定されず。結局田中賢介が守備位置に着くことも多かった。

この「セカンド戦国時代」は2018年シーズンも続いたが、後半戦からは徐々に渡邉諒がスタメンへと侵攻を始める。一時は打撃を活かすために外野コンバートも経験した渡邉だが、再び内野手として、そして強打の右打者として思い切りの良いプレーで定位置を大きく引き寄せている。


2019年シーズンも折り返しが近づき、やはり一歩前に出ているのは渡邉だ。交流戦では甲子園でグランドスラムも放ち、『パワプロ』でもパワー能力のアップと「満塁男」の特殊能力が期待できるかもしれない。

バイプレイヤー性が魅力の谷内亮太と石井はオープン戦の好調を取り戻せば、既に他のポジションで高い守備力を評価されているのでセカンドの守備力は上がりやすいはずだ。横尾はズバ抜けたパワーを誇るが、日本ハムもうひとつの激戦区サードに戦いの場を移したか。両打席本塁打の離れ業を演じた杉谷は稀有な「意外性」の特殊能力を獲得し、『パワプロ』では抜群に起用が増えると予想されるが、ユーティリティー故に1ポジションの守備力が伸びるような起用にはならないかもしれない。

このまま渡邉の逃げ切りか、杉谷か、石井と谷内が盛り返すのか。あるいはファームで爪を磨く有望株がここから大逆転を演じるか。

いずれにせよ今シーズンが終われば田中賢介は引退する。田中賢介の糸を引くようなライナーと球際の強い守備が見られなくなるのは寂しいが、セカンド問題をアメリカから帰ってきて解決してくれることはもう無いのである。

自分の好きなチームを使って現実と同じオーダーを組むことでリアリティある『パワプロ』をプレイしたいという気持ちはファンなら一度は持つ感情のはず。だからこそ、定位置を掴み確かな守備力を持つレギュラーが必要だ.

出てこい、セカンド。

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