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7/3 歌稽古

a new musical『ヴァグラント』がいよいよ始動。

始動したということはつまり、作り手である僕の役割は多くの部分で終わっているということ。
稽古場とかに行っても「ぶらぶらしている暇そうな人」もしくは「なんかご満悦そうにニヤニヤ笑う人」としか見られない心配があるので、ちょっとでも役に立つように稽古レポ的なものを書いてみようかと思う。
宣伝になれば何よりだけど、それより僕が面白いと思ったことを誰かに話したい、という意味合いが強い。

舞台畑の人たちからしたら何言ってんだ、みたいな表現もあると思うけど、あくまで僕にはこう見えたって感じなんで、ある程度は多めに見てもらえるとありがたい。

7/3 『歌稽古』

13:00 玉置さん


「歌稽古」が始まっているのは知っていた。7/1から1週間くらいの期間で。
もちろん自分の詩曲が初めて、舞台で歌う人の声で聞ける機会なので行きたいなと思っていたけど、「本稽古」の前の「歌稽古」って、自分らでいうと「リハーサルのための練習」みたいなものだろうから、そんなところに俺なんかがズカズカとこられたら迷惑だろうな、と遠慮していたのである。
が、この前の日に、音楽監督のさゆりさんから「ぜひ、いらっしゃってください」とLINEをいただいたので、しめしめとばかりに初めて稽古場に潜入。

都内某所にある演劇用のスタジオ。
小さめの体育館くらいの大きさか。
スリッパに履き替えて。

13:00過ぎ
平行に置かれた長テーブル、さゆりさんの向かいには「アケミ(※)」役の玉置さん。
ヤマにある酒場「ル・ラパン」のママ。きっとショーが売りのキャバレーみたいなところだろう、と想像。そこのママだからクセは強いはず、ということで玉置さんに託した曲はヴァグラントの中でもかなりクセが強めのものになっている。
僕が遅れて到着した時には、そのソロ曲のお稽古は終わっていたんだけど、せっかくなんでと歌ってくださった。
歌い終わって「アケミはこんなふうに歌うんだ」と感動していると、さゆりさんが「あれ、晴一さんがいない時は結構クセ強めに歌ってたのに」と。玉置さんはそういうのも得意なんだと。
玉置さんによれば、僕が初めて聞くということで、割とストレートに歌ってくださったみたい。楽曲リスペクト、ありがたい。
でも、クセ強め、というバージョンがあることは判明しているので、本稽古になって聞けるのが楽しみ。


15:00 上口くん

上口くんの番。

坑夫たちの無産運動を牽引するリーダー、譲治役。

ヴァグラントはトキ子、政則、そして譲治の幼馴染3人が織りなす物語。
トキ子、政則は、シュッとした美男美女ということになるだろうと想像はしていた。そのバランスでいうと、石炭で真っ黒になった労働者である譲治は、ジャイアンみたいな感じかなと勝手に思ってたら「譲治も男前かい!」と、ヴィジュアル撮影で上口くんを見た時に思った。
でも、カメラに映る譲治は、男前ながらも、やはり無骨に熱い思いを持つ男として立っていて、さすがだなと思った。

ソロ曲。結構難しい曲なんだけどバッチリ歌いこなされて。
しかし歌い終わった上口くんから「ちょっとキーが高いんですよね」と。
まあ、確かに。
でも、高い音も難なく歌えてたし、綺麗なビブラートだったし、なんか問題があるのかなと思っていたら「役の声とのバランスが」と上口くん。
なるほど、そうか。
譲治は坑夫で、演出次第では低いドスのきいた声で喋る可能性もあって、そいつが突然、ハイトーンの美声で歌うと、そこまで小言を言っていた母ちゃんが、電話に出た瞬間に声が変わる、みたいな唐突感が出かねない、ということか。面白い。

この一点をとっても、歌としての歌と、演技の一部の歌では捉え方が全然違うのねと勉強になる。

この場では板垣さんの演出(※)によってキーは考えようということに。

17:00  礒部、大月、 山田、酒井、杉山(真)、大泰司、大川(敬称略)

この日が大月さんの誕生日ということで、稽古ピアノの熊谷さん(※)の演奏にあわせて、ハッピーバースデー。

山田さん、酒井さん、杉山さん、大泰司さん、大川さんが、いわゆるアンサンブルと呼ばれて(板垣さんはカンパニーと呼称する)時に女中、時に女房、時に坑夫(婦?)といったように、物語の世界を我々に具現化して見せてくれる。なんというか舞台の妖精といった存在か。
そして声を大にして言うけど、俺の好きな「ミュージカル感」というのは、アンサンブルの方々の声だったりする。(と、この日、改めて実感)

音楽としての音楽(ポップスとか)でのコーラスは、シンプルに音楽的なニーズによって施される。サビではボーカルラインに厚みと広がりが欲しいよね、といった感じで。
ボーカルが自らオーバーダビングで声を重ねていくことも多いのは、曲の中に主役以外の登場人物を増やしたくない、という意味もある。

一方ミュージカルのコーラスは、それとは違う色合いを持っている。
劇中の会話だったり、メインで歌ってる人を後押ししたり、逆に批判したり。それを表現するためのコーラス。

つまり、アンサンブルの人たちの声の塊は、まさにその時、舞台の上で表現されている感情の塊となってこっちに響いてくるので、ミュージカルを見ていて熱くなるんだと思う。

こういう発想でコーラスラインを作るから、さゆりさんの肩書きはただの編曲ではなくて、ヴォーカルデザインとなるんだと納得する。

しかしみなさん歌がうまい。

18:30 お先に失礼します

挨拶がてら、ちょっと稽古を見学させてもらおうかなってくらいで行ったのに、面白すぎて長居してしまった。18;00に予約していたジムはサボることになったけど、当日キャンセル料を払っても惜しくはない楽しさはあった。

【アケミという名前】
違う学校だったけど、ちょっと不良の「あけみ」さんに近い名前の先輩がいらっしゃいまして、そこからいただきました。なぜ10代の頃って年上のヤンキーの女性がめっちゃセクシーに見えたりするんですかね。

【演出家という存在】
さゆりさんも経験豊富なミュージカル業界の音楽部門の女王みたいな人(たぶん)で、一つ一つの歌が劇中で持つ意味合いを深く理解されている上で、歌唱指導をしているけど、最終的には演出家の意見によってそこからさらに変わるという。
歌に限らず、衣装や舞台も演出の板垣さんが不在の場合「板さんの決めることだけど」っていう言葉はよく聞く。そういうもんなのね。

【稽古ピアノ】
生バンドが入るのはまだ先で、歌稽古はピアノで。稽古場にはアップライトピアノ。熊谷さんはジャズピアニストのこと。
歌唱指導、音合わせの際、細かく止めてはリクエストし、すぐにカウント(というか、さん、はいっ!で)で曲に戻るさゆりさんの呼吸に合わせて伴奏ピアノを弾いてくれる。
メロディ確認だから低音ルートだけ弾くとか、ハーモニーのラインの確認だからコードを弾く、みたいなことを阿吽の呼吸で行っているのは、やっぱりプロの仕事だなと。

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