【作品紹介】第1回 ファイナルラップ!

サークル”白水の小説棚”にて執筆した作品を、インタビュー形式の体裁でご紹介して参ります。

第1回は、当サークル最初の旗艦作品にして、パブーで3,000ビュー越えを記録。

現在も白水の小説棚を象徴する作品として評価されている、ミニ四駆ラノベ『ファイナルラップ!』です


もちろん真剣に挑むのは一番大切なことだけど、ミニ四駆はアマチュアスポーツの世界だから楽しんだもん勝ち。一時の勝った負けたでムキになっても損するだけよ。レースできることを存分に楽しんで、そして決勝の舞台に立てることを感謝して喜ばないとね(後町凪沙)

――まずは主人公の遥斗(はると)についてですが、没個性な感じもする主人公ですね。

 はい、そこが狙いとなっています。

 あまりにキャラが立ってると、感情移入しにくいかなっていう(笑)

 遥斗はストーリーの中では、どちらかといえば読み手と同じ、傍観者に近い立場だと思います。

 彼自身よりも、彼を取り巻く人々が繰り広げる人間群像こそが『ファイナルラップ!』(以下、FR)の心髄という感じなので。

――対して、ヒロインの瑠貴(るき)は表紙も飾ったり出番も多いような印象です。

 表紙については、ヒロイン表紙の方がビジュアル的にウケがいいのかなということで、かなり早い段階からそのように依頼していました。看板娘的な発想です。

 もうストーリー的には、ほとんど瑠貴が主人公ですよねw

 あまりお嬢様すぎるとキャラが立ちすぎてしまうことから、庶民的な性格のお嬢様といったイメージにしています。
 
 あと、現実問題として良家のお嬢様はミニ四駆みたいな庶民過ぎるホビーはやらないと思うので、その辺の摺り合わせも意識しています。
 朱音(あかね)をはじめ活躍する女性キャラはかなり多いので、コミティアの「ヒロイン☆ふぇすた」のメインで出しても良かったんですが、諸般の事情で自重しました。

――その朱音ですが、ある意味で優遇キャラですよね。

 FRが完成お披露目したのが2014年の春(刊行は夏)なのですが、その時点では成人女性のジャパンカップ王者はいなかったんですよ。

 でも数ヶ月後に実際に女性レーサーが本当に日本一になっちゃったっていうのがあって……まあ顔見知りでしたので、レーサーの立場からすればよかったねぇと思う反面、作家的な立場としては正直参りましたね(笑)

――現実の公認競技会とは、設定が違う部分も見受けられます。

 作品が完成したのは先に申し上げたように2014年です。

 時代とともに参加規約もレギュレーションも変わっていますので、どうしても時代が進むにつれて整合性のつかない部分が出てきてしまいます。

 作品から結果論として未来を当ててしまったのは、オープンクラスが有料化されたことかもしれませんね。

 500円という金額まで一致していることには正直参りました(苦笑)

 しかし有料化案は少なくとも私が確認する限り、2010年頃から既に一部で言われていたことなので、かなり昔からの問題ともいえます。

 そのような議論があったという、後世へ遺す証言資料という意味合いも込められています。
 1次予選の通過証に青色タスキが使われていることもそうで(注:実際には偽造や盗難等の問題から2013年に廃止された)、記録として後世に伝えるべきと思い敢えてタスキとしています。

――作中に「かつての第三次ブーム」「かつて存在したチャンピオンズ」とありますが、いつごろの時代の話となりますか?

 特に設定はないんですが、今活躍している世代が全員引退してさらに次の世代の末期、ぐらいを想定はして読んでいただけると良いのかなと。

 にしてはえらい諸々とローテクなんですが、まあパラレルワールドなので勘弁して下さい(笑)

 現行のチャンピオンズ制度に関しては、作品がほとんど書けてから後出しジャンケンで出された制度なので、作品内で整合性をつけるには完全に手遅れの状態だったんですよね。
 スルーしても良かったんですが、そこを突っ込まれるのも癪なので困った挙げ句、仕方ないので時代が大きく下って廃止されたという設定を急きょ追記しました。
 モーターもまさか、トルクチューンやアトミックチューンが廃盤になる(名称が2に切り替えられた)とは全く予想してなかったんですが、時代が下って2は略されるようになった、ということにしていただくしかないでしょうね(笑)

――スカイドラゴンサーキットは難しそうですが、現実に作られてもおかしくはない構造ですよね。

 あまり現実離れしたセクションを加えてもリアリティがないんで、2013年当時で実在した5レーンのセクションから組み合わせています。

 しかし、こんなの現実で組まれて練習なし一発勝負で合わせろと言われても、非常に難しいでしょうね。
 例えば2022年時点で主流のMSフレキ低重心車だと、恐らくトリプルエアロ芝セクションで、人工芝のわだち(タイヤ通過部分を刈り上げて、中央に深いわだちを人工的に作ってある設定です)に車体底面が乗り上げて停止します。

 ポン組でいいんじゃねとかみんな一斉に言い出す予感がします(笑)

 しかし、遥斗や瑠貴を強豪ひしめく中で順調に勝たせていくには、運ゲー要素を強くしておく必要があると思ったんで、可能な限り難しくして運ゲー満点コースにしたというのが実際ですね。

 あくまで作品展開上の都合っていうやつです。

――同人文芸に限らないとは思いますが、読んで欲しいというターゲットとなる層を作品には設定するものだと思います。ターゲットは、やはり現役のミニ四駆レーザーということでしたか?

 うーん、特にそういうわけではないですね。

 この業界には、商業マンガに『ダッシュ! 四駆郎』(作・徳田ザウルス氏。故人)と『爆走兄弟レッツ&ゴー』(作・こしたてつひろ氏)という、絶対的な神作品が存在するのがまず前提としてあります。

 この2作品がヒットした読者層は、当時の小~中学生がメインの子ども達でした。

 子どもはとりわけ純粋というか、自意識や人格形成がまだ成長過程なので、物語作品の影響をストレートに受けやすいんですよね。

 ですので、ミニ四駆の面白さをサポートするための世界観の形成という意味で、この2作品はとても重要な役割を担ったようにも思います。

 そして、その世代が現在社会人になって現役選手として遊んでいるわけですから、まず彼ら・彼女らの思い出としてある世界観は、『ダッシュ! 四駆郎』と『爆走兄弟レッツ&ゴー』のいずれかだと思うんですよね。

 大人というのは自意識やものの考え方もしっかりと固まっていますし、人格形成もできている。

 子どもの頃に培ったミニ四駆の世界観を基盤に、今のレースシーンを既に楽しんでいるわけですから、そこに敢えてミニ四駆の世界観をサポートする新たな物語は不要なのだと思います。

 同じことはFRをはじめ、すべての同人作品全体にも当てはまるのではないかと想像しています。

 現役のミニ四駆レーサーにとって必要とされているのは、純粋に勝つための手ほどきが網羅された技術解説書「だけ」でしょう。

 立体、フラット、コンデレ。

 いかなるスタイルであれ、自分の道を究めてカテゴリの頂点を目指すことこそ、本質的な遊び方であり一番の醍醐味なのですから。

――となると、どのような読者層に読んで欲しいと。

 基本的に純粋に創作文芸作品・ライト文芸ですので、まずはライト系文芸が好きな人や、マンガ等の同人作品が好きな人に読んで欲しい作品かなと思います。

 文芸としては異色のテーマを、いかに文芸作品へ昇華されているか、というチャレンジングな試みということが見所かなというか。
 あとは、ミニ四駆の世界に興味を持たれた未経験者ですとか、逆に嫌な思いをして辞められた方ですとか、ミニ四駆にまつわる世界観がまっさらな人、そして世界観を失ってしまい、新たに世界観を必要としている人……そんな人のためにある作品と考えています。

 ですので、FRはミニ四駆ブーム華やかりし今は、ミニ四駆の世界に限っては必要とされている作品ではないようにも思いますし、ゆえにミニ四駆業界へ無理に売り込もうという作品でもないです。

 ひとつの文芸作品として、地道に評価されてゆくことの方が大切だと思っています。
 
 この作品が真価を問われるのは、みたびミニ四駆が下火になってしまうような時が来たとき、ああ第三次ブーム時代にはこんな作品もあったのか、ちょっと読んでみようかなと見直される時かなと。

 楽しいということを前面に打ち出した作品、という評価をよくいただいているのですが、まさにその通りで、「楽しさの再発見」という要素において、FRが将来評価されるといいなと思っています。

 そして、その「楽しいはず」という強い想いこそが、次の世代にとっての原動力に繋がるはずだと思っています。

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ひとりインタビュー形式って案外難しいですねw

2014年の作品で、2023年で発表9年目を迎えました。今年または来年になりますが、B6版から文庫版へのサイズ変更(ファイナルラップ! BUNKO SPECIAL)の製作も予定しています。

ミニ四駆の改造技術やマシンの性能は頒布開始の2014年当時に比べ、大きく進化しました。

それでも、技術論を土台にしていない故に、色褪せが少ない作品かなとは思います。

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