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上野樹里の説得力ー『陽だまりの彼女』

 越谷オサム『陽だまりの彼女』(新潮社)を読んだ。主人公の男性、浩介が取引先で出会った女性は中学の時の同級生で、かつ好きだったけれど周りの目が怖くて冷たくあしらってしまった女の子、というところから始まるラブストーリーだ。浩介と真緒は付き合い始める。かーわいい。さらに、真緒にはある時期の記憶が欠けていたり不可解な行動をしたりなど、「一体何者なのか?」という謎が深まっていくのでぐいぐい読ませる。とにかく2人がピュアで、こちら(読者)が赤面するラブラブっぷり。手元に本がないため確認できないのだが、同じく越谷オサムの『金曜のバカ』という短編小説集の解説で、「越谷オサムの小説を貫くキーワードは「バカ」である」ということが書かれていた。良い解説だったのに、誰が書いていたかも忘れてしまった。この「バカ」は「バカだなあ」と思いつつ許してしまうような、キュートかつ真剣で、それゆえに不器用な人に向ける「バカ」、だと私は思っている。『金曜のバカ』はタイトル通りバカなことばかりする人が登場しており、傑作『階段途中のビック・ノイズ』は「音楽バカ」な高校生が主人公だ。皆、自分の好きな者や人に忠実であろうとするあまり「バカだなあ」と思われるような振る舞いをしている。『陽だまりの彼女』のふたりもバカップルだと言えると思う。実際に傍から見ていればイラッとするかもしれないけれど、小説だとかわいい。特にラストで浩介が真緒にかけることばには優しさが溢れている。あのひとことが、とっても良い。

 『陽だまりの彼女』は松本潤と上野樹里主演で映画化もされている(『いとみち』も映画化されたし、越谷オサムの小説は映像化にぴったりだと思う)。ここから先は遠慮なくネタバレをするので、未読/未見の方は読まないでほしい。

 小説を読むと、浩介役に松潤は格好よすぎるのではないかなあと思うのだけれど、ふたりの柔らかな感じが映画でもよく出ていた。なんといっても真緒役の上野樹里の説得力。「陽だまりの彼女」の「謎」は、真緒が実は猫でした、というものだ。小学生の浩介に拾われ助けられた真緒は、彼が好きなあまり人間になって会いに来たのである。いじらしい…..。『綿の国星』みたい。映画で表現するのは厳しいように思える設定も、上野樹里が演じていると信じられる。「ああ、猫だったのね」というような。「それは無茶だろ」という感じが全然しない。上野樹里の佇まいで全て支えられている。実際に映像化したら甘すぎてくどいようなところも綺麗にまとまっており、小説も映画も両方素敵だ。

 この本は、高校生の時に読んだミシマ社の『THE BOOKS green 365人の本屋さんが中高生に心から推す「この一冊」』で知った。『陽だまりの彼女』の紹介コメントにあった「読み終わったあと、表紙の彼女の上に〇〇を描き加えたくなりますよ」という文をよく覚えている。確かに、○○を描きたくなりますね、書店員さん。「やっとわかりました」と思いながら、表紙のツインテールの女の子を見ていた。「○○って何?」と気になっていた高校時代からの謎が、やっととけたのだった。

『陽だまりの彼女』

『THE BOOKS green』


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