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『インスタグラム 野望の果ての真実』

(これは昨年8月にブログに載せたものです。ブログの整理にあたり、こちらに移しました)

 なぜこんなにも「スタートアップ」「ベンチャー」が盛り上がるのか、分かった気がした。
 就活をしていた時、「大企業とベンチャーどちらを選ぶ?」「大企業に就職してからスタートアップに転職するのが理想」といった問いかけ、煽るような記事をたくさん見かけた。なぜそれほど極端に捉え、一生の選択であるかのように考えなければならないのか、と思いながら見ていた。
 「アメリカのIT企業」に興味が湧き、読んでみたのが『インスタグラム 野望の果ての真実』だ。ブルームバーグ記者(今「記者」と打ったら「貴社」と変換されてしまった。就活の名残)のサラ・フライヤーが「インスタグラム」に関し取材し、創業期から2019年までを追った本だ。

 すごく面白かった。成功するかも分からないような「スタートアップ」から、フェイスブックに買収され、一大プラットフォームになるまでのドラマだ。起業は、小さなところから始めて、自分の力で一大事業になるまでが「夢」なのかと思っていたが、フェイスブックのような大企業に買われるという「夢」物語もあるのだと分かった。自社の株を買える権利が大きくなったり、親会社のリソースを使ったりとメリットが大きい。普段触れないような規模の数字が動く世界で、想像もつかない。今までぼんやりとしていた「投資家」の仕事も前よりは見えるようになった。調査と取材を重ねて「読み物」としても面白い一冊に仕上げたサラ・フライヤーの凄さ。本文は400ページ強でけっこう分厚い。でもぐいぐい読ませる。多分、巻末の脚注の何倍も読み聞き取ったことがあるのだろう。それを取捨選択して面白い一冊にまとめている。IT企業に関心がある人が読むのかもしれないけれど、新聞記者になりたいと思っている人が読んでも勉強になるのではないかと思った。

 でも一番驚いたのはフェイスブックと大統領選の話だ。トランプが大統領になった選挙で、フェイクニュース問題や疑惑が出ていたことは知っていた。「偏向的だ」と言われたフェイスブック社(もう名前は変わってしまったが)が、「中立」に振舞おうとした結果、トランプ政権誕生を後押しすることになってしまった。「中立」を装うことは結局「マジョリティ」(社会的立場が優位であるグループ)に味方することだ、と最近言われている。それを既にやってしまっていたのだ。
 そして「成果第一」でひたすらデータを集めんとするフェイスブックにも空恐ろしいものを感じた。本の中で紹介されていた、社内に貼ってあるというスローガンは安倍公房の小説みたいだ。あまりに今更だけれど、知ると怖い。フェイスブックを使っているなかで見たあの仕掛けもこの仕掛けも、いかにサービスに時間を使わせるか、向こうが考えた結果なのだ。

 インスタグラムの歴史としても、「仕事話」としても、とても面白い本だった。「世界にインパクトを与える仕事」も就活の時に散々聞いた文句だが、「世界のありよう」を変えてしまう仕事をした人の心中はどうなのだろうか。この本を読む限り、「美意識」を徹底的に追及していたインスタグラムの創業者は「職人」に思えた。


『インスタグラム 野望の果ての真実』

サラ・フライヤー

井口耕二(訳)

Newspicks Publishing

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