見出し画像

お酒はそんなに好きじゃない

 2023年、もっと生活を充実させた方がいいのではないかという気に襲われた。これは会社員になったことが大きいと思う。4月に働き始めてからあまりに疲れ果て、休日は寝ていたからだ。一方で、毎月収入があるということは気を大きくし、仕事のあとに映画を観るという解放感は、高い映画料金を差し引いてもあまりあった。さらに、もっと人付き合いをした方がいいのではないかと感じるようになったのだ。

 私の学生生活は地味だった。もっと前の時代の文學かぶれの学生みたいに、本ばかり読んでいた。サークルは一年と経たず退部し、飲み会にはまったく顔を出さなかった。友人との旅行も一度きり。結果的に人付き合いを避けている状態となったが、研究だけが楽しいのでほとんど気にしなかった。バイトリーダーも学園祭も、遠い場所にあった。

 大学院生のときに休学をしてから、人と会ったり話したりするのは意外に楽しいのではないかと思うようになった。いいアルバイト先を見つけ良好な人間関係にも恵まれたし、大学寮で友人ができたからだ。大学院を修了し会社員という身分になってから、「もっと色々なことを」という気持ちは加速していった。以前のnoteにも書いた通り、私が手を出した趣味は数多ある。    

 その一つに「飲み歩き」があった。恐る恐る新宿や神保町のバー、居酒屋に入ってみた。最初はロックだの水割りだのお通しだのよくわからなかったが、テキトーに注文して出てきたものをみるうちに、どういうものだか理解できるようになった。一人でお酒を呑むことやその場にいる人と話すことが楽しいと思った。「引っ込み思案」と言われる自分も、本当はこんなに話せるのだと清々しかった。休日に一人でお酒を呑むというシチュエーション事態にテンションが上がっていたのだろう。
 しかし、ぼったくられたり一緒にいた人に絡まれたりといった嫌な目にも遭った。バーでぼったくられた、というか足元を見られたのはけっこうショックだった。頼んだお酒やチャージ料を考えても(チャージ料なしとは書いてあったんだけどな)高すぎたと思う。でも諦めてそのまま払ってしまった。馬鹿馬鹿しく、自分が恥ずかしい。ここに書くのもけっこう恥ずかしい。熱がさっと引いていくような感覚があった。そのとき、お酒を飲むことはそれほど好きではなかったのかもしれない、と気がついた。「充実した」気になっていただけなのだろう。やっぱり私は読書や映画や一人でいることが好きだ。それは地味で、傍からみたらなんとつまらない日々かもしれないけれど、別にそれでいいのではないかと一年を経て思ったのだ。一周し、また同じところに戻ってきた。もしかして、多くの人は学生のときにこういう経験をして好きなことを見つけていくのだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?