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留学行く前に読むんだった  『サトコとナダ』

 マンガ『サトコとナダ』を読んで、漫画喫茶の隅で目をうるませていた。
ものすごく良いマンガだった。アメリカの大学が舞台。日本からの留学生サトコと、サウジアラビアから進学したムスリマのナダがルームシェアをする話だ。それだけの4コマで、2人が互いに感じるカルチャーショックや、ナダが信仰するイスラム教、留学生のサトコから見たアメリカが描かれている。

「留学のリアルさ」がとても素敵だ。「色々な文化の人と仲良くなれます」と高らかにうたうウェブサイトとも、留学に行けば急に人生が輝き出すような物語とも違う。サトコはアメリカの文化やイスラム教に驚いたり、「分からない」と感じたりしながら、「そうなのか」と受け止めている。ナダは、自分の信仰と文化についてちゃんと語り、誰が相手でも違うと思ったことははっきりと言う。2人のフラットさと、馴れ合いにはならず相手に敬意をはらっているところがとても好きだ。

 私は、サトコのようにはなれなかった。3巻で出てくる、もうひとりの日本人留学生に近い。「留学に行けば何かが変わるかも」と思い来るも、来ただけでは何も変わらないと気が付き、でも自分の偏見を超えられずに帰っていく。彼女が帰国の際に流した涙は、私のだと思った。そういう留学生もいるのだ。「留学で異文化交流」というのは、そんなにキラキラしたものではない。サトコとナダのように地道に積み上げていくものだ。それは、「留学」に限らずどこでも同じなのではないだろうか。「違う」ところを沢山抱えたまま、でも友達にはなれるのだ。友情に涙が出た。こんな人間関係が築けたらいいな。

監修は西森マリー。「イスラム教への偏見をなくす本が出したいと思っていた」という趣旨のことをあとがきに書いていた。このマンガを読んで知ったことが沢山あった(恥ずかしながら「ムスリマ」ということばさえ知らなかった。冒頭にしれっと書いているけれど)。「イスラム教徒は女性を抑圧している」といった偏見や、ジェンダー平等と信仰についても触れられている。興味を持った人は、ナディア・エル・ブガ『私はイスラム教徒でフェミニスト』も読むといいかもしれない(こちらはフランス在住の医師でフェミニストのエッセイ)。

『サトコとナダ』
ユペチカ 監修:西森マリー 星海社

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